102話 腹が減ると人が変わる。
「えっ?村を周りたい?」
翌日昼前に目覚めた俺に女性陣からお願いがあった。
「うん。あのお爺さんの話を聞いたら他人事じゃないなって思ったの。もちろんみんなね」
「そうか。具体的には何をするんだ?」
三人の話を纏めると、通り道にある村に寄って状況が良さそうならスルー。悪そうなら食べ物を寄付したいそうだ。
「別に金に困ってないからいいけど。でも原因がわからないなら一過性のモノに過ぎないか?」
「何だかどこかの王様みたいな考えだね。流石未来の国王陛下!まぁそれは調べてみないとね!それからだね」
確かに行ってみないとわからんな。
行動力の聖奈。判断力のミラン。車酔いのエリー。
おい!みんな!このなかにいらねー奴がいるよなぁ!?
うん。俺だな。エリーは技術者として必要だし、運転はその気になれば聖奈さんも出来るだろう。近くならエリーも転移できるし旅には支障は無い。
いくら考えても必要ないのは…
いや、必要不必要で仲間になったんじゃないんだ!
それに俺にはデザートを2人に分け与える仕事があるしな!
そう言えばデザートも今はないんだった…
「あそこを曲がった所にあります。ここで降りましょう」
ミランの指示に従い車から降りて、俺は車を置きに帰って、戻ってきた。
一々車を屋敷に転移させなくてもいいんじゃ?
どうせこんな所は殆ど人が通らないんだし…
もちろん聖奈さんとミランに却下された。
エリーはどっちでもいいらしいが…多数決に勝てん…
多数決はダメだって前に決めたのに…
民主主義には勝てん…
俺達は道を逸れて村へと向かった。
ここの村は外から見る限りエンガード王国の村と変わりはないように見える。
木の柵と空堀に囲まれた見る限り長閑な村だ。
「こんにちは!」
聖奈さんが門の中に声をかけた。そう。昼間なのに門が閉まっていたのだ。
「誰だ?」
中から何某か問われる。
「旅の冒険者です。村の中に入らせてもらえないでしょうか?」
「悪いが村には入らせられない。分けられるモノもない」
二言も言わせない程の断り文句だ。どうする?
「知っています。それの調査に来たのです。もちろん徴税官でもないので安心してください。後食料も支援できます」
何の調査かな?別に何の権限も、依頼もないよね?
「…ホントか?」
何やら門の向こうで話し合いをしているらしい。身体強化魔法を使っていないから内容まで聞こえないが。
すると木の門がゆっくりと開いた。
「さっきは済まなかったな。食糧の支援は助かる。正直限界でな…」
「いえ。まず何を恐れていたのですか?」
そうだな。飯が無いならせめて森に獣を狩りに行くとかするだろうからな。
「隣村の元村民達だ。向こうはこっちより食糧事情が厳しくてな。遂には残った若者が野盗になってしまった」
「そうでしたか。入っても?」
村の中に入る事に成功した俺達は広場にて事情を聞いた。
やはり蝗害ではなかった。単純な気候による水不足と猛暑で不作となり、春を待てなかったようだ。
ここは田舎なのでこの国の王都などの情報は皆無だったが、この地域を収めている領主もかなり厳しい状況で、2月に一度くらいの割合で徴税官が食糧を徴収しにくるようだ。もちろん大勢の兵を連れて。
「山にいた鹿や猪などももういなくなってしまった。
うちの村も口減らしをしなきゃならん状況だ」
そう話してくれたのは40歳くらいの男性で今の村長。前の村長は口減らしの為、自害したらしい。
やべぇな食糧難…
「心中お察しします。セイくん」
「ああ」
俺は雑用係。魔法の鞄から家にストックしておいた食糧を取り出した。
「少ないですが春までもう少しです。頑張ってください」
「驚いた…何も持っていなかったから嘘でもつかれているのだろうと期待していなかったが…それは魔導具か?」
「はい。貴重な品なので黙っていてくださいね」
聖奈さんは一応口止めしていた。まぁこんな小さな田舎の村では噂は広がらないだろうけどな。
村長は藁にもすがる思いで、俺達を入村させたんだな。
村の人口は現在40人。俺たちが持って来た食糧では一月分くらいしかない。
後2ヶ月もしない内に春がくるがあくまで春が来るだけで、いきなり食糧難が解決するわけではない。
「どうするんだ?」
「一度王都か水都で仕入したいかな。出来れば隣の村の分まで」
うーん。そこまでする必要があるのか?確かに助け合いは大事だし、必ず必要だと思うが…
一方的過ぎないか?
まぁ、多数決に勝てないから従うけど。
俺も見殺しにしたいわけじゃないから。
「わかった。じゃあ今晩はみんなでリゴルドーに行こう。水都でもいいけど、爺さん達に言った手前…」
「そうだよね…帰りづらいよね…」
うん。他人なら構わんけど、身内だとちょっと恥ずかしいな。子供達に野宿も出来ないと笑われたらイメージが…
いや、俺にはロクなイメージがないからいいのか?
