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第四話 もう一度、君を守る任務(1)


 試験から一週間後、私は王城の一室を与えられた。


「……もはや、懐かしい」


 部屋に入り、ぐるりと見回す。


 高級そうな調度品。大きなベッド。広い窓。


 王子専属護衛騎士になったときから、私の住まいはここだった。


 毎日鍛錬に励み、王子が外出することがあれば同行した。


 城内は常に近衛兵や衛兵が控えていて安全だから、護衛騎士が王子について回ることはない。


 だが、王子が外出するときは、必ず呼び出される。


 もちろん同行する騎士は、私ひとりではなかった。大抵は、近衛兵が三人ほどついてきたものだ。長い外出となると、もっと厳重な警備になる。


「ここから、どうするかだよな」


 つぶやいて、私は持ってきた鞄を、荷物置き場と思しき平台のあるところに置いた。


 このまま私が普通に過ごしていたら、またあの未来がやってくるだろう。


 勉強も頑張るとして……。


 そこで、私はハッと気づいた。


 そもそも、どうして私は時をさかのぼったんだろう。


 肝心のことを考えるのを忘れていた。


 魔法か?


 あいにく私は魔法に詳しくないし、当然使えない。――あ、そうだ。


 ふと閃き、部屋を出た。


 


 向かった先は、図書室だ。王城にある図書館は、ヴィア家別邸の図書室と比べるまでもなく広く、膨大な蔵書を所蔵している。


「ああ……先日、護衛騎士に選ばれたヴィアのご令嬢ですか」


 司書らしき老人が、私を見て目を丸くする。


「何か、本をお探しで?」


「魔法に関する本を探している」


「魔法? 騎士様が、なぜ」


「うっ。……護衛騎士なんだから、魔法にも対抗できないといけないだろう?」


 苦しい言い訳だったが、司書は信じてくれたらしい。


「魔法は、こちらの区画にあります」


 と、案内してくれる。


 棚には、ぎっしりと本が詰まっていた。どの本から読めばいいのやら。


「待って。あなたは、魔法には詳しいか?」


 司書が行ってしまおうとしたので、私は慌てて呼び止めた。


「人並みに、ですが……。私は、魔法使いではありませんよ。司書です」


「司書なのはわかってる。一般的な知識でいいんだ」


 私は前世では、魔法についてはろくに調べなかった。


 だって、使える者がほとんどいなかったのだから。


「はあ……。どこから、知りたいのですか?」


「基礎知識から」


「そこからですか? そうですね……。魔法は、かつてアイテール帝国でよく使用されましたが、現代ではほとんど使われません。使い手がいないのです。ここまでは、知っていましたか?」


「ああ。魔法を使うには、エルフの血がいるんだっけ?」


「なんだ、知ってるじゃないですか。そう。この大陸の先住民――エルフ。彼らが、私たち人間に魔法を教えたとされますが、魔法はエルフの血に宿る魔素を使い発動するもの。だから、エルフの血がなければ、使えない。アイテール帝国の皇帝や貴族は代々、エルフの妻を(めと)っていたと言われています。魔法を使うためですね」


「へえ。代々娶っていたのは、知らなかった。今の五王国の祖先にも、エルフがいるんだよな?」


「その通り。だから、王族や王族に連なる貴族に、たまに魔法使いが生まれます。でも、もうエルフとの婚姻はできません。血が薄れる一方なので、魔法は失われしものと化しているのですよ」


 司書の説明に、私は深くうなずいた。


「エルフは、どこに行ったんだ?」


「彼らは、こことは違う世界に渡ったとされます。人間がエルフを欲しすぎたのでしょうね。狩りのようなことも行われた、といいますから……。エルフは魔法が使えて身体能力も高いが、いかんせん人間に比べて数が少なくて対抗しきれなかった。帝国が滅び、五王国の時代になってしばらくして、エルフは忽然と消えたとされますよ」


「違う世界か……」


「野心のなき者が、エルフに会いたいと願って川辺に行くと彼らの元に連れていってくれるという伝説がありますよ。でも、野心なしでエルフに会いたい者なんて、学者ぐらいでしょうね」


 たしかに。普通は、エルフを利用したいから会いたいと思うのだろうし。


「魔法のなかには、時をさかのぼる魔法があったりするんだろうか?」


 いきなりだが、ずばっと尋ねてしまった。


 司書は私の質問に案の定、戸惑ったように眉をひそめていた。


「少なくとも、私は知りませんね。あるとしても、人間には使えないでしょう。エルフが使えるか、使えないかぐらいじゃないですか? ああ、でもエルフが魔法を使えたのなら過去を変えていそうですよね。最初に東大陸から来た人間を歓迎はせず、徹底的に排除すればこの大陸はエルフの天下のままだったのだから」


「……そうかな」


「わかりませんけどね。別の世界で幸せなら、過去を変える必要もないのかもしれませんし」


 なんとなくしんみりした空気になったところで、私は目についた「魔法の基礎」という本を手に取った。


「これを借りていく」


「はいはい。記録しますので、こちらのカウンターに来てください」


 司書に先導され、私は本を片手に歩き始めた。


 


