128話 白道は神殿に通ずる!
「セイさん達の世界ではそんな場所があるのですか?」
俺の仮説にミランが疑問を投げかけてきた。
「ううん。ないよ。私達の世界の人が考えた、空想のお話だよ」
「そうだな。ここはさっき話した仮想空間にかなり近い場所なんじゃないかな?
ただ仮想空間みたいといってもアバターではなく肉体は本物だけど。
多分ここはダンジョンの意識…もしくは他のナニかの意識内だと思う。
俺達の世界の仮想空間ではもちろんお腹は空かないし、食べても腹は膨れない。そう言う設定はあったとしてもあくまでも設定だ。もちろん怪我もしないし疲れもしない。
しかしここでは怪我はするし疲れる。けど身体は汗もかかない。ようは代謝がない。おかしいと思ったんだ。靴擦れはしたのにガーゼに血がつかなかったんだ」
代謝はないのに怪我をするという事はその内、筋肉痛とかもやってくるかもな。。そして代謝がないから治る事もないと…おお怖っ!
「セイくん。難しく考えすぎだよ。ゲームみたいにそういうルールだと思った方が簡単だよ?」
…そうだな。俺達はダンジョンの秘密を暴きに来たわけじゃないもんな。
「簡単に言うと、寝たり、食べたり、飲んだりしなくていいって事だ。ただ肉体的に疲れるし精神的にも疲れるから適度に休憩だけ取って後はひたすら歩こう」
精神攻撃を重視したゲームだと思おう。
「そ、そのぉ。終わりはいつ来ますか?」
「エリー。二、三日後なのか一年後なのかわからん。そういう試練の場所だという認識だ」
「そ、そんな…」
「嫌なら引き返すぞ?」
「…いえ。みんながいるので頑張れます!」
ミランに至っては俺の意見が最重要だし、聖奈さんは地球の会社の事が気掛かりだが、最悪なくなってもいいと思っていそうだしな。
ライルは…一番やる気があるだろう。死んだ元パーティメンバーの為にも。
俺?俺はもちろん行くぞ。ここには守りたい人達と、気の許せる男友達もいるからな!
一人だと絶対無理!すぐに発狂する自信がある!
俺達はたまに1時間程の休憩を取る以外は歩き続けた。
歩き初めて約一月後
「あれがゴールか?」
これまでずっと白道しかなかったが洞窟のような物が見えた。
「遂に試練を突破したんだね!これでスーパーパワーに目覚めるんだよ!」
うん。それはないと思う。だってひたすら歌を歌いながら歩いていただけじゃん。
ボカロ曲を歌える異世界人は異世界広しと言えど二人だけだろう。
アイドル曲を振り付け込みで覚えさせようとしたのは流石に止めた。
ただでさえ疲れるのにさらに疲れさせてどうするんだよ…
「よし行くぞ」
結局見慣れた洞窟で間違いなかった為、中へと入っていった。
覚悟を決める準備期間が無駄に一月もあったから躊躇なく踏み込んだ。
「何だ?ここは?」
俺のいるところはタイル張りの神殿だ。
イメージし易いのはパルテノン神殿かな?かなり太い円柱の柱が幾つもあり建物を支えている。
白を基調としたデザインだけど青や緑といった色もところどころに使われている。
「凄いね!こういうのだよ!私が求めていたのは!」
「綺麗です…」「何だか身体が軽くなった気がします」
「敵は何処だ?」
聖奈さんは何となくわかる気がする。
ミランは圧倒されているな。ライルは流石冒険者を長くしている。
エリーは…まさか…
『魔力視、魔力波』
使える。
「使えたの?」
「ああ。どうやら試練は終わったようだな」
勝手に試練にしてるけど、別にいいだろう。俺達にとっては試練だったんだから。
「敵はいたか?」
「ああ。この奥にひとつだけ反応があった」
どうやら最後の試練かな?さっきのが19階層ならここは20階層。
つまりここを突破すればAランクになれる可能性がある。
「一つか…もし倒せたら」
「いいぞ。初めにAランクになるのはライルでいい。俺達は成れたらなりたいくらいだからな」
魔石が一つでは一人しか認められないかもしれないからな。それなら一番経験豊富で実力が高いライルがなるのが正しいだろう。
「みんなもいいよな?」
「はい」「おやつください」「もちろん」
どさくさに紛れた奴がいたけど、仲間想いばかりのこのパーティにそんな人はいないから気のせいだろう。
「悪いな」
「気にすんな。それよりも敵を倒す事に専念しよう。まずはミランとライルを先頭に相手がどんな奴か確認しよう」
スコープや双眼鏡で調べてもいいけど、視野が狭くなるからな。視覚外からの攻撃に対応出来ないのは困る。
ライルとミランを先頭にして敵に近付いた。
「金属?のような…鎧でしょうか?」
ミランの説明に俺は双眼鏡で確認した。
「鎧だな。奥には扉があるからあそこが21階層の入り口なんだろうな」
「どれどれー。本当だね。あれが動くならホラー系の魔物か、ゴーレム系の魔物って感じだね」
ゴーレムか…
第二形態とかいって変形したらカッコいいな…
仲間に出来ないよね?
