126話 他所の冒険者と聖無双。
【今回の話は視点がコロコロ変わるのでお気をつけください】
ミランの誕生日から3日経っていた。
俺はコツを掴んでからほぼ思い通りに魔法を操作する事が出来る様になっていた。
そして今もダンジョンにいる。
「どうせなら操作が上手くなった魔法でオークでも狩ってみるか」
訓練も大詰めだ。集大成にオークを狩りまくってやろう!
『魔力波』
反応は近くにはないが遠くにはあるな。これも訓練の成果だ。
これまで通り全方位の魔力波で反応がなくても、魔力波を飛ばす方向を絞ればより遠くまで感知する事が出来る様になった。
反応がある方に向かうと結構な数の反応を拾った。
「15くらいの反応が移動しているな。この階層では初めての事だし、確認するか」
12階層のオークは集団だったがここは3階層だ。気になるから向かおう。もしかしたらボスに会えるかもしれんし。
身体強化をすればすぐに追いついた。
「あれは…逃げているのか?」
俺の視線の先にはオークから逃げてるように見える冒険者の姿が映っていた。
side見知らぬ冒険者
「さあ!今日も頑張ってお金を稼ぐわよ!」
私は商人をしている両親に連れられてこの街に10歳の時にやって来た。苦労していた親を見て来たからなのか、職業としての商人には一切魅力を感じなかった。
15歳になると店の手伝いをしながら休みの日を合わせて、私と同じ境遇の女の子達と一緒に冒険者活動をしていた。
ホントは冒険者だけをしたいけど、街のルールで商人をしないと低ランクの私達は追い出されてしまい、ダンジョンには潜る事が出来なくなってしまうの。
「私達にとってはオークはもはや雑魚だねっ!そろそろ次の階層を目指さない?」
この子は同い年のメンバーの中では一番小柄な子。身体の割にはある一部だけメンバー1大きい…解せないわ。
「メイの言う通りかもね。いつまでもここに掛かっていたらBランクになんてなれないもの。サーヤもそう思わない?」
この子は身長も大きく、剣の腕も仲間では1番の子だ。いつも冷静でいてくれるから何かと頼りにしている。
サーヤと名を呼ばれた私は答えを返した。
「そうだね。後6体倒したら今日は終わりにして、次は4階層に行こっか」
この階層で殆どの場合は3体以下で行動しているから戦闘は後2回。
私達の数も三人だから丁度いいんだよね。
いつも通り、森の奥に向かうと前方に3体のオークがいた。奴らは女性を攫う為、私達を見つけたら我を忘れて襲いかかってくる。だから、慣れたら討伐も楽。
「行くわよ!」
「「ええ!」」
二人の返事を聞いてオークの前に姿を現した。
こんなはずじゃなかった。
何で3体以上いるのよ!?
「足を止めないで!」
二人に檄を飛ばしながら逃走を続ける。
まさか後ろからも来ていたなんて…
あの時、飛び出した後、前方のオークに気を取られていた私達は後ろから忍び寄るオークに気付かなかった。
すぐに乱戦になったけど、多勢に無勢。私はすぐに逃走を決断して、二人に伝えた。
「きゃっ!?」
「「サーヤ!?」」
私は後悔の念で頭が一杯になっていて足元が疎かになってしまっていた。
「逃げて!」
「置いていけるわけないわよ」
「そうだよっ!私達は一心同体だって誓い合ったでしょ!」
馬鹿っ!
でもありがとう…
死ぬのが一人じゃないだけでこんなに不安がなくなるなんて…私って酷い人だ。
もうオークに囲まれてしまった。逃げ場はない。
「何で10体以上の群れがいるのかは知らないけど…お前達を一体でも多く道連れにしてやる!」
私達は覚悟を決めた。
side聖
「転んだな…とりあえず様子見だな」
もしかしたらオークを油断させる作戦なのかもしれない。
無闇に他の冒険者の手助けはしないようにって何かの漫画で読んだしな!
「うーん?どうも演技じゃなさそうだな…」
エリーと同じドジっ子属性か?
それならもう間に合っているんだけどな。
「拙いな…押されている。仕方ない。俺つえーするか」
聖奈さん達がいないから俺つえーを見せる人があの三人しかいないんだよな。まぁ仕方ないか!
『身体強化』
俺は木陰を飛び出した。
sideサーヤ
「きゃっ!」
「メイッ!?」
メイがオークの攻撃を被弾してしまった!
「ダメェッ!」
もはや間に合わないから叫ぶことしか出来ない…
ザシュッ!
「えっ…?」
メイに襲い掛かっていたオークの首がない?
バタンッ
「勝手に助けたけどいいか?」
何?誰この人?勝手にって…
「ありがとうございます!討伐を手伝って頂けませんか?」
いつも冷静なジーナがいきなり現れた男の人に懇願している。
「それはいいが、固まっていてくれ。バラバラだと守りきれんからな」
「は、はいっ!」「お願いします!」
二人が勢いよく返事をしている…けど。
「見返りが払えないのでいいです」
「「何を言ってるの!?」」
どうせこの人が助けてくれたのは見返りを求めてのこと。私達に差し出せる見返りなんて…
だから冒険者の男の人って嫌なのっ!
