103話 エトランゼ共和国到着!
王都を越えてから丸三日経った。移動時間はそれほどでも無い。食糧支援に時間を取られたのだ。
「でも、ようやく終わりだな」
「はい。村の人に聞く限り、この先には町や村はないそうです」
遂に長かった買い出しの旅を終えたんだ…
買い出しってなんだよ…全然旅して無いじゃん…
「冒険のイメージが変わったです…まさかこんな苦労があるなんて」
「エリー。そのイメージはすぐに捨てなさい」
「しかし、助けられたのはごく僅かでしたね」
「私達が私達にできる限りの事はしたの。胸を張ってもいいんじゃないかな?」
そりゃそうだ。間に合わずに死んだ人は俺たちの事を恨むかも知れないが、そんなの知ったことか。
「俺も聖奈に同感だ。こんなのは自己満足の域を出ないもんだ。だけど一つ言えることがある。
俺はミランもエリーも手放しで褒めてやれる。よくやった」
誰が褒めなくても俺だけは褒めるからな。
「セイくん?私は?」
「…聖奈も。よしよし」
何で同い年の女子の頭を撫でなきゃならないんだ!?
大体俺が撫でて誰得!?
「よし。コントはこれくらいにして先を急ごう」
「コントってなによっ!?」
いや、ツンデレ妹キャラは古いから。
「あれが非干渉地帯…エトランゼ」
最後の村を後にした俺達は遂に目的地に着いた。これまでの馬車の旅とは違い、全然旅で苦労をしていないから達成感はないけど…
いいんだ。現代人には丁度いいんだ。異世界情緒?いらないんだわ。
「ホントに何も無いですね…」
エリーの感想は間違っていない。
最後の村を出てから車で2時間。周りは草木の一本も生えていない地面が剥き出しの大地が延々と続いている。
そこに遠目からポッカリと…いや?ニョキッと?生えたように石…岩?造りの壁に囲まれた街がある。と、思う。
何故疑問形なのかと言うと、無限に思える平坦な大地の為、かなり遠くまで見通せる。ここからは長大な壁が立ちはだかっているようにしか見えないが、多分あれがエトランゼなのだろう。
もし違うなら俺達は全員で幻を共有しているってことになる。
変な薬飲んだんじゃないかって?俺が飲んでいる薬はヘパ○ーゼだぞ?
むしろ酒の禁断症状の可能性が微レ存…
「流石50万人が住んでる街って感じだね!荒地と言うか、障害物も何も無いから道ですらないね!」
そう。どこでも通れる。誰かが整備したんじゃないかと思えるくらい何もない。
「ここからではわかりませんが、壁の高さがリゴルドーの街の倍以上ありませんか?」
うん。俺にもそう見える。何もなさすぎて比較対象がないからわからんけど。
「多分まだ1キロ以上離れているよな?」
「うーん。感覚がおかしいのでわかりませんが、多分…」
そうだな。感覚が狂うよな。でもな、エリーのは車酔いだと思うんだ。
考えてもわからんから向かうことに。もちろん徒歩だ。
小石すらほとんどないにも拘わらず地面は硬い。だからといって乾燥しすぎでひび割れている事もない。
物が無いのはわかる。昔ここには無限に近いほどの魔物が跋扈していたのだ。草すら生えないとはこの事だ。
道が固いのは重量級の魔物がいたからか?わからん。
そいつらは何もない地で共食いでもしていたのか?わからん。
考えても答えの出ないことを考えていたらいつの間にか壁についていた。
「どこから入れるのでしょう?」
「とりあえず一方に歩けばいずれ着くんじゃないか?」
俺の迷推理に他の意見が出なかった為、反時計回りに回ることにした。
歩くこと2時間…
「馬車が見えるです!」
エリーの声に視線をあげると
「ホントだな。壁から遠ざかっているから出てきたと仮定するならもう少しだな」
エリーは元気だ。車酔いでずっと寝ていたからな。
俺が子供の時に酔った時は寝れなかったぞ?これが異世界人と現代人の差か?
「ありました!門は開いていませんが、間違いなく門です!」
木じゃないな…街の入り口では初めて見るぞ。
「鉄の門ですね。よくこんな物を開け閉めできますね」
「そうだな。人力では不可能なんじゃないか?」
厚さはわからんが、縦5m横10mはあるぞ…
ちなみに壁は20m以上ある。俺の今の身体強化魔法じゃ、何をしても越えられそうにない。
「すみませーん!」
聖奈さん。貴女は物怖じしないね。いきなりでかい声出すからビクッてなったじゃん?