その夜、村を出た俺達はリゴルドーの家に行き休んだ。
久しぶりのベッドは俺達を深い睡眠に誘った。
「じゃあ私は王都で集めるね!」
「ああ。頼む。俺とミランは水都だな」
二手に分かれて食糧を買い集めた。魔法の鞄は聖奈さんに持たせた。水都には馬車があるからな。
俺達は馬車を3回満車にするくらい買い集めて、聖奈さん達を迎えに行った。
聖奈さん達は魔法の鞄は使わずに店に配達させていた。
ずるくない?
そんなウ○バーみたいな事出来るのかよ…
え?大量に買えば大体の店で出来るって?
ミランさん。そういうのは早く教えてね。
sideミラン
その日の夜、また女子会なるものが開かれました。
女子会と言うのはうら若き乙女が男子禁制で行うお喋りの事だとセーナさんから聞きました。
「ミランちゃん?知ってて買い出しに時間を掛けたでしょ?」
うっ…やはりセーナさんは誤魔化せなかったでしたか…
「はい。セイさんと水都を馬車で揺られるのは楽しかったです」
「もう。開き直ってるし…」
「ミランずるいです!私もセイさんと馬車デートしてみたかったです!」
「エリーさん。その後、屋敷での荷物の積み下ろしが3回ありましたよ」
「やっぱりいいです」
はい。エリーさんはセイさんと、というより馬車デートがしたいだけですよね。
「セーナさんは向こうの世界で2人でドライブしたと聞きましたよ」
「うっ…セイくんのお喋り…」
女子会は基本楽しいです。ただ誰かが抜け駆けをするとたちまち吊し上げの会になるので気が抜けません。
side聖
「じゃあ行くぞ」
買い出しを終えた翌朝、みんなを村の近くに転移させた。
食糧は魔法の鞄に詰めている。後は往復あるのみだ!
「ほ、ホントにいいのか?返すアテはないぞ?」
村に行き、隣の村の分まで食糧を提供した後、村を後にした。
村人には過剰に感謝されたが実際に向こうの立場に立つと過剰ではないか。
子供や口減らしの対象の親の命を救ったのだから。
「名乗ったけど大丈夫か?」
「別に悪い事をしてるわけじゃないんだからいいでしょ?」
まぁそうだけど…
ここはカッコよく『名乗るほどのモノじゃない』って言いたかったなぁ。
「よし、ここまで来ればいいだろう」
俺は車を取りに転移した。
その後は何事もなく進み、村を見つけたら食糧を支援して回った。
無くなればまた買い出しだ。ちなみに皇国にも買い出しに行ったが…やはり何事もなく、聖奈さんがガッカリしていた。
『トラブルもないんだからもう皇国を名乗るのをやめてよね!』
それはあんまりだろ…
この食糧難の国の名はザイール王国。人口150万人の小さな国だ。全てがエンガード王国の半分くらいの規模だ。武力は低いが農業に特化した国で、近隣国はこの国から定量輸入している。
何故定量輸入が成り立つかと言うと、武力の弱いこの国の生き残る為の外交政策だ。ようは他国に足元を見られている。
不作だと今回のように国が破綻しかねない。これを機に輸出入の条約を見直してくれ。
国民が死ねば国も無くなるからな。
「凄い行列だね…」
「あれには並びたくないぞ」
「地獄のようです…」
「迂回をお勧めします」
うん。ここはミランリーダーの意見に従おう。
俺達の視線の先にはザイール王国の王都が見える。王都に向かう行列が凄まじいのだ。
なんならテントを張って並んでいる。それ並んでいるっていうのか?
王都の門は固く閉ざされている。多分王都も大変なのだろう。
「流石にあれを助ける食糧はないな」
「うん…いくら今までの王都に比べて人口が少ないといえど5万人以上の食糧は買えないね。買った街が食糧難になっちゃうもん」
これは近隣国に任せよう。今まで圧力外交で良い思いをして来たんだ。少しは返してやれ。
「じゃあ人がいなくなるまで歩くぞ」
俺達は王都を横目に通り過ぎていく。食糧難の怖さを目に焼き付けながら。
女子会にて
エリー「二人だけずるいです!私だけドライブデートお預けです!」
聖奈(嫉妬してるエリータソカワユス…)
ミラン「エリーさん。ドライブという事は車酔いになるという事です。そもそもエリーさんの方がずるいと思います」
エリー「何でですか!?」
ミラン「バイクという乗り物に2人乗りしてましたよね?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
聖奈「っていう事があったの。エリーちゃん一度も口で勝ってないのに、何度も挑戦して面白いよ!」
聖「うん。女子会は良い。だが内容が俺なのはやめて」
聖奈「じゃあ今度ミランちゃん達を連れて、男の子と遊んできてもいいの?」
聖「聖奈。そんな事をしたら俺は引き篭もるぞ?いいのか?」
聖奈(いや、脅し方…情けなっ!)
後書きの小話が長い時はネタが思いつかない時です!覚えていてください!
本編が長い時は考えが纏まらない時なのです!忘れてください!




