1話 酔っ払い異世界へ行く(説明回)いや、プロローグです…
「やばい…やってしまった…」
今日も酒を飲んでいたら、寝過ごしてしまった。
俺は東雲聖21歳大学生だ。
地元の大学へ行けという親を説得し、都会の大学に進学して2年は頑張っていたが、二十歳を迎えた時に酒と運命の出会いをしてしまった。
酒と出会ってからは大学には遅刻して徐々に行かなくなり、バイトも無断欠勤でクビになってしまう。
「こりゃ大学も退学かな…」
考えても仕方がないので、今日も寝る事にした。
そんないつもの自堕落な日々を送って行く…が、転機は突然訪れることに。
夜になり目が覚めた俺は、眠気覚ましにと、とりあえずの一杯だ。
「くぁー。生き返る!おっ!今日は満月で月が綺麗だな」
最近はツマミを買うのももったいなくて、月をつまみに酒を飲んでいる。
「誰が言ったか知らないけれど、男が身を持ち崩すのは『酒』『ギャンブル』『女』のどれかだって、上手いこと言うよな…」
俺は酒だな。飲まないとこの先の不安に押し潰されそうになるけど、飲んでいる間だけは、ただ月を眺めているだけで満足なんだよな。
受験勉強の息抜きに買った、以前読んでいたラノベのページを捲りながら、こんな物語の主人公になれたらと月に愚痴っていたその時、頭の中にその声は響いた。
『こんなに私に話しかけてきたのは貴方が初めて。願いを叶えてあげるね』
どこか儚げな声の後、視界が突如として切り替わった。
「えっ!?草原っ!?ドッキリ!?なにっ!?」
テンパった俺は辺りを見渡すが、草原しか視界に捉えられない。
酒の入ったコップを片手にスウェットで草原って…そもそも……
「ここはどこだよっ!?」
さっき聞こえた声が酔っ払いの幻聴じゃないのなら、答えてくれ!と、強く願う。
『ここは地球とは違う世界』
やった!声が聞こえた!
「違う世界って…もしかして異世界転移ってやつか?」
ラノベの浅い知識で、思いついた言葉を喋った。
『理解が早いね。私は月の神。ルナって呼んで。私の寂しさを紛らわせてくれた、貴方の願いを叶えてあげたの』
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!願いって、異世界に行って活躍するって話か?
何かチートでもくれるのか?」
チートが手に入るのなら、俺でも異世界で活躍出来るかもしれない!
『チート?は、よくわからないけど、能力を与えるよ。というか、すでに与えてる。一つはこの世界の人達と話せるようにしたよ。後は……
ごめん。私の力は弱まっているからもう行くね。頑張って』
「え!?行くってどこに!?そもそも声だけで姿は見えないんだけど!?」
誰も応えない。知らない人がいたらかなり大きな声の独り言だよな……よかった…良かったのか?
「くそっ!異世界ってどこだよ…酒しか持ってきてないぞ…」
あっ!そうだ!能力をくれたんだっけ?試してみるか!
「ファイアー!」
・
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しーん
「くそっ!恥かいただけかよ!能力っていえば魔法じゃないのかっ!?
こうしていても仕方ない。異世界なら街があったり人がいるはずだ。とりあえず歩くか…」
とりあえず同じ方角に歩けばなにかあるだろう……あるよな?なかったらただの異世界サバイバルだぞ?
暫く歩いたが、辺りの景色が変わる事はなかった。
「くそ!もう歩けんぞっ!何が異世界だ!
チートくらいくれないと野垂れ死にするだけだわっ!
地球に帰してくれっ!」
俺が望みを声にした次の瞬間、視界が切り替わった。
「えっ!?部屋だ…」
視界は見慣れたボロアパートの自室。
何で?
俺は飲み過ぎで、ついに頭がおかしくなったのか?
