笑顔
ある夜、突然に空からUFOは降りて来た。
都会の大きな交差点のど真ん中に停止した巨大な銀色のかたまりを、地球の人々は固唾を飲んで見守った。
赤、青、黄色のシグナルを映しながら、重たそうな銀色の扉が軽々と開き、そこから現れたのは、数十人の笑顔の宇宙人だった。
人々はそれを見て安心した。とても友好的な笑顔を浮かべて出て来た宇宙人達に、こちらも笑顔で応え、握手を求めた。
宇宙人はその手を掴むと、引きちぎった。物凄い力で、腕の付け根から引きちぎった。
「なんでやねん!」
人々は口々に突っ込んだ。
「そないな『いい笑顔』で出て来といて、そら、なんでやねん!」
宇宙人達は見たこともない銃を取り出すと、乱射した。地球人達が次々と、まとめて肉だんごにされて行く。
地球軍が出動した。
科学力で上回ると思われる相手に半ば絶望しながら、それでも愛する地球を守るべく、最新兵器を携えて。
宇宙人は意外に弱かった。肉だんご銃は生体にしか効力がなく、鋼鉄の装甲にはまったく傷さえつけられなかった。地球軍の兵士達は、陰鬱だった表情が次第に緩み、敵を馬鹿にするような笑いがそこに浮かびはじめた。
宇宙人達もゲリラ戦法で対抗した。薄っぺらい身体を利用して戦車の中へ滑り込むと、地球人の首を次々と怪力で引っこ抜いた。愛想のいい笑顔を浮かべながら。
女子供老人達は恐怖し、逃げ惑った。しかし戦っている兵士達も宇宙人達もみんな笑顔だったので、つられて誰もが笑顔になった。建物の中に隠れていると、宇宙人達が薄っぺらい身体を滑り込ませて来た。大笑いする人々の首を宇宙人がもぎ取った。
瓦礫と化した町に動くものは何もなかった。ただ無数のもがれた首が転がっており、そのすべては貼りついたように、笑顔を浮かべていた。