112話 ぼっち神の使徒もぼっち。これマメな。
「どうだった?」
聖奈さんが聞いてくる。
「元気だったぞ。むしろ私がいない時に死んだら許さないって言われた」
「そう…」
エリーを送って戻ってきたらこれだ。
「聖奈。別に今生の別れじゃないんだ。エリーは強い子だからすぐに戻ってくるさ。それに生活費を渡したら『デザートが食べれます…だ、ダメです!ミランが我慢しているのに…』って、葛藤してるくらいには元気だぞ」
「ふふっ。エリーちゃんらしいね。あの子なら簡単にズルが出来るのにしないもんね」
そう。エリーはドジで時々バカな子だが、真っ直ぐな性格をしている。決してズルはしない。俺が隠れておやつをあげても必ず後で聖奈さんに報告(自慢)して怒られてる。
…あれ?バカなだけなんじゃ?
「俺達は俺達の出来る事をしよう。戻ってきたエリーに馬鹿にされないようにな」
「そうだね。私も立ち止まらないで考えなきゃ」
「ん?」
やばい。リアル難聴系主人公が出てしまって聞き逃した…まさかアルコールの禁断症状で耳が!?
その日は結局、王都やリゴルドーでの用事に費やした。
そして俺にとっての運命の翌日がやって来るのだった。
「何!?聖奈も行かないだと!?」
テンパり過ぎて変な口調になってもうた。
「うん。どう考えても私が一番足手纏いだったよね?」
「それは否定はしないが、別にいいんじゃないか?みんな自分の命をベットしてダンジョンに挑戦しているんだから」
「だけど、エリーちゃんを残して死ねなくなっちゃったじゃない?だから私も出来る事をしようと思って」
いやぁ。エリーはいいよ?多分魔法を鍛えてくれるから役に立つだろうし、何もダンジョンだけのことじゃなく一生役に立つだろうし。
でも聖奈さんは…ろくな事しないからなぁ。特に俺にとって…
「…わかった。どうする?水都でいいか?」
「ううん。地球で」
えっ!?何それ!?まさかダンジョン諦めて地球で経済界のドンでも目指すのか?
まぁこの人の事だから何か考えがあるのだろう…気にするだけ損だ。
「わかった。今夜送ろう。それまではどうする?」
「それまではここにいるから夜に迎えに来てね!」
「わかった。じゃあミラン。行こうか」
まさかミランは大丈夫だよな?
「あの…私も抜けた方がいいと思うのですが…」
「なぁ。泣くぞ?リアルガチで泣くぞ?」
もう尊厳とかクソ喰らえだ。大の大人が声出して泣くぞ?いいのか?あぁん?
「セイくん。大丈夫だよ。ね!ミランちゃん?」
「はい。私達がいなくともセイさんなら大丈夫です」
「えっ?本気?俺一人?」
急にボッチ系主人公が出ちゃったかぁ。
「一つお願いがあります。私達が戻るまで、一人で潜らないで下さい。11階層からはホントで死んでしまいます」
「いや、それ無理じゃね!?」
「セイくん。大丈夫だよ。エトランゼの冒険者組合ではいつもパーティの募集があるから」
俺のコミュ力を知っての狼藉か!?出合え出合え!不届き者である!
「まぁみんなの想いは受け取った。だが俺も強くなるから置いていかれるなよ?」
こうなったら強がり系主人公出しちゃうもんねっ!
「うん!」「はい!」
聖奈さんをリゴルドーに残して、ミランを水都に送った。
その後はエトランゼの家に転移して俺はぼっち冒険者として、エトランゼ冒険者組合本部へと向かった。
一度来たが改めて見てもデカイな…
目の前には質実剛健な見た目の巨大な建造物がある。まるで要塞だ。ここが冒険者組合の総本山。
入り口は巨大な鉄の門だ。これは非常時には閉められるが普段は開いている。
中に入ると冒険者組合とは思えないくらい綺麗で、まるで市役所だ。
テンプレの喧嘩もここでなら吹っ掛けられないだろう。
「すみません。パーティの臨時メンバーを募集しているって聞いたのですが…」
受付にいる女性に聞いたところ二階に専門の課があるのでそこで聞けとの事。市役所じゃねーか!
