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短編集「人生」  作者: 八丈くるる
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あなたに伝える想いは


 私はどうしようもない人間だ。

 最近暗い事を考えることが増えた。そして最終的には自分がどうしようもない人間なのだと、自分を卑下することで、自分は自分を理解しているのだと、自分で分かっているから他人は何も言わないでくれと、そうやって自分のことを守っている。

 あろうことか私は同じ女性である先輩に恋をしてしまったようだ。

 昨今、同性の恋愛だとか心の性別だとかの話が話題になることがある。そう言った話題の時には、総じて肯定的な意見ばかり見受けられる。もちろん私も否定するわけでもない。しかし、私はそれでも自分がおかしいように感じてしまうのだ。

 まさか自分が同性を好きになるなんて思っていなかった。

 なんとなく、私は普通に男性を好きになって、男性と付き合って、結婚して、子供を産んで⋯⋯なんて考えていた。人生何があるかさっぱり分からないものだと痛感する。

 あの人を見るだけで心臓が暴れる。あの人と会話するだけで熱で倒れてしまいそうになる。あの人に触れるだけで周りの世界が見えなくなる。あの人の匂いが、声が、仕草が、何もかもが私の心を乱すのだ。恋なんて無縁だった私でも、これが恋なのだということは理解できた。否、理解、というよりは、それが恋であると信じているだけだろう。

 最近はことあるごとにあの人のことばかり考えてしまって、友人や家族なんかからもぼーっとする時が増えたなんて言われてしまった。心配させてしまったけれど、私にもどうにもならないのだ。いつかなくなることを期待するしかない。

 ⋯⋯いつか、の私はどうなっているのだろうか。私とあの人の関係はどうなっているか。まさか恋人になれたりはしないだろうか。どうだろう。彼女も女性が恋愛対象、なんて奇跡はそう起きないだろうか。

 怖い。

 あの人のことを考えるとどこかで湧いて出てくる感情。

 もし私が彼女に告白をしたとして、受けてくれるだろうか、それよりも嫌われてしまったりしないだろうか、拒絶されてしまわないだろうか。

 はっきり言って、私のように同性を好きになる、というのは普通ではない。これが普通であるならば、最初から女だの男だのなんて性別なんていらない。異常なのだ。

 しかし今はそういう人も受け入れられてきている。嫌われたり拒絶したりはしないかもしれない。

 駄目だ。

 怖い。

 分かっている。分かっているはずなのだ。あの人はそんな人ではないことぐらい。優しい彼女はきっとこんな私でも嫌ったりしないだろう。拒絶したりしないだろう。

 でも怖い。小さな可能性であろうと、私の中でその存在はとても大きなものなのだ。

 どうすればいいのだろう。彼女が好きで好きで堪らない。でもこの気持ちを伝えるのが怖い。

 ずっとこの気持ちを胸の奥に秘めていればいいのかもしれない。でも伝えたい。でも怖い。そんなことをずっと、ぐるぐると考えている。そうして何も分からなくなって溜め息を吐く。

 そんなことをいつも繰り返している。今日も結局何も変わらない。

 思い切って呼び出せば逃げ場はなくなるかな。

 ああそうだ。そうすればいいのか。逃げ場をなくしてしまえばいい。そうすれば私は私の気持ちをあの人に伝えるしかなくなる。

 そうと決まれば。




 昨日の私はどうにかしていた。

 分かっていた。分かっていたはずだ。考えた。考えていたはずだ。最悪だ。最悪だ。なんてことをしてしまったんだ私は。

 嫌われはしていないだろう。拒絶はされていないだろう。

 しかし告白自体は受け入れてはもらえなかった。

 胸が苦しい。涙が止まらない。

 失恋とは、こうも苦しいものなのか。いや、覚悟はしていたはずだ。予想していたはずだ。私は自分の気持ちを伝えた。伝えられた。それでよかったはずだ。よかった。よかったはず。

 「駄目じゃん」ふいにそんな言葉が口からこぼれた。

 何が駄目だった。告白を受け入れられなかったことか。それに耐えられなかったことか。

 私は何を求めていたのだろう。あの人とどうなりたかった。この気持ちを伝えて私はどうしたかったのだ。

 こんなに苦しい。あの人もどこか苦しそうな顔をしていた。困らせてしまった。私のせいで。無駄なことを考えさせてしまっただろうか。

 痛い。痛いよ。

 何が正しかったんだ。どうするのが正しかったんだ。私はどうすればよかった。

 間違っていたのだろうか。私もあの人も苦しむだけだったじゃないか。

 嫌だ。嫌だ。どうすればいい。あの人の想いが溢れて止まらない。涙が止まらない。

 ああ、痛い。胸が痛いよ。




間違っていたのだろうか。



前回とリンクしてますがこれは一応短編集です。次回からは全く別の話になります。

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