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第四話 もう一度、君を守る任務(3)



 会場内では、とんだ愁嘆場(しゅうたんば)が演じられていた。


 ニクスのブランカ姫が、大泣きしていたのだ。


 赤い顔を見るに、酒を飲んだな。泣き上戸らしい。


 サフィラス王子は困って、姫をなだめていた。


「姫。さあ、そこに座り込んでいないで立って」


「嫌ですー! ついでに、サフィラス王子があの枯れ葉女と婚約したのも、嫌ですうう!」


 姫の周りの侍女たちも、おろおろしている。


 私が出ていくと、余計にこじれそうだな。


「姫。婚約はもう決められたものです。いくら姫がニクスの次期女王であろうと、変えられません」


 王子が凜とした表情で告げると、ブランカ姫はいきなりすっくと立ち上がった。


「ニクスから、はるばる来たというのに! わたくし、気分が悪いから部屋に戻りますわ!」


「……お気をつけて」


 王女が侍女を引き連れていってしまったところで、私は王子に近寄った。


「アリシア。どこに行ってたの」


「酒に酔ったから、バルコニーで涼んでいたんです」


「バルコニーか。いいね。私も人酔いしてきたよ」


「それはいけません。王子も外の風に当たってください」


 私は王子の手を恭しく取って、バルコニーに導いた。


 もうそこには、ウォルターはいなかった。


 王子は大きくのびをして、バルコニーの手すりに手をついていた。


「あー、涼しくて気持ちいい……」


「何よりです」


 隣で微笑むと、ふと王子の顔が近づいてきた。


「そういえばアリシア、君からはプレゼントないの?」


「あ……あああああああああ!」


 私としたことが! すっかり、忘れていた……わけではない。迷いすぎて、誕生日当日が来ても決まらなかっただけである。


「申し訳ございません、王子。もう少し考えさせてください! 王子のような尊いお方に何を差し上げるべきか、このアリシア、悩みに悩みすぎて遅くなってしまっているのです!」


「そうなんだ。別に、そんな悩まなくていいのに」


 王子は微笑んで、私を片腕で抱き寄せた。


「お、王子!?」


「婚約者なんだし、これでいいよ」


 これって、どれ!? もしかして、もしかしなくても接吻というやつですか!?


 あなた、やっと十三歳になったところでしょー!?


 私がガチガチに固まっていると、王子は苦笑して私の頬にキスした。


「まだ君は十二歳だし、今年はこれで勘弁してあげる」


「ああああ、ありがとうございます……」


 カチコチになって礼を言うと、王子はようやく私を放してくれた。


「王子! 会場に戻りましょう! 挨拶したい方もきっと、たくさんいるので!」


 大声を出して王子を呼ぶと、彼は仕方なさそうにバルコニーの手すりから離れた。


 王子と共に会場に入り、私は真っ赤になっているであろう顔を手であおぐ。


「アリシア。どこに行ってたんだ。顔がリンゴみたいに真っ赤だけど、どうかしたのか?」


 兄上が近寄ってきた。


「え。いやー、酒を飲みすぎたようで」


「ふーん。お前、まだ子供なんだから気をつけろよ」


 兄上と話している間に、王子はモーゼズ王子に引っ張られていってしまった。


 あ、モーゼズ王子もご機嫌だ。そうだな。このときには、確執はなかったんだろうな……。


 ぼうっとして彼らを見ていると、兄上が肩を組んできた。


「アリシアも、馬子にも衣装だな。ちょっと色気が出てきたんじゃないか?」


「そ、そうかな」


 さっき、ニクスの王女にずたぼろに言われたけど……。


 王子にキスされた左頬に、手を当ててみる。まだ、熱い気がした。


 私は王子を崇拝しているだけで、恋愛的な「好き」じゃなかったはずなのに……。


 こんなにときめいてしまっては、護衛失格だ。


 私は、彼を守らなければならないのに。


 敵からも、迫り来る未来からも。


 強くあれるように祈ったのに、私の心は頼りなく、ぐらぐら揺れていた。



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