表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集「人生」  作者: 八丈くるる
3/5

壊れている


 人を殺したことがある。

 そんなことすらも、もし本当にやっていたら僕は自慢にしていただろう。

 僕には何もない。

 自慢が何一つとしてない。真っ白だ。ただ生きているだけの物同然だ。

 勉強だってできない。運動もできない。芸術も分からない。手先が不器用だ。

 そんな僕が持っているものは命だけ。命なんて誰もが持っている。自慢にもならない。クソだ。

 だからなんでも羨んでしまう。勉強ができる。運動ができる。芸術に理解がある。手先が器用。そんな自慢になることを僕は欲している。なんでもいいんだ。人とは違う。それでいい。犯罪でもいいんだ。万引き。盗難。暴行。まあそれはダサいからいい。人を殺す。これなら僕は自慢にしてしまうだろう。僕は人を殺したことがあるんだぞ、と。

 酷いことを考えている自覚はもちろんのことある。しかしそれ以上なのだ。僕のこの欲求は。何もない自分が、何か一つでも自慢になるような、自分を認められるような大きなものが欲しい。

 ただ、人を殺すなんてことはできない。欲求以上に恐怖が勝る。やろうと思えば人なんて簡単に殺せる。道具はそこらじゅうにあるのだから。しかし恐怖心がある。人を殺すことへの恐怖が。

 なんて言い訳だ。僕は上手に生きれていないだけなのだろう。本当は何かしら持っている。ただ知らないだけ。本当に何も持っていないのならば僕は今頃笑顔で友人と酒に浸っているのではないだろうか。

 現実の僕はどうだろう。

 心を塞ぎ込むだけで、何もしない。中途半端な広さの部屋でただ怠惰に生きている。

 こうして変なことを考えて時間を消費する。

 何も出来ない自分を慰めるのだ。食事をし、性欲を解消し、眠る。それの繰り返し。娯楽なんてない。部屋の本に手をかけることもしない。

 泥のようだ。泥のようにベトベトと生きている。

 この部屋という小さな小さな世界で欲求だけを満たす生活。

 気が付けば自分がいなくなっていた。僕は思考している。そのはずなのに自分がいないように思える。僕は誰かの思考を聞いているだけで僕はただ傍観しているだけなのではないかと思える。

 何を考えている僕が正しい僕なのか分からない。

 頭が痛い。いつもそうだ。ちょっと考えるだけで途端に頭が痛くなる。クソだ。

 なんだ何がしたいんだ僕は。

 本当に自慢が欲しいのか。本当に何も持っていないのか。

 何にも分からなくなる。分かっていると思って考えているのに分からない。何もかもがおかしくなっている。

 堕ちた自分が本当に笑える。

 無理矢理笑っている。

 作り笑い。

 あれ? 僕が本当に笑ったことなんてあっただろうか?

 あの時も、あの時も、あの時、本当は作り笑いをしているだけで大したことは考えていなかった。

 ⋯⋯駄目だ。いつもこうだ。今の自分だけじゃなくて、昔の自分も分からなくなる。

 動いていないのに額に汗が流れる。疲れた。

 死にたい。⋯⋯死にたい? 本当に?

 なんなんだこいつは。死にたくないことなんて自分が一番理解しているはずだろう。

 これからどうなるんだ。

 どうしよう。どうやって生きよう。

 一日先、数時間先の未来さえ定まらない。目の前にあるものだけしか見ていない。なんで生きてるんだ。

























 

分かんないな。なんだよこれ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