120話 アリの○コロリ。
「遂にこの日が来てしまったね」
聖奈さんが意味ありげに呟くが、もちろん大した事はない。
「聖奈もそろそろ虫嫌いを治さないとな」
「セイくん。これは嫌いとかそう言うレベルじゃないと思うよ?だって一メートルの蟻だよ?Gならテラフォー○ーズじゃない!!キモすぎるよ!」
うん。確かに俺も第一印象でキモいって思いました。
まぁ試練だよ。試練。
俺達は翌朝、16階層に戻ってきていた。
「昨日話した通りの作戦で行く」
「わかった」「「はい!」」「…うん」
聖奈さん。頑張れ。この階層はアンタの殲滅速度にかかっていると言っても過言じゃないんだ。
作戦と言っても単純なものだ。まずは…
「コイツでいいだろう」
視線の先にいる岩蟻を見て、指示を出す。
「聖奈。頑張って慣れてくれ」
「…うん」
パァンッ
「命中しました。敵消滅です」
消滅しても体液が消えないのはなぁ。まぁ消えたらここの難易度が極端に落ちるから仕方ないか。
「やはりここに向かってきている。他は周囲の警戒。聖奈は引き続き100匹程仕留めるんだ」
「おう!」「はいっ!」「うん…」
酷かもしれないが、頑張って慣れてくれ。さらに言えば、洞窟内の岩蟻が減ってくれたら嬉しい。
多分元を絶たないと無限だと思うけど・・・
「よし。もういいだろう。これより洞窟に向かう」
聖奈さんの顔色は優れないが、最初の頃より躊躇しなくなってきたと思う。死骸が残らないのが本当に救いだったな。
歩いて移動しているとライルが声をかけてきた。
「ホントにやるのか?」
「何だ?やめる理由があるなら聞くけど?」
「あのお嬢ちゃん達が死ぬかもしれないんだぜ?」
「そうだな。死んだら立ち直れないかもなぁ」
「だろ?なら引き返すなら今しかないぞ?中がどうなっているかなんて知らないからな」
そう。洞窟内の情報はない。多分岩蟻を産み出す何かがあるんだとは思っているが…
「俺が立ち直れないかどうかはやめる理由にならないだろ?俺がやめる理由になっても、パーティとしては理由が薄すぎるな」
もし誰か死んだら発狂する可能性すらある。けど、それが理由で前に進めないなら家に引き篭もるしかできんからな。
「わかった。もしそんな未来が来たらぶん殴ってでも立ち上がらせてやる」
「頼むわ。どうやら着いたようだ」
ライルが珍しく隊列を乱してでも話に来たから咎めなかったが…
心配事が俺の事とは…情けないな。
「あれですね」
ミランの言葉にみんなが下を覗き見る。
俺達は洞窟の反対側の崖に立っている。こちらの方がかなり低いから下までは降りられそうだ。
「じゃあ昨日伝えたように洞窟内では隊列を変える。俺とライルが左右に別れる。それを先頭に聖奈ミランが続く。エリーは最後尾で後ろの警戒をしてくれ」
細かいプランなどない。だって中身がわかんないんだもん。
俺はザイルを固定した。まずはライルだ。
「俺はこのままでも降りられるぞ?」
「みんなに手本を見せる意味でだ」
「ん。わかった」
ライルにベルトを通して装着させた。
もちろんライルどころか俺もこのくらいの高さなら飛び降りれる。無理なのは女性陣だ。
ライルが崖の中に身を投げ出した。もちろんロープの反対側は俺が持っているから、ライルの動きに合わせて緩めるだけだ。
そしてライルはすぐに着地した。
「次は聖奈だ。多分得意だよな?」
「もちろんだよ!こんな訓練どころかヘリからの降下訓練もしたよ!」
いや、それは遊んでたんじゃ?
聖奈さんもスルスルと降りていった。
「次はエリーだ」
「わ、わ、わ。高いですぅ」
まぁ10m以上はあるからな。
「頑張れ」トンッ
中々踏み出さないので背中を物理的に押してあげた。
「きゃーーっ」
「壁を蹴るんだぞー?」
「鬼ぃー悪魔ぁー変態ぃー」
おい!最後は関係ないだろ!!事実だとしても。
「さぁ、後はミランだな」
「はい!お願いします」
ミランは怖くないのか、スルスルと降りていった。むしろザイルが無くても降りられそうなくらい動きに澱みがなかったな。
俺はザイルを片付けて、崖から飛び降りた。
ドンッ!
「うわっ!?大丈夫?」
「大丈夫だ」
身体強化を使えばこの程度の高さは問題ない。少し痺れたけど。
「よし!始めるか!」
俺は気合いを入れ直して、指示を出す。
「攻撃後に突入する!行くぞ!」
『フレアボム』
エリーの魔法の後に
『フレアボム』
俺の魔法が追随した。
洞窟はかなりでかい為、爆風の抜けもよく、崩落しないだろう。もし危険な状態になってもダンジョンは時間経過で元に戻る。但し、鉱石はその限りじゃないとライルから聞いた。
鉱石まで元に戻ったら同じ箇所で取り放題になるから誰も危険を犯さないし、国から入場規制が掛かって俺達は入れないだろうな。
ワイルドボアが出る階層の草原も通過して少ししたら元に戻っていたしな。
「行くぞ!」
「おう!」「イエッサー!」「「はいっ!」」
一人軍人が混ざっているけど無視しよう。ツッコんだら負けだからな。
中は洞窟と言われなければわからないくらい広かった。だが不親切にも暗かったのでライトで照らす。
「こいつは便利だな!手が空くランタンみたいだぜ」
「おい!こっち向くな!眩しいだろ!」
「悪りぃわりぃ」
ライルは文明の利器に触れてはしゃいでいるが奥はどうだ?
