139話 帰還。そして面接官。
3人を地上まで送ってから数日後、遂にミランが帰ってきた。
「遅くなりました。聖奈さんは日本に帰国して、用事を済ませてから戻ってくるとのことです」
「おかえり。無事で何よりだ。聖奈も顔くらい出してから戻ればいいのにな」
飛行機の時間の関係かな?
「ありがとうございます。向こうの事を色々勉強出来たので良かったです。それとエリーさんへのお土産は冷蔵庫に入れておきました」
「エリーは王都の両親の家にいるから明日にでも持って行こう」
しかし…ミランの格好はいいな。どうやら向こうでも聖奈さんに沢山服を買ってもらったらしく置き場所に困っているようだ。
今のミランの格好は白のワンピースに茶色の太いベルト?を巻いている。
地球産の服で美少女に更に磨きが掛かっている…
「向こうでは男どもに変な事をされてないよな!?」
しまった声に出てしまった…
「ふふっ。大丈夫ですよ。セイさん以外の男性などゴミムシ以下ですから」
うん。それだとライルも……まぁイケメンの事は放っておこう。
「そ、そうか。それより場所は決まったのか?」
「はい!とても綺麗でお洒落な場所を押さえる事が出来ましたよ!倉庫も販売店からは離れていますが人目につかない場所を確保出来ました」
よし。うまく行っているようで何よりだ。でもこのまま海外にもたくさん拠点が出来たら向こうでは個別の行動になりそうだな。
俺は会社の運営なんて出来ないぞ…?
「美味しいですぅ!なんですかこれは!?」
翌日、ミランが持ってきたデザートにエリーが歓喜の声をあげた。
「そちらのカラフルなスイーツはロクムという砂糖菓子です。中には豆類が入っていますね」
「これも美味しいぃ!!」
「そちらはハウヴァというものです」
うぇ…俺には甘すぎる…
「カラメルがふんだんに使われていて濃厚な甘さが特徴です」
何だかすっかりスイーツ女子になってしまったな…
「これらはブルガリアのスイーツになりますね。他にもヨーロッパ各国には美味しくて可愛いスイーツが沢山あったのでまた買ってきますね」
「楽しみですっ!」モグモグ
うん。俺はドイツビールでよろしく。
あっ。スコッチもいいな。国王も愛飲してるし。
その後さらに数日が経ち
遂に俺たちの裏ボスが帰ってきた。
「おめでとう!」
今日はライルの誕生日だ。まぁ誕生祝いに日にちと言う概念がないから聖奈さんが帰ってきた翌日なんだが。
俺はプレゼント選びで迷う事がないのでありがたかった。
「サンキューな。セイは用意してくれたか?」
算盤をここまで楽しみにしていた人類が過去にいたであろうか?
「もちろんだ。わざわざオーダーメイドで作ってもらった物だから大切に使ってくれ」
「すげー!!俺の名前が彫ってある!」
それが一番大変だったんだよ。名前を彫るサービスは有料であったが、この世界の文字は当たり前にない。
俺がA4の紙に何度も書いて一番出来のいいモノをそのまま彫ってもらったんだ。
「セイくんやるね…私達の時より力が入ってないかな?」
「……」
やめろ。俺は仲間を平等に扱う聖人だぞ!聖だけに。
「私からはこれです!」
エリーは革の鞘?を渡した。
「おお。ありがとなっ。ピッタリだ」
ライルはそれに長い方の剣を挿した。
「それには乾燥の魔法が込められているので多少濡れていても錆びません!長い方の剣のほうが高価だと聞いたのでそちらに合わせました!」
「ありがとな。手入れが楽になるしコイツも長持ちしてくれるだろうよ」
エリーはナイスな贈り物をしたな。
「私からはこれです」
次はミランのようだ。渡したのは…ドリームキャッチャー?
何故?
「これは向こうの世界で有名な魔除けです。悪夢から人々を守ってくれるそうです」
「いいな!そう言うのは好きだぞ!」
何故かライルには刺さった様だ…確かに迷信や占いとか好きだって言ってたけど。
「最後は私だね!はい!」
聖奈さんは包装された小包を渡した。
「いつも飯を作ってもらっているのにプレゼントまで悪いな?開けていいか?」
「うん!」
聖奈さんが渡したプレゼントは…服だ。
「セイとの色違いか?」
「そうだよ。ライルくんは髪の色と同じ茶色のレザージャケットだよ」
「セイとお揃いかよ…」
口では悪態を吐くが口元や表情が弛んでるぞ!俺にそんな趣味はないからなっ!!
聖奈さんは喜ぶライルを見て、こちらをチラチラ見ながら嫌な笑みを浮かべていた。
頼むから幼児たちに腐を伝染させるなよ…
プレゼントも無事に渡し終えて話しはダンジョンの事へ。
「やっぱりこのままダンジョンへは潜れないと思うの」
「魔物なら対処できるかもしれないけど罠はな…」
「罠で死にたくはないな」
俺は魔物に殺されるのも嫌だぞ?