「わからんけど、歩き疲れたから寝よう…」
最近は飲まないと寝られなかったが、疲れからすぐに眠りに落ちた。
「はっ!?ふぅ。良かった。いつもの部屋だな」
昼過ぎに目覚めた俺は、いつもの部屋である事に安堵していた。
「とりあえず今日も休みだな…どうせする事もないし試してみるか」
異世界に行ける可能性があるから、持っていて使えそうな物を片っ端から鞄に詰め込んだ。
「服もそれっぽいのにしたし、靴も履いたから準備万端だ!」
ふぅー
「異世界へ行きたい!」
・
・
・
「なーんも起こらないじゃん…」
酒のせいで変な夢を見たんだ。そう思い直した俺は、カバンを部屋の隅に投げて、再び寝る事にした。
深夜目覚めた俺は、やはり昨日の出来事が忘れられなくて、もう一度試す事にした。
「お月様。もう一度異世界へ連れて行ってくれ」
月を見上げながら呟いた次の瞬間、景色が草原に切り替わった。
「よーーーしっ!やっぱ酔ってたせいじゃないな!」
(とりあえず昨日の続きから始めるぜ!)
テンションが高くなった俺だが、もし仮に近くに人がいて独り言を聞かれていたらと思うと……
声に出すのはやめにして、昨夜と同じ方角に歩き始めた。
少しすると、前方に何か動く物を視界に捉える。
「なんだあれ?でっかいゼリーか?…まさか」
恐る恐る近づいてみると…
スライムだ!!
アニメや漫画とは違い、現実のスライムはデフォルメされていない。気持ち悪いな…アメーバじゃん……
よし!初戦闘はスライムかゴブリンが定石だからな!
俺にはいきなり人型は無理だから、キモくてもスライムで良かった……
俺は準備してきたカバンの中から、使いかけの蜂撃退スプレーを取り出した。
これなら多少離れていてもいいし、何よりスライムは物理攻撃が効かないタイプもいるのがラノベ常識だしな。
プシュー
プルプルプルプル
「おっ!効いたか?」
震えて縮んでいくが、消滅まで至らない。
「仕方ない。奥の手の火炎放射器だ!」
ライターをスプレーの前に持っていき、火をつけて噴射した。
ゴォォォォオー
スライムは瞬く間に消滅した。
「やったぜ!」
死闘を制した俺は、この異世界で初めての魔物を倒す事に成功した。が……
「あれ?レベルアップはないのか?もしやスライムくらいじゃレベルアップしないのか?
ステータス画面とかもないしな…仕方ない。先を目指そう」
レベルアップのアナウンスが聞こえる、お決まりの展開を期待していたが、それは叶わず。仕切り直して草原の先を目指そうとしたが……
「何だこれ?」
スライムが消滅した跡に、黒に近い紫色をした1センチ程の石を見つけた。
周りは草原で、そこだけは焼け焦げていたから、特に目についたのだ。
「これはいわゆる魔石か?とりあえず異世界のお金もないし、魔石なら売れるのが定番だから拾っておくか」
ポケットに魔石を入れて、先を目指すことに。
ん?なんか森があるな…気になるけど俺の予想が正しいのなら拙いから、今日はここまでにしないとな。
暫く歩いて森らしきモノを見つけたが、俺は帰還を選択した。
「地球に帰りたい」
俺は月に向かいそう告げた。
視界が切り替わり、いつもの部屋に帰った。
よし。日が登るまで寝よう。
昼前に目が覚めた。午後の講義には間に合うが、もはやそれどころではないからな。
「異世界に行きたい」
・
・
・
やはりそうか。
月が出ている時にしか、転移の能力が使えない可能性に気付いて良かったな。森の探索は諦めて正解だったようだ。
危うく野宿だったな。
異世界に行けることは、ポケットに入っていた魔石を見て確信している。
それに昨日は酔っていなかったしな。
「まだ眠いからひとまず寝て、夜に備えよう」
『いざとなれば異世界で暮らせばいい』
俺は最早大学なんてどうでもよくなっていた。
持ち物を行き来させられるから、異世界貿易で儲けられるかもしれないしなっ!
問題は……
「親になんて言うかだよな…」
親の事を考えて少し気落ちした俺は、酒を飲んで寝る事にした。
結局変わってなくないか?
こちらの小説を読んで頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。多謝。
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2024/6/14 1,000,000pv到達
完全に皆様のお陰です。
200…は遠いので、150万pv目指して執筆に励みます。
※挿絵なるものを入れていますが、あくまでも情景(背景)をわかりやすくする為のイメージですので、皆様が別のイメージを持たれていたら其方で想像しながら読んで頂けたらと思います。