141話 増員の後。
「馬鹿を言うな。戦闘で役に立たない奴を増やしても報酬が減るだけだぞ?」
「そ、そうです!おじさんがいたら私の出る幕はほとんどなくなって報酬泥棒になってしまいます…」
いや、いいかもしれんな。俺達は金に困っていない。大金もあればいいけどなくてもいいという変なメンバーばかりだ。
「二人も罠のエキスパートがいたらマリンちゃんのお父さんが亡くなったところも突破出来ると思いませんか?」
これが聖奈さんの決め手か。片や長年の友人で自分より先を行く目標の存在。片や唯一の家族で後を追いたい娘。二人ともなんだかんだ言ってマリンのお父さんを越えたい筈だ。
ちなみにマリンが物心つく前にすでに母親は居なかったようだ。死んだかどうかも知らないらしい。
「おじさん…私の目標は父の跡を継ぐ事でした。でも夢は父を越えることです!」
「…くそっ。捨てたはずの夢を思い出させやがって。報酬は頭割りだぞ?嬢ちゃん達には悪いが俺は技術と命の安売りはしない主義だ。後、俺よりマリンを優先してくれ」
その優先は危ない時って事だな。任せろ!最初からおっさんより美女を優先するに決まってらぁ!
罠の専門家は報酬がメンバー内で一番少ないのが基本らしい。
もちろん俺達は元々平等にするつもりだったから問題なしだ。
「全て了解しました。こちらからは仲間の事についての守秘義務とリーダーの決定に従う事くらいですね」
「リーダーの決定には従うが…守秘義務ってのはなんだ?」
聖奈さんはこちらの能力について濁しながら説明をした。
「なるほどな。どうやら特殊なパーティのようだな。わかった。脅されても吐かねぇよ」
うん。命がかかったら言ってね?死なれる方が嫌だから。
二人から秘密を守ると返事を貰えたのでわかりやすい転移を披露する事にした。
「ホントか?俺も冒険者暦は長いが聞いた事もないぞ?」
マリンの家にガッシュさんを伴い帰ってきた後、半信半疑のガッシュさんの肩に手を乗せて
『テレポート』
ダンジョンに転移した。もちろんマリンも。
「うおっ!?ホントに移動しやがった!?」
「ここは…3階層ですか?」
「そうだ。なんならオークがいるか見に行くか?」
まだ夢見心地な二人を伴い、反応のあった場所へと向かった。
「ホントにオークだ。しかも12階層じゃねーな」
「ホントですね…」
「納得は出来なくても現実だ。理解できたか?」
俺の言葉に二人が頷いてからマリンの家へと転移で戻った。
初めは俺がリーダーだと聞いて懐疑的な視線を向けてきた二人だったが、転移の後からは何か熱い眼差しに変わった。
マリンはいいけど、おっさんはなぁ…
「これで二人とも理解できたね?」
聖奈さんの口調も元に戻り、長かったようで短かったパーティメンバー探しは漸く終わった。
「ああ…もしかしていつでも20階層に行けるのか?」
「そうだよ。この魔法を使って私達は大陸中とはまだいかないけど、何ヵ国かに拠点を持ってていつも別の国からここに来てるの」
もはや二人は絶句である。
地球の科学力を以てしてもここまでの高速移動は出来ないからな。
「そ、そうか…」
ガッシュさんも漸く搾り出せた言葉がこれだもん。
「二人もウチに来ない?エンガード王国のリゴルドーって言う街にある家でパーティで寝泊まりしてるんだよ」
「父の家が…」
「それはそれ。別に引き払ったりしなくていいからおいで?楽しいし、色んな食べ物が食べられるよ?」
聖奈さんも同年代女子に飢えているようだな。
リリー?あれは感覚が…
「好意はありがたく受け取っておく。だが年寄りが若者の邪魔は出来んし、何より俺は一人暮らしが長いから一人の方が落ち着く。マリンは行ってこい。家は時々見といてやるし、転移ですぐに帰れるんだろ?」
「うん。なんなら毎朝送るよー。セイくんが」
はい。U◯er配達人に任せてください!