「ゴーレムなら動かなくなるまで破壊しないとダメだな。アイツらは腕を落としたり胸に穴を開けたくらいじゃ止まらない事が多い。油断するなよ?」
どうやらこの世界のゴーレムは魔法式とかが組み込まれたタイプではなくて物質に魔物として命を吹き込まれた存在のようだ。
と、いう事は。ホントに意思の疎通が出来る魔剣とかありそうだな…ほちぃ。
「先ずは対物ライフルで倒せるか試そう。もし効果がなければ撤退だ。
倒せれなかったら聖奈のRPGとエリーのフレアボムで時間稼ぎをしてくれ」
「セイさんのアイスブロックが一番威力がありますよね?」
「エリー。建物が崩壊して下敷きになってもいいなら使うが?」
「やめましょう」
そうなんだよな。建物内だと使えないのが唯一の欠点だな。後、氷として残るのもか。
「それじゃあ行くぞ」
俺は身体強化魔法を使って対物ライフルを構えた。
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッ
全弾を撃ち尽くした。が、さらにリロードしてもう10発撃ち込んだ。
「どうだ?」
「敵の消滅を確認しました。他に敵影はありません」
ミランの言葉に安堵した。
流石にこの攻撃を耐えられる相手と戦う気は起きないからな。
「あーあ。折角のボス戦が…」
軍隊式トレーニングで脳筋になった聖奈さんがぼやくが俺には関係ない!
楽して勝てればそれでいいんだ!
「おい!扉が開いていくぞ」
ライルの言葉に視線を向ければ、ゴーレムが守っていた扉が勝手に開いていた。
この扉も神殿と同じ素材で出来ていて何か幾何学模様のような装飾が施されていた。
「洞窟のようです」
「他には何か見えるか?」
「灯りはありそうですがここよりは暗そうですね」
ここは全体が白いから眩しいくらいだ。むしろ洞窟の灯りは丁度いいかもな。
「どうする?」
ライルの短い質問に
「帰る」
こちらも短く答えた。
「転移できるか試すぞ」
その言葉にみんなが近寄ってきた。
『テレポート』
誰もいない神殿に俺の言葉が響いて消えた。
「戻ってこれたね。多分丁度一月経っているはずだからお店が大変な事になってるよね?」
忘れてた…
「そうだな。どちらにしても外は明るいからまだ地球へは行けない。聖奈とライルは王都に送るから確認してきてくれ。ミランとエリーはバーンさんの所と商人組合に行って不足しているものとかの確認を頼む。俺は水都だ」
「おう!」「うん!」「「はい!」」
久しぶりの外ということもあり、みんなのテンションが高い。ゴーレムの魔石の納品は明日だな。
「ホントに不思議な所だったんだね」
あれから各街の状況を確認して戻ってきたところで聖奈さんのセリフだ。
「そうだな。予想の一つではあったけど、自分が当事者になると信じられないな」
なんと、19階層で過ごした時間は無くなっていた!
俺には靴擦れの傷は確かにあるのに日付はダンジョンに向かった日のままだった。
もちろん各店舗も問題なかった。
「不思議ですね。でも私からしたらエトランゼからここまで一瞬で移動できるセイさんの方が不思議ですけど」
「セイさんがおかしいのは今に始まった事じゃないです!」
エリー。全然フォローになってないし、おやつ抜きだ。ダンジョンが終わってからもな!
「まぁ悪い事じゃねーんだからいいだろ?」
うん。乱暴に片付けたな。
俺も考えるのがめんどいからやめよう…今はベッドでゆっくり寝たい…
聖奈「セイくん何を待ってるの?」
エリー「そうです!早くゴーレムの魔石を拾って次に行くです!」
聖「いや、こう言うボスは第二形態があるはずだ!もしくは合体変形だ!もう少し待ってくれっ!」
ミラン&エリー「…」
聖奈「セイくん。新しいおもちゃ買ってあげるからそれで我慢しよ?」
聖「少年の夢が…」
〜〜〜〜〜〜
エリー「合体変形ってなんです?」
ミラン「第二形態とは?」
聖奈「地球には〜〜って事なの」
エリー&ミラン「!!」
〜〜〜〜〜〜
聖「…何してんだ?」
エリー&ミラン「「超合体ミラエリーです!!」」
そこにはエリーを肩車したミランがいた。
聖「…うん。なんか気をつかわせてごめん…」