「魔石があちこちに転がっています。相当数をここで討伐したと言う事ですね」
「よし、進もう」
敵のいぬ間に進ませてもらおう。もし奥から湧いてくるなら一緒だけど、あちこちに湧き点があるなら早く進まないとな。
「音が聞こえます」
「よし。ミラン下がれ。ここからは俺とライルが先頭で行く」
多分ミランが聞いたのは蟻の歩く音だろう。まるで静かな部屋でGがビニールにカサカサカサ…ゾワッ!?
「来るぞ!聖奈!」
パァンパァンッ!
聖奈さんは暗視機能付きのスコープを覗き、狙撃している。
「よし!その調子で頼む!」
そこから500m程進むと莫大な数の反応の塊に近づいた。
「どうやらこの先が目的地のようだな。聖奈、エリー。二人は岩蟻共を頼む。ミランは二人の安全を。俺とライルで原因を叩く」
「りょーかい!早く叩けなかったらRPG撃つからね!」
確実に俺達は巻き込まれるな。却下で。
「行くぞ!」
みんなの返事と共に洞窟を駆けた。
反応のあった場所はドーム状になっていた。
そしてその真ん中に…
「女王蟻?いや女王岩蟻か」
「そこはどうでも良くない!?」
珍しく聖奈さんがツッコミか。しかし気が動転する気持ちはわかるぞ。なんだよこのサイズ感は…
「あの大岩亀より大きいですね…」
そうなのだ。多分全長20mはある。もはや鯨だ。
「動きませんね。先制しますか?」
「そうだな。どうやら後ろの穴から岩蟻が湧いてきているようだから、二人はそこを狙ってくれ」
女王岩蟻の後ろの壁には無数の…数えきれないほどの穴が空いており、そこから岩蟻が出て来ている。多分卵的なモノが孵ったんだろうな。仲間が死ぬたびに孵化するとかキリないんだけど…
「あれが無限湧きの原因ね!わかったよ!」
「行くぞセイっ!」
「おう!」
ライルの掛け声に合わせて女王岩蟻に肉薄する。
『アイスランス』
キンッ
「やっぱりこの程度じゃ効かないか」
思った通り硬かったな。だが大き過ぎてなのか、女王岩蟻は動かなかった。
「セイ!硬すぎるぞ!俺じゃ無理だから任せた!」
「身体強化5倍!」
もう一度身体強化を掛け直して全力で斬り掛かった。
ザンッ!
くっ!かてぇ。
「うおっ!斬れたじゃねーか!やったな!」
「ダメだ!コイツからしたら浅すぎる!」
剣の刃を全部使って斬っても、一番細い脚すら切断出来ん。
「みんなのところへ一旦引くぞ!」
「わかった!」
まさか物理が効かないとはな…効いてるかもしれないけど、反応がないからわからん…
「あれ?戻ってきたの?」
くそっ!馬鹿にしたな!お母さんに言いつけてやる!会った事ないけど。
「剣では歯が立たない。一斉に集中砲火を浴びせるぞ」
もはやこれしか無い。
「俺とエリーはフレアボムだ。聖奈はRPG。ライルは手榴弾を頼む。使い方はミランに聞いてくれ」
俺は手榴弾をライルに渡した。
「セイくん。流石に崩れるんじゃ?」
「俺もそれだけが心配だ。だが半端な攻撃はあの巨体には意味がない。それに他にもこの階層を突破した冒険者は大勢いる。中には大魔法を使った奴もいるはずだから、離れて撃てば大丈夫な可能性が高いと踏んだ」
「俺はセイの判断に任せるぜ」
「わかったよ。爆風からはどうするの?」
それなんだよなぁ。行き場のない圧力はドーム状の出入り口に向かってくるよな…
「あのー。あの穴に逃げ込みます?」
えっ?
「無理無理無理無理無理」
「聖奈は壊れたけど、いい案だ。あの穴なら入れるな」
「決まりだな!」
まずは穴に銃弾を撃ち込む。
その後に穴に入り、タイミングを窺う。
「みんな!準備はいいか?」
それぞれ隣り合った穴に入った。
「「はい!」」「おう!」「うん…」
時間を合わせた時計で、攻撃のタイミングを合わせた。
『『フレアボム』』
プシュー
ヒュン
ドガーーーーーーーーーーン!!
うるせぇえ!!
聖奈「アリ◯巣コロリと殺虫剤とバルサンとかを大量に投げ込んでおけば倒せたんじゃないかな?」
聖「聖奈、忘れたのか?これはバトルモノであって害虫駆除モノじゃないんだぞ?」(そんな事をしたら折角のみんなの特訓が無駄になって作者が困るだろ!)
聖奈「うん。汚物は消毒だね」(そんなことをしたらライルくんの存在価値がなくなるもんね)
聖 (それは世紀末モノだな)「ヒャッハー」