その後はマリンも聖奈への敬語はやめたようだ。俺には敬語なのに…ライルにも…
そして俺達はリゴルドーの家に帰った。
マリンの私物を運ぶ時に下着がどうこうあったが…俺は無罪だ。
「美味しい!これ全部セーナの手作り!?凄いわ!」
晩御飯は歓迎会も兼ねて豪勢な食事となった。もちろん今日ばかりはガッシュさんも一緒だ。
「この酒もうめぇ…セイは何者だ?まさか酒神様の使いか?」
「そんなのいるのか?」
いないとの事。世界は広いからいるかもしれんが。
「こんな事なら一人暮らしははやまったか?」
そんな呟きが聞こえた為、送る時には大量の酒をお土産にしようと、新たな飲み仲間に誓った。
「最後はデザートだよ!今日はパンケーキだよ」
「わーい!クリームかけ放題です!」
「私はシロップ多めです」
「俺はバター一択だ」
3人の盛り上がりを見て不思議そうな顔をするマリンに
「あのホットケーキと言うものに自分で好きな味付けをして食べるデザートだ。あれはハチミツだし、エリーが持っているのはホイップクリームっていう甘いものだ。
聖奈に聞きながらトッピングすれば間違いないから教えてもらったら良い」
「ありがとうございます。聞いてきますね」
敬語だ…さっきライルには君付けだったのに俺は未だにさん付け…
まぁ笑顔が見れたからいいか。
「セイはパンケーキを食わんのか?」
「俺には酒があるからな。この枝豆で十分なんだ」
キンキンに冷えたビールに枝豆、初夏の夜。完璧だぜ…
「お前…見た目より年寄り臭いな…」
おっさんに年寄り扱いされたんだが…
「酒が美味いからいけないんだ!」
「そうだな。このビールはエールに似てるが…似て非なるものだな」
俺達にはスイーツなんて似合わないんだよ!ライルはイケメンだから仲間外れだ!
食後のデザートも終わったところでガッシュさんを転移で送って寝る事に。
「俺はライルと寝るから」
「えっ?何言ってるの?みんなで寝たらいいじゃない」
いや、マリンがおるやろぉお!!
大部屋はベッドを三つくっつけているが流石に5人は狭い。
俺はライルの部屋にベッドを地球から持ち込んで寝る事にした。
寝る前にミランが名残惜しそうに裾を掴んでいたのには胃が口から出てきそうなくらい辛かったが仕方ない。
「裏庭に家を持ってくるだと?」
朝聖奈さんから聞かされたのは地球から組み立て式の家を持ってきたいとの要望だった。
「そうそう。すでに部屋が足りないから増やそうと思ってね。大部屋はセイくんの部屋だからね。だから外の部屋を誰のモノにするかって話になるかな」
「組み立ては?」
「セイくん得意だよね?」
はい。私は大工も兼任しています!器用貧乏とは俺の事だ!
「それまでは俺はライルと同室だな。いいか?」
「構わねーよ」
さて。組み立て式の家は地球じゃないとどうしようもないからな。
「今日は?」
「もちろん…マリンの訓練だよ!」
えっ?俺のロマンは先送りか…
ライルとミランを王都に送り、残った3人でエトランゼに転移した。
「俺は構わない」
ガッシュさんを迎えに行って、マリンの家から転移した。
「ここは昨日と同じ3階層だ。付いてきてくれ」
俺はみんなを先導して森の奥地へと向かった。
道中出てきたオークは撫で斬りにした。
「ここならほとんど人は来ない。訓練にはうってつけだ」
俺はいつも魔法の訓練をしていた場所へみんなを案内した。
直接転移しなかったのは偶に魔物がいるからだ。
「じゃあ使い方を教えるね!」
そう言うと聖奈とミランはマリンに銃の扱いを教えていく。
「俺はどうする?」
「ガッシュさんは見ていてくれ。あの武器は飛び道具だ。速度と連射性能は申し分ないと思うけど、威力に難ありだ。多分ガッシュさんなら自前の攻撃方法の方が合うと思うから、驚かないようにあの武器になれてほしい」
初めての火薬の破裂音にマリンが腰を抜かした事くらいで、他にトラブルはなく練習を終えた。
マリン「はっはっはっ!死ねぇ!雑魚がぁ!」
パラパラパラパラッ
聖奈「偶にいるよね。ハンドル握ると性格変わる人。あれと一緒だと思おう?」
聖「こ◯亀の本田さんかな?」
ガッシュ「…あの可愛かったマリンが…」
聖は仲間を見誤った。




