135話 飛車角落ちですが、なにか?
「ブルガリアですか?」
聖奈が帰って早々にミランへ告げた。
「そうだよ。セイくんも知ってる国だよね?」
「あれだろ?ヨーグルト」
うん。これくらいしかしらん…はずかちっ!
「…うん。EU加盟国の国なんだけど、治安が程々に悪くて何かするにはいい国だよ!」
それは犯罪を犯しやすいって事だよね?
長閑なイメージしかない国だったけど治安悪いのか。
「そこで国籍を買うの。つまりミランちゃんはそこの国に存在するっていう証明書みたいなものだね!
そして前に説明したパスポートを発行して、就労ビザで店を出す治安の良い国に行くの!」
偽造ではなく国籍を買うのか…
確かに偽造した身分証だと何かある度に偽造を繰り返さないといけないからな。
「それをする為に私とセイくんでヨーロッパ旅行に行こう?」
「俺もか?まぁNOということはないけど」
「だって移動中する事なくて暇なんだもん」
だもんって…まぁ確かに…
「私はどうすれば?」
「ミランちゃんは私たちが現地に着いてから呼ぶね!それまではリゴルドーで待っててね。
エリーちゃんとライルくんはその間は王都?」
「そうですね。両親のお手伝いをしておきます」
「まっ。俺はそれの護衛だな」
予定が決まったな。俺は二人を送って夜を待った。
「何だかこのホテルも久しぶりだな…」
以前に聖奈さんと泊まったホテルに今回も宿泊した。
「聖くんは試した?」
「何をだ?」
「月の神様が教えてくれたヤツだよ」
うん?
「もしかして俺の魔力が異世界産じゃなくて月産だってやつか?」
「ふふっ。面白い表現だね。うん。それだよ」
「試してないな。試せる場所もないし」
「確かに…被害が出ない場所があればいいのだけどね」
魔力視や魔力波は魔力にしか反応しないからこっちで使っても使えたかどうかわからないかもしれないし、弱い生活魔法でも何かあればまずいしな…
もちろん一番重要なあの魔法は試せない。ある意味俺が一番危険になるからな。
「まぁ焦ることはないだろ。出来ることは少しずつ増えているんだ。またでいい」
「そうだね。お腹の子に影響が出たらまずいもんね」
いや、いねーから。
「そうか。聖奈はおめでたか。出産祝いと結婚祝いは贈らせてもらうよ」
「もう!ノリが悪いんだから!そこは『あの時の…』って驚く所でしょ!?」
「そのあの時に一切心当たりはないからなぁ…」
聖奈さんは異世界好きでもあるけど旅行好きでもあるよな。どこか見知らぬ土地に行く度にテンションが高い。
おじさん付いていけないよ…
ホテルに着いた時に一人で寂しくしているかと思ってミランを短時間こっちに呼んだんだけど。。
『こんな素敵な部屋に…二人きりで…』
って言ったっきり動かなくなったんだよな…
月が隠れたらまずいからすぐに向こうに帰したけど。
着きました。ブルガリア。聖くん初ヨーロッパ上陸です。
「というか、初めて行き先を告げられた旅行になったな…これまでが如何におかしかったかってことか…」
「ホントだ…」
いや、何に驚いてるんだよ。
「冗談置いといて、ここは東南アジアと比べてもGDPが低い方だから治安が悪いの。簡単に言えば観光客はカモだから気をつけてね。特に盗難にはね」
「それでパスポートと、ある程度の現金は服の中に入れろって言ったのか。わかったよ」
「まっ。そのお陰で行政の人を買収出来たんだからありがたく思わないとね」
富裕層がいればその10倍貧困層がいるって何かでみたな…
俺はそんな札束で殴る大人にはならないんだからねっ!
