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11話 月の神様は応答なし。







「やっぱり向こうの方がいいよね」


その言葉に胸がチクリと痛んだ。


「そうかもな…でも今は何でも話せる長濱さんがいるから、こっちも悪くないって思ってるよ」


「ふふっ。何それ?悪くない程度の人って事?」


「違う!言葉の綾だ!」


焦って答えてしまったが、長濱さんは気にする事なく続けた。


「私も異世界に行きたいなぁ。もしまた月の神様とお話できたら聞いてみてね!」


「わかってるよ。最初以外話しかけても返事がないから、いつになるかわからないけどな」


たわいもない話が続く。


「私なら商人じゃなくて、冒険者一択なのに。そんなに魔物って怖いの?」


「いや、俺はまだスライムにしか遭遇してないな」


「どうやって倒したの?」


「…蜂撃退スプレーで…」


盛大に笑われた。


「仕方ないだろ?でも冒険者もいいな。どんなもんか確認してみようかな」


「スプレーに火をつけたのは凄いよ。

でも確認は待って!私がついていける様になってから一緒に始めようよ!」


どうやら譲れないものがあるようだ。俺は正直冒険者はどうでもいい。

でも、旅はしたいな。色んな景色や食べ物があるし、何より月が出ればこっちで休めるしな。





暫く後

「じゃあ、明日から残りの胡椒を瓶詰めしたら砂糖に取り掛かるという事で」


「うん。そうしよう。砂糖の依存度は麻薬以上だって言うしね。絶対売れなくなる事はないよ」


長濱さんの言葉を聞けば、何か悪いものを売っている気分になったな…


一先ず地球で売るものは宝石で問題ないとなった。

流石に億とかいったら危ないらしい。

どちらにしても砂糖の儲けで利益は十分にして、地球(こちら)では等価交換くらいの物を考えることとなった。


「もう、お月さま沈んじゃいそうだね」


「そうだな。今日は日を跨ぐことなく沈むみたいだな」


「ねぇ。お願いがあるんだけど」


長濱さんの言わんとしている事はわかる。


「月に願えって言うんだろ?いいよ」


「やったね!私も沢山願うから頑張って!」


月の神様(ルナさま)聞いてたら答えてくれないか?」

「ダメみたいね。残念」


「俺が初めて転移したのは、満月の夜だった。だから多分、満月じゃないと無理なのかもな」


それを聞いた長濱さんは悲しそうな顔から笑顔になり、


「!じゃあ次の満月ね!」


「あとだいたい2週間後だな」


月の出などを記録しているからパッと出てきた。


「長い…」


長濱さんはまるで裁判で長い刑期を言い渡された人の様な顔をしていた。

実際見た事ないけど。


そろそろ送ろうかと声をかけようとしたら、何かを持ってやって来た。

それは高かった冷酒専用のガラスのお猪口セットやないかい!


「明日は授業がないから今日は飲もう!」


そう言って持って来てくれた日本酒を開けた。


「でも、そろそろ帰らないとお家の人が心配するんじゃ?」


「いいの!もう気にしないって決めたの。

前に言ってくれたよね?困ったら俺のとこに来いって。

だからもう、親の顔色を窺わないし、異世界に行けたら大学も辞めます!」


長濱さんはそう言うと、お猪口の日本酒を煽った。


いやいや!俺のとこに来いとかそんなカッコいいセリフ言ってないぞ!?誰だよその寅さん!?

バイトならいつでも来て欲しいとは言ったが…

まあ、全部話した長濱さんを放置する気はないからいいけど…


「わかった。バイトと言わず折半にしよう。大学辞めてもそれなら暮らしていけるよな?

今日は終電まで飲もう!」


ええい!ヤケクソだ!こんな時は酒で流すのが一番だ!


「折半はもらい過ぎ。でもありがとう。身の丈にあった収入で私は満足だから。

でも!異世界には連れて行ってね!活躍するよ!