俺は『人員募集課』と書かれた部屋に入って同じ事を聞いた。
「あちらのボードに条件などを書かれた紙が貼ってありますので、ご自身に合ったものをお持ちになって下さればこちらで受け付けます」
「他にはありますか?」
「こちらが人員募集課の部屋になりますが、並びに人員募集課1.2.3のお部屋があります。そこにパーティメンバーを募集されている方がいますので直談判をお願いします。トラブルを起こしますと最悪除籍になりますのでお気をつけ下さい」
なるほど、道理でトラブルになった話を聞かないわけだ。逆に仲間意識も出来ないから10階層以降の情報が出回らない。能力が無いものが無駄に居座らないから組合としてはいい。のか?
ちなみにダンジョン内は治外法権のようなものらしく、トラブルは自己責任で組合本部も一切介入しない。しかし外にトラブルを持ち出したら最悪除籍だと。
俺は今人員募集課1.2.3の前の廊下にいる。引きが悪いと変なパーティに入れられるんじゃ無いかと心配している。日本人はNOと言えないからな!
「考えてもわからん。奥から行ってみるか」
俺は人員募集課3と書かれたプレートの下の扉を開けて中に入った。
凄いな。
中学校の教室の倍くらいの広さの部屋にカフェのように並べられたテーブルが10程あり、満席だった。
出会い喫茶かな?行った事ないからしらんけど。
どうやら好きなテーブルに行って交渉を始めたら良いらしいが…
うおっ!あそこのテーブルは美女美少女だらけだ!
俺に陽キャの精神の1/10でもあればダメ元で特攻するんだけど…無理だ…
暫く不審者の如くウロウロしていたら声が聞こえた。
「ダメだ!アンタは入れられない」
「何でだよ?おたくらが探している斥候も出来るぞ?それに戦闘も出来るから荷物にはならんだろ?」
「それでもだ。仲間を死なせるわけにはいかない」
スキンヘッドの強面の30くらいの男に冒険者が断られていた。
斥候も戦闘も出来るなんて最高じゃないのか?俺なら是非欲しい。後衛は任せてくれ!たまになら前衛もします!
断られていた冒険者が立ち上がり振り返り目が合った。
「ライルか?ソロはやめたのか?」
ライルだった。確かソロだったよな?
「セイか。なんだ喧嘩売ってんのか?」
えっ?喧嘩!?売るわけないだろ!除籍されちゃうじゃん!
『えっ?セイさんクビになったのですか?じゃあ私達だけでダンジョンに潜ってきますね』
なんて事になったら本気で泣く。
「落ち着いてくれ。事情をしらないんだよ。どうだ?飯でも食べにいかないか?」
こう言う時は下手に出て、物事が落ち着くのを待つのが俺の処世術だ!
別に女をナンパ出来ないからって男をナンパしたわけじゃないから勘違いするなよ!
「ちっ!」
ライルは舌打ちの後、部屋を出て行った。
「ライルの知り合いか?だがあんまりだぞ」
スキンヘッドの男に話しかけられた。カツアゲですか?お金はあります!
「どうしてだ?」
「ホントに知らないのなら聞いてきたらいい。俺は噂話は苦手でな」
どうやらスキンヘッドさんは見た目が怖いだけで優しい人みたいだ。どこぞのアニメの園長先生みたいな人だな。
「そうか。ありがとう。追いかけてみるよ」
どうせ今の騒ぎでこの部屋には居づらい。俺はライルを追いかけた。
組合を出たところでライルの後ろ姿が目に入った。
「待ってくれ。どうやら失礼な事を言ってしまったみたいだな。知らなかったこととはいえ謝る。済まなかった」
「はぁ。別にいい。飯でも奢れば忘れてやるよ」
どうやらツンデレ属性のようだ。誰得だよ!!
俺達は近場の飯屋に入った。
店内は爺さんが一人でしている店で客はいなかった。どうやらライルはここの常連のようで座るなりメニューも聞かずに注文した。
俺はわからんからとりあえず
「同じので」
ザッ!日本人だ!
「ところでさっきの話だが、何があったんだ?」
「お前は…少しは遠慮しろよ」はぁ
溜息が多いと幸せが逃げるぞ。
俺は溜息ついてないけど仲間に逃げられたけど…
料理が来るとそれを摘みながらポツポツと話し始めた。
聖「えっ?聖奈も出て行く?」
聖奈「うん。ミランちゃんもね」
ミラン「はい。セイさんは?」
聖「ミランもかよ…じゃあ俺も…」
聖奈&ミラン「どうぞどうぞ」
聖「何でだよ!?」
ミラン「これがお約束というものなのですか?よくわかりません」
聖奈「そうだね。お約束、又は伝統芸だね。次は押すな押すな!があるからエリーちゃんにしようね」
聖(エリーはいつも女子会でいじられキャラなんだろうな…)
ネタ切れ感が…