その声に壁の一部が開いて人が顔を出した。
丁度学校の3階の窓くらいの高さだ。
「何用だ」
「私達は商人です。中に入りたいのですが、こちらで良かったでしょうか?」
商人だけど商売には来ていない。言わないもん勝ちだな。
「確認の為、開けるがおかしな真似はしないように。ここエトランゼは他の国のように甘くはない」
えっ?いきなり斬り捨てられたりするのかな?
小さな勝手口の様なところが俺の心の準備が出来る前に開いた。
「何も持っていないように見えるが?」
「魔法の鞄です。私達はこう見えてもランク4の商人ですから」
うん。ランク4は俺だけね?唯一のアイデンティティなんだから間違えないように。
「では全員身分証を出せ」
俺達は言うことを聞いて身分証を出した。俺はもちろん商人カード、聖奈さんも商人カード。ミランは冒険者カード、エリーは魔導士協会会員証。
「これは使えない」
「えっ!?嘘ですよね!?」
魔導士協会会員証が返却された。
「エリーちゃん。魔導士協会はナターリアにしか無いから無理だよ。大人しく冒険者カードだそっ?」
エリーはどうやら一人前になって貰える新しいカードを身分証として使いたかったみたいだ。
「この中で正規に入れるのはセイだけだ。他は?」
「こちらのセーナは私の補佐です。この2人は護衛として連れて参りました」
「わかった。ランク4なら問題ない」
良かった。ここまで来て調べた内容が違っていて入れないといういらないトラブルは起きなかったな。
俺達は兵士に案内されながら小さな門…通用口のような所を通り入国を果たす。
門を通る直前、兵士が振り返り
「しかし、いくらこの年齢でCランクDランクの優秀な冒険者といえども、この様な子供を盾にするなど感心できることではないぞ」
「す、すみません…」
盾にはしてません!ホントなんです!
うん。嘘の言い訳にしか聞こえんな。弁解はやめとこう。
すると女性陣が兵士を睨んだ。兵士はその後、手と足が同時に出るくらいキョドリながら案内を終えた。
「何ですか!?あの兵士は!?セイさんが私達を盾にするなどあり得ません!!セーナさん!やりましょう!」
入国するや否やミランが声を荒げて聖奈さんに訴える。
「うん。まずは家族を攻撃しようね。ああいう正義感を振りかざす人は自分より周りの人が傷つく方が効果が高そうだからね」
いや、良い人やん!?
「遂に私達の覇道が始まりますね!魔導士を馬鹿にした罰は死を以て償ってもらいます!」
馬鹿にはしてないだろ?任務に忠実だっただけで。
「みんなやめなさい。俺は何とも思わないから。それにそんな事で問題なく入国出来たのなら御の字だ」
「ですが…私は許せません…よく知りもしないでセイさんを馬鹿にするなんて」
うん。こっちも向こうの事をよく知らないよね?
でも嬉しいぞ。
「じゃあダンジョンで成果を上げて見返さないとな!」
「「はい!」」「うん!」
俺達は遂に目的地についた。
「それにしても中は凄いな」
「そうですね。綺麗に区画整理されています」
「そうだね。他の国では王都や大きな街は敵の侵攻を妨げる為に分かりやすい造りじゃないからね」
ここは何も無い土地だからホントに真っ直ぐだ。京都の碁盤の目の区画よりハッキリしている。何せ遠い筈の反対側の壁がここから見えるからな…
「あの壁は反対の壁ではないです」
「そうなのか?」
「はい。情報通りならあれば第二防壁と言われる、更にダンジョンに近い区画を封鎖する為の壁ですね」
なるほど…スタンピードの為の防護壁は一つじゃないということか。
「あの中にもう一つ壁があります。その中にダンジョンがあると聞いています」
「確かあの壁の中にダンジョンに行く冒険者がいるんだよね?」
「はい。こちら側はあくまでダンジョン都市を支える人達の区画です。あの中に冒険者用の宿屋、食堂、酒屋、武器屋、治療院、雑貨屋…娼館があります」
最後は小さな声だったが聞き逃さなかったぞ!
よし!ここは天国という事だな!
俺達は第二防壁を目指した。俺の天国を…
聖「いえ、お礼は結構です。感謝の気持ちだけで十分ですよ」
エリー「セイさんは外面がいいのです。私達には厳しいのです」
聖「そうか?俺達の世界ではみんなあんな感じだぞ?」
聖奈「そうだよ。でもセイくんが厳しいのは私にだけだよ…」
ミラン「そ、そうなのですか?」
聖奈「そうそう。私が嫌だって言っても…無理矢理…」
エリー&ミラン「えっ!?」
聖奈「お酒を薄めたりするの…」
聖「うん。そんな事だと思ったわ」
補足:微レ存とは微粒子レベルで存在している。かもね?…というネットスラングです。
これを説明するのは少し恥ずかしいですが以前指摘があったような気がするので一応。