「冒険者組合に行って聞いてみない?攻略法とはいかなくても何かヒントを貰えるかもしれないし」
「そうだな。後は罠に精通している人を助っ人にするか…」
これ以上仲間が増えても……いや、別にいいか。
翌日俺達は冒険者組合本部に顔を出した。
そこで予想外のことを聞かされることに。
「ダンジョンについて聞きたいんだが」
俺はカードを出しながら受付の職員に話しかける。
「Aランクの方が…ですか?私共より詳しいと思いますが…」
「20階層以降について聞きたいんだ」
職員の話は簡潔だった。
聞かれても何も知らないとの事。
「そう言えばセイ様に手紙を預かっています」
どうしようか相談をしようとした矢先、職員から手紙を渡された。
「何何〜?まさかラブレター?」
聖奈さん。それは今や死語やないか?
誰からだろう?
「サーヤ達だ。『先日は助けて頂き…」
感謝の言葉から始まった手紙には、この3人でやれるとこまでやりたいと言う事が認められていて、答えから言うとこの街…国を出ると書いてあった。
「いつかセイさんにご恩が返せる様に頑張ります…か」
「セイくん何したの?」
聖奈さんが目を細めて聞いてきたがやましい事はしていない!
「先日もライルと助けたんだ。その時に冒険者活動に行き詰まっていたようだから軽く助言みたいな事を伝えたらこうなった」
「へー。まぁライルくんも一緒なら変な事はしてないか」
おいっ!何で俺の方の信用度が低いんだ!
「まぁ良かったんじゃねーの?ここには地元では天才とか何とか言われた連中ばかり集まってきてるんだ。一度外に出れば自分達が普通以上にはやれてるって気づくだろ」
「そうだな。視野を広げてくれたらいいな」
冒険者としてじゃなくてもいい。頑張って生き残ってくれ。
俺が物思いに耽っていると聖奈さんが
「罠に強い人って紹介して貰えますか?」
「えっと…それは依頼という事でいいでしょうか?」
そうだった。Aランク特典があったな。
職員から説明を受けた聖奈さんは依頼を出した。
依頼と言っても無料だが。
それからは毎日俺が組合本部に顔を出して職員さんに確認をした。
そして
「見つかったみたいだぞ」
「ホント?良かったぁ…危うく次の旅の準備を始める所だったよ」
うん。相変わらず俺は聞いてないよ?
「明日みんなで会いに行こう」
「おう」「うん!」「「はいっ!」」
久しぶりにみんなの声が揃ったな…何だかリーダー感が…
「はい。アルカナの探求者の方達ですね。こちらへどうぞ」
聞き慣れないパーティ名を告げた職員について行った。
「一瞬何のことかわからなかったね…」
聖奈さんでも違和感があったのか。こんなお洒落(?)厨二(?)な名前は俺達に縁がないもんな。
「こちらの部屋でお待ちです」
扉の前でそう言うと、職員さんは戻って行った。
コンコン。
ガチャ
ノックの後、返事を待たずに扉を開いた。
部屋の中には何故か3人の男女がいた。
「待たせたな。3人いるが誰が罠に詳しいんだ?」
20半ばくらいの男性と40歳くらいの男性、20歳くらいの女性の3人だ。
俺達は3人とはテーブルを挟んだ反対側に座り、返事を聞くが…
「俺だ!俺は以前23階層まで潜った事があるぜ!」
20半ばの男性が話すと
「俺の方が経験豊富だ!コイツの23階層は入り口までだが俺は24階層の入り口付近まで行った事がある!」
40歳くらいの男性が言葉を被せた。
「貴女は?」
聖奈さんがうるさい男性陣を放置して女性に聞いた。
「わ、私は…20階層に行った事は…ないです」
なんじゃそりゃ…
「だからお前は帰れって言ったんだよ」
40歳くらいの男性が知り合いらしく女性に厳しい声を出した。
「ちょっと待ちなさい。話が読めないからみんなそれぞれに聞くわ。その間は一人ずつ話すこと。破ったら出て行ってもらうわ」
聖奈さんが珍しい言葉使いでこの場をまとめた。
そして3人からそれぞれの言い分(?)とアピールポイントを聞いた。
聖奈「では貴女からアピールポイントを」
ミラン「はい!セイさんは私にとって神様の様な方です!この命尽きるまで側で支えられたら史上の幸福となります!」
聖奈「わかったわ。次は貴女ね」
エリー「はい!セイさんはおやつをくれるので大好きです!」
聖奈「それは私もよ?」
エリー「セーナさんがダメっていってもこっそりくれるから好きです!背徳の味です!」
聖奈「…エリーちゃん。今日のデザート抜きね。セイくんも晩酌なしだよ」
聖「!?なんでだよ!そもそも面接官の練習がしたいっていったのは聖奈やんけ!?」
こうして今日も聖の困難は続いていく。