「見返り?いや、別にいらんぞ」
「う、嘘を言わないでください!ただで知らない人を助けるなんて…」
そんなの御伽噺の王子様くらいのものだよ…
「人が人を助けるのに理由が必要か?まぁ気にするんだったらこの窮地を乗り越えられたら、いつか旨い酒を奢ってくれ。これでいいか?」
なによそれ…顔は決して王子様じゃないけど、惚れちゃうじゃないっ!
「はぃ…守ってくださぃ」
もうっ!キャラじゃなく、しおらしくなっちゃったじゃないっ!二人もこんな時に笑わないのっ!
side聖
「人が人を助けるのに理由が必要か?」
聖奈さんなら返事も聞かずに助けてしまうぞ?良かったな!俺が話を聞くタイプで!
なんとか説得し終わった。
後はこの中のどれがボスかだな。
オークキングと違い、体格に差は無いのかもしれんな。
見返りはどうでもいいが、ミラン達にボスを倒した土産話が出来たらいいな。
俺の急な乱入に様子見に移ったところを見ても、統率が取れているのかもな。
「こないならいくぞ?」
こんな雑魚に俺の貴重な時間はかけれん。
俺にはこの後、荷運びという大事な仕事があるんだ!この世界にUb○rがあればトップ配達人の名を欲しいままに出来る男の貴重な時間だぞっ!
シュン
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンッ!
バタバタバタバタバタバタッ
「やっぱり雑魚だな。あっ!魔法を使うの忘れてた!」
2/3も減らしてしまったが後は魔法で倒そっと。
「アイスランス×4」
エリーの連続魔法の模倣だ。まだ中級魔法までだが×4までなら発動出来るようになった。
ザシュッザシュッザシュッザシュッ
オークは倒れる間も無く消えていった。
「あれ?結局ボスはどれだったんだ?まぁいいか。それより…」
俺は三人組の冒険者の元に向かう。まさか四人組だったけどとか言わないよな?
それだとなんかヘイトがこっちに来そうだぞ…
sideサーヤ
「終わったぞ。怪我はないか?」
私の王子様は助けてくれただけじゃなく、怪我の心配までしてくれる人だった。
「は、はい。転んだ時に少し足を擦りむきましたが大丈夫です。それより物凄く強いんですね!ありがとうございました!」
危うく舞い上がってお礼を言い損ねるところだったわ。えっ?なんで跪いているの!?
「見せてみろ」
そう言うと王子様は私の膝を出して…きゃー恥ずかしい!ムダ毛処理はいつしたかしら!?
「少ししみるぞ」
そう言うと何だか変わった容器を取り出して私の膝に液体をかけた。
多少しみたけど、そんなことより私の足元に…
「傷は洗って消毒したから後はこれで押さえていてくれ」
そういって王子様が綺麗な真っ白の布(?)を傷に当ててくれた。
「何から何までありがとうございます。お名前をお伺いしても?」
あっ!そうだ!名前を聞かなきゃ!ナイス、ジーナ!流石よっ!
「俺はセイだ」
「セイ様ですね。私はジーナと言います。傷の手当てをしてもらっていたのがサーヤで、もう一人がメイと言います。
先程はお礼を断っていましたが…私はセイ様なら構いません」
ちょっと!?何抜け駆けしようとしてるのよ!?
「ま、待ちなさい!セイ様!ジーナはダメです!私が…」
恥ずかしくってこれ以上は言えないよ…
side聖
助けたのはいい。手当てしたのもいい。だけどこれは酷いんじゃないか?
「いや、無理をしなくていい。そういうのは大切な人にするんだな。それにいつか会った時に酒をご馳走してくれるんだろ?それで十分だ」
だからそんな思い詰めた顔をして差し出そうとするなっ!
俺は罰ゲームか何かか!?
しかも頼んでもいないのにまた振られるのか!?
くそっ!助けた事に物凄く感謝しているのは伝わっている。
けど、それならもう少しいい雰囲気とかになるだろ!?三人もいたら一人くらい俺の事を気にいる人がいてもいいじゃん?
ここでも『但しイケメンに限る』かよ…
「わかりましたっ!この二人は命の危機に遭いちょっとおかしいだけなので気にしないでください!」
メイは元気っ子キャラか?
「そうか。それならいい。帰りの護衛がいるならついでに付き合うぞ?」
これも何かの縁だしな。それにこの後またオークに襲われて死なれたら寝覚めが悪い。
「ありがとうございます!さっ!こんな二人は置いて行きましょっ!」
「お、おう…」
メイは俺の腕に抱きついて来て歩き出した。
俺はちびっ子にしか縁が無いのか?
まぁミランはこんな風に、みんながいる時には絶対しないから新鮮だけど。
エリーがする時は俺がお菓子を持っているときだけだ。うん。わかりやすい。
メイもクッキー食べるか?
「おいひいれすっ!」もぐもぐ
「そうか。ゆっくり食えよ」
うん。餌付けしてると俺の荒んだ心が落ち着く。
何故か後ろの二人から視線を感じるが…
後でクッキーはやるから心配するな。
俺達はダンジョンを出た。
サーヤ「な、なんでメイが腕を組んでるのよっ!?」
ジーナ「出遅れたわ…」
サーヤ (ジーナもセイ様狙いなの!?武器やアイテムは良いけど男まではシェアしないわよ!)
ジーナ「私はメイの反対に行こうかしら」
サーヤ「やっぱりシェアでも良いわ!」
手のひらクルー