それと、今日は泊まるって親に連絡したから泊めてね」


身の丈って、俺より貢献しているから半額よりも多いんじゃ……


「泊まるって…どこで寝るんだ?」


「聖くん。女の子が泊まるって言ってるんだから、そこは押し倒さないと!ハーレムモノの定番だよっ!」


いや、そういう所がついていけないんだよ……


「冗談だよーん。私はソファ貸してね。ベッドは流石に新居2日目の聖くんが可哀想だから遠慮しとくね」


揶揄われた…

まぁ、長濱さんは筋金入りのオタクだけど、美人だから経験値が違うよな。

ただ酒飲みの経験値は低い様で、すでに酔ってるっぽいが。


1時間もしない内に酔い潰れた長濱さんをソファに寝かせて、俺は残りを飲んでからベッドに入った。






「聖くん。朝ごはん出来たから起きて!」


えっ?何?長濱さん?!


「そうか…昨日泊めたんだった」


「寝ぼけてるの?ご飯作ったから起きて出て来てね」


父さん、母さん事件です。ついに俺にも朝ごはんを作ってくれる相手が…


すみません。事件など何もないです…

寝ぼけ眼でアホな事を考えていた俺は、リビングのテーブルを見て驚いた。


「味噌汁…ありがてぇ」


挿絵(By みてみん)


二日酔いには最高な、和食の朝定食がそこにはあった。


「ふふっ。まだ寝ぼけてるのかな?でも気に入ってくれたみたいで良かった!」


「ありがとう。うまいよ」


お礼を言った俺はある事に気付いた。


「ごめん。いくらかかった?」


朝飯どころか茶碗もなかったはずなのに、今は手の中にある。


「覚えてないの?朝に買い物行くけどって伝えたら財布渡して来たよ?」


全然覚えとらん!長濱さんは少ししか飲んでないとは言え、高々一升足らずで記憶を無くすとは…


「ごめん。覚えてない…」


「まあ、あのお酒あれだけ飲めば仕方ないよ。

まさか1日で飲むとは私は予想外です」


もう、乾いた笑いしか出ない。

しかしこの味噌汁美味いな。


「おかわり」


やべっ!声に出てしまった!


「はーい。お口にあったかな?良かったよ」


そう言うと自然におかわりを入れてくれた。

女神かな?


「ありがとう。長濱さん」


「待って、長濱さんはもうやめない?聖奈(せいな)って呼んで」


あれ?俺たちそんな関係だっけ?もしかして記憶ない?

俺が口籠もっていると、長濱さんは続ける。


「だって、異世界にもし行けた時に、長濱って呼ばれたら違和感凄くない?

聖くんだってセイって名前にしたんでしょ?」


確かに…そう言う事なら


「わかった。聖奈さん。これで良い?」


「いや、ダメ!呼び捨てにして!」


くっ!何故か押しが強い…


「せいな…」


「うん。聖くん何?」


「いや、今呼べって…」


「ふふふっ。わかってるよ。ごめんね」


また揶揄われた。


「私の名前ってせいなでしょ?異世界風に言えばセーナになるよね?

登録名は絶対セーナにするからね」


「じゃあ俺もセーナって呼ぶよ」


「それはダメ。ちゃんと聖奈って呼んで」


何故か怒られた。解せん……






朝食を食べた俺たちは残りの胡椒を全て瓶詰めにする為、頑張った。超頑張った。

流石数万円分の胡椒だった。


「後は砂糖と大きめの瓶を買えばいいかな?」


俺の問いに、異世界先生は答える。


「うん。私も実際に行ったわけじゃないからまだ他の物はわからないかな。

二人で運べるだけ買おう?」


かなりの量になりそうだが立ち止まるわけにはいかないよな。

どうせ危険度が同じなら、成功した時のメリットが大きい方を選択しろとは、聖奈さんの言葉だ。

アンタ何者だよ……


俺たちは二人で買い出し…もとい仕入れに出かけた。






仕入れでは、始めに聖奈さんのカバンを買った。入れ物がないとな。

カバンは異世界で使っても違和感のないものを買った。

異世界で買えよと思うかもしれないが異世界の革製品のカバンって重いし臭いが……

買った鞄は、地球で女子が持つには若干浮くけど、聖奈さんはあんまり気にしてないみたいだ。

むしろ『コスプレみたい』と言って嬉しそうだった。


その後は激安スーパーに行って大量の砂糖を買った。

後は帰り掛けに百均で大きめの瓶を段ボールごと購入した俺達は、新居(マンション)へと帰った。



呼び捨てにしろと言われたが、やっぱり違和感があるから心の中ではさん付けだ。

心までは自由にされないんだからねっ!!

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