 図書室から出て廊下を歩いていると、メイドが私を呼び止めた。


「サフィラス王子殿下がお呼びです。殿下のお部屋に案内いたします」


「……ああ。よろしく」


 彼女に先導されるがままに、城内を歩いていく。階段を上り、廊下をずっと進んでいったところで、彼女は足を止めた。


「こちらです」


「ありがとう」


 礼を述べて、扉をノックした。


「殿下。アリシアです」


「……入って」


 応答を受け、私は部屋に入って一礼した。


「お呼びと、うかがいましたが」


「ああ。別に用事があるわけではないけど……初日だし、君と話してみたかったんだ」


「話、ですか」


「なにせ、私たちは婚約者同士でもあるんだ。会話をいくらしても、足りないぐらいだろう」


 婚約者……そ、そうだった。


「お茶の用意をさせよう」


 王子がベルを鳴らすと、すぐに扉がノックされた。メイドだろう。


「ふたり分、お茶を用意してくれ」


「かしこまりました」


 扉越しに声が聞こえて、気配が遠ざかっていく。


 およそ十分後、王子の部屋のテーブルにはお茶のポットと二つのカップと茶菓子が並べられていた。


 王子は品よく、お茶のカップに口をつける。


 私も紅茶を一口、飲んだ。熱くてやけどしそうになったので、慌ててカップを置いて、クッキーを取って口に入れる。クッキーは、ほんのり温かかった。


「メイドに呼びにいかせたのだけど、随分時間がかかったね。どこにいたの」


 銀の髪をさらりと揺らして、王子は首を傾げた。


「申し訳ありません。図書室にいました」


「図書室? 君は勉強嫌いって聞いてたけど」


「嫌いです! ……あ、でも……今度は勉強も頑張ろうと」


「今度は? まるで、前回があったみたいな言い方するんだね」


 さすが王子。頭の回転が早くていらっしゃる。


 私は冷や汗をかきながらも、「言い間違いです」と苦しい言い訳をした。


「王子を守るために、剣だけではなく知力も身につけなければ……と思った次第です」


「それはいいね。私の妻になるのにも、知力はあって損はない」


「つ、妻……」


 声に出してみると、恐れ多くて仕方がなかった。


「君は婚約には納得いってないの?」


「とんでもない。その……王子は私にはもったいなさすぎて。王子って、完璧じゃないですか。美形だし賢いし運動神経抜群で剣も乗馬も上手いし……」


 早口でまくしたてると、王子は眉をひそめた。


 しまった。不審に見えているらしい。ああ、でも信じてください。私は、本当にあなたを崇拝してるんです。


「と、とにかく。私以上にふさわしいご令嬢は、たくさんいると思うんです。だから、その……」


「君は自分に自信がないってこと?」


「言ってしまえば、そうですね」


「ふーん。……私が君と婚約してもいいな、って思ったのはその目だよ」


「目?」


「私を、きらきらした目で見てくれるだろう? 君の目に、嘘はないなって思ったんだ。それに、嬉しかったんだよ。私はずっと、『選ばれない』王子だったから」


 王子は優雅にクッキーを取り、一口かじった。


「第二王子ってのは、第一王子に何かがあったときの保険みたいなものだし。だから、選抜試験を勝ち抜いた騎士が私を選んでくれるとは思いもしなかった」


「私は、ずっとサフィラス王子殿下に仕えたいと思っていました。一目見たときから、その高貴さに圧倒されて」


「あはは。悪い気はしないね」


 王子が花がほころぶように笑って、私は彼の尊さを噛みしめた。


「アリシア。私は、私を慕ってくれる者は絶対に大事にしようと思っている。君を、大事にするよ。騎士としても、婚約者としても」


「……………………」


 あまりのもったいなさすぎる御言葉に、私は静止した。かあっ、と頬が熱くなる。


 私の様子がおかしかったのか、王子は噴き出していた。


「頬紅をつけすぎた婦人のような赤さだよ、アリシア」


「はっ……すみませんっ……。こういうことには、慣れておりませんで……」


 前世の私はウォルターと婚約していたが、こういう風に甘い言葉をかけられたことはなかった。


 婚約って、そういうものだと思っていた。


 それがどうした! 今世の私ときたら、憧れのサフィラス王子に「大事にするよ」なんて言われてしまった!


 思い出しては赤面しそうだ。


 というより、王子! まだ十二歳でしょう! もう、そんなに口説けるのですか! けしからん!


 私がしばし悶えていると、王子はくすっと笑って紅茶のカップをまた口に運んでいた。


「ところで、図書室で何の本を借りていたんだい?」


 いきなり話題が変わったので、私は必死に呼吸を落ち着いて答えた。


「魔法の本です」


「魔法? 君、魔法が使えるの?」


「とんでもない。王子を守るために、魔法を知っておく必要があるかと思いまして」


「……魔法ね。その心配はないと思うけど。魔法使いって、多分今はゼロだよ」


 王子は、呆れたような顔をしていた。


「ほぼいない、と聞いてましたが……ゼロなんですか?」


「おそらくね。他国の状況を知らないから、なんとも言えないけど。魔法使いがいたとしても、対外的には伏せるんじゃないかな。強力な戦力になるわけだし」


「な、なるほど」


「まあ、そういう意味では刺客に魔法使いを使う可能性も――やっぱり、ないか。そんな貴重な魔法使いがいたら、殺される可能性の高い刺客になんてしないよ」


「ごもっともです」


 さすが王子。十二歳で、この聡明さ。一生ついていきます。


「何でも学ぶ姿勢は素晴らしいと思うけどさ。嫌いじゃないよ」


「はっ……」


 王子に褒められ、私は恐縮しきって紅茶の残りを飲み干した。


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