もはやなりすましとかではなく、ミランには架空のミランと言う人物を作ってこの世界に存在させるようだ。
良かったよ。なりすましなら誰か消されてる可能性があるもんな…
これも例の税理士さんのツテか?怖くて聞けないよ…
ホテルに到着した後は大人しく夜を待った。
ホテルに年頃の男女…夜まで何もないわけもなく…
「参りました…」
「聖くん…運が絡まないボードゲームは雑魚だね…」
携帯アプリでポーカーや麻雀は全勝したのに、将棋やチェス、オセロに至るまで頭脳ゲームは全敗していた。
「むしろ運だけで負けたのが許せないよ…」
はい。私も世の中の不条理が許せません…
「ここがブルガリアという所ですか。前のホテルの方が立派でしたね」
夜になりミランを連れてきた所、出た感想がこれだ。
そりゃ先進国の都市部のホテルと比べたら仕方ない。こっちは良くも悪くも古い建物が多いからな。
「こっちの建物はミランちゃん達が生まれ育った世界に似てるから刺激は少なくても落ち着けると思うよ」
「そうですね。ここから見える街並みも既視感があります」
こっそり宿を出てミランの分も宿代を払った。
翌日ブルガリアの首都ソフィアの郊外にあるホテルの一室にて密談が行われた。
どうやらこっちよりも向こうの方が危機意識が高いようで俺の同席は認められなかった。
無事にこちらでのミランの出生証明書、戸籍謄本、パスポートを受け取って宿に戻ってきた。
「パスポートも出来ればって頼んでおいたけど貰えて良かったよ」
手間が省けたな。
「後はどうするんだ?」
「私達は旅行者用の短期滞在ビザだからそれが切れる前にミランちゃんの仮の家を借りたら終わりだよ」
ちなみに今回の身分証などの費用はブルガリアのペーパー企業に送金することで終えている。
幾らかは聞いてない。お任せだ。
庶民の俺やミランが聞いても卒倒するだけだしな!
「私はついでにヨーロッパを回ってくるから帰りは聖くん一人だね」
「…俺が暇なんだが・・・」
「私もセーナさんの旅に同行出来ますか?」
えっ…そしたら向こうに帰っても俺が一人なんじゃ…
「うーん。時間がかかるけどいいよ。どうせ他の仕事はないしね」
まぁ、偶には聖奈さんの一人旅を代わってやろう。
帰りは聖奈さんも一人旅だけど。
その後はミランのアパートを借りたり、服を買ったりしながら過ごした。
特別なトラブルは起きなかったが、どうやら起きなかったことがトラブル(?)のようなモノらしい。
俺達は翻訳の能力で現地民並みに言葉が流暢だ。そのお陰か、盗難にも強盗にも遭わなかった。
そしてミランのこっちでの年齢は21歳の設定だった。
『行き遅れではないでしょうか?それは恥ずかしいので聖さんに結婚してもらいます』
とか言って、聖奈さんがダメージを受けていたが、こっちでは未婚も当たり前だと伝えたら残念がっていた。
そんな事があったりなかったりしたが、無事にミラン地球人計画が終わったので俺は帰国の途に就いた。
そして聖奈さんとミランは海外進出拠点を探す旅に出た。
「じゃあ今はセイが一人か」
異世界に帰ってきた俺は翌朝、王都の様子を見にきていた。
「配達も昨日の夜にしたからダンジョンでも行ってくるわ」
「ならエリーも連れて行ってやれよ。親と一緒だとサボれないって嘆いていたぞ」
サボるなよ…
ライルが憐れんでいた為、仕方なくエリーも連れてダンジョンへ行った。
「えっ!?そんなに凄い魔法なのです?というか、私が苦労した魔法の連発を簡単にしないで下さい!」
「それについては悪いな…魔力が尽きないから練習し放題なんだよ。だから出来ただけでエリーの方が凄いぞ」
「えっ?そうです?まぁセイさんがそういうならそうなのですっ!」えっへん
チョロ過ぎてお父さん不安だよ…
「トルネードとフレアボムですか…」
「間違っても使うなよ!?冗談じゃなく死ぬからな?」
「セイさんと違ってそんなに簡単に出来ないです。それに私の魔力量的には不可能だと思うです。
個別になら放てます。でも2発同時で片方が上級魔法は無理です」
そんな縛りがあったのか…
魔力量が少ないって大変だね?ふっ
「ですが魔法の融合は考えた事が無かったのです。面白そうなので私もするです!」
「おお。エリーも必殺技を発明してくれ」
フレアボム一つとっても俺とエリーでは違う。もしかしたら俺とは違う結果になるかもしれないな。
ブルガリアの話ですがあくまでも作者のリサーチに基づくものですので誤解なき様お願いします。
親戚が旅行に行った時に初めて置引きに遭ったのがブルガリアだったのでこの様な登場となりました。
ブルガリアの方から批判がありましたら伏せ字にて対応します。ブルガリアの方が見てくれている奇跡があればですが…
ミラン「聖さん。これに署名をお願いします」
聖「ん?わかった。何何〜!?」
ミラン「何も考えず、名前を書くだけですよ」
聖「これは…婚姻届だ。わかってやってるのか?」
ミラン「はい。セーナさんが『ミランちゃんが渡せば勢いで書いてくれるよ』と言っていたので。この世界の結婚はお手軽でいいですね」
聖 (なんて雑な罠…自分がした時はもっと凝っていたのに…)「ミラン。こんなものが無くても俺達は家族だ」
ミラン「私はこっちでは21歳なので、その様な言葉では騙されません」
聖 (ミランから可愛げが無くなってしまった…)




