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第三話 私が婚約を回避する作戦(3)



 翌朝、私たち一家は王城をあとにして、都にある家に戻った。


 我が父ヴィア侯爵は地方領主だ。当然本宅はヴィア侯領にあり、都に別邸がある。


 兄が王立騎士団に入り、私が王子専属護衛騎士を目指したので、いつからか別邸にいる期間の方が長くなっている。


 父上は領主だからそうそう領地を空け続けるわけにもいかないので、頻繁に本宅に帰っている。でも、母上はこちらにいる期間の方が長い。子どもが心配なのだろう。


 私は無事護衛騎士になれたので、来週には王城に部屋を用意されることになっている。


 正式に任務につくまでには、もう少し時間がある。


 この時間を利用して、私は色々と調べるつもりだった。


 あの未来に、たどりつかないように……。


 本宅ほどではないが別邸も広く、図書室もある。


 私は朝食後、すぐに図書室に向かった。


 朝食の席で母上に三十回ぐらい「王子との婚約、よかったわね!」と言われ、うんざりしていた。


 私は図書室で、この世界について書かれた本を認め、引っ張り出した。図書室には、机が一つ、椅子が四脚がある。


 椅子に座って、机の上に本を広げた。


 その本には、最初のページに地図が折りたたんで収録されていた。


「あった、あった……」


 地図を広げて、私は祖国を指さす。大陸の東半分にある、五国の中央にあるのが、我が国――シルウァ王国だ。当然、内陸部である。


 シルウァの東にあり、東海に面するのがペルナ。問題の王国だ。


 何が問題って、未来のウォルターが言っていた「敵国ペルナと通じた手紙がたくさん」という台詞だ。


 シルウァやペルナを含む五王国の関係は、友好とは言えない。過去、国境をめぐって戦争も起こった。


 元々、五王国はひとつの帝国だったのだ。古代にあった帝国の名は、アイテール帝国という。


 反乱が起こり、アイテール帝国は瓦解した。その後、有力な領主が立ち上がり、王国を作っていった。


 勉強嫌いの私でも、さすがにこういうのは常識なので知っている。


 ハッとし、私は思考を戻し、ペルナと書かれたところを凝視する。


 友好とは言えないとはいえ――今のところは、どの国も戦争状態には、ない。


 ペルナと特別仲が悪い、とも聞かなかった。


「……と、すると」


 ペルナは利用されただけだろう。


 どうしてペルナか? は、すぐにわかる。


 サフィラス王子の母親が、ペルナ出身だからだ。


 対して、モーゼズ王子の母親は国内の貴族だったはずだ。彼女は王子を産んだあとに亡くなったので、国王陛下は後妻としてペルナの王女を(めと)った。


 サフィラス王子がペルナの誰かと文通していても、不思議ではないだろう。


 だが、ウォルターのあの言い方は……。何か、確証があったはずだ。


 そう難しいことではない。文通の手紙に火種となる文言を見つけるか、もしくは、ねつ造する。


「うーん。だけど、わからないな」


 そもそも、どうしてサフィラス王子を処刑まで持っていく必要がある?


 王子はニクス王国に婿入りが決まっていた。


 モーゼズ王子が、サフィラス王子を脅威に思う理由がない。


 わからない。考えても、さっぱりだ。


 頭を抱えていると、ふと影が差した。


「アリシア。珍しく、勉強か」


「……兄上」


「ま、王子に嫁ぐのなら勉強も必要だな。やれやれ、昨日はびっくりしたよ」


 兄上は、私の隣にあった椅子に腰かけた。


「地理か?」


「ああ……。兄上、いま五王国のなかで特別仲が悪い国って、どこだ?」


 私の質問に、彼は五王国の西端にある国名を指さした。


「イグニス王国?」


「そうだ。イグニスは、西に広がる大帝国――ウシュク帝国と国境を接する。いさかいが絶えないらしい。そこで、イグニスは我が国にも、派兵協力を要求しているんだ。だが、シルウァは周囲を国に囲まれていて、どの国境にも兵を置かないといけない。おかげで、派兵協力する余裕がない。それに、イグニスが怒っているといううわさだ」


「なるほど。イグニスに派兵協力してる国は?」


「ニクス王国とクレスケンス王国。このふたつも、イグニスと国境を接しているからな。逆に、ペルナは静観。ま、ペルナが派兵するなら他国を通らないといけないからな」


 ニクスはシルウァの北に、クレスケンスは南にある。


「イグニスが怒って、シルウァに攻めてくることはないよな?」


 私の問いに、兄上は首を傾げていた。


「ないとは思うが……。五王国はどこも、隙あらばアイテール帝国のように東半分を統一し、ウシュクも倒して大陸全土を統一をしようとしてるってうわさだ」


「いつ戦争になっても、おかしくないってことか」


「そうだな。どの国が最初に仕掛けるか、様子を見ているとも言える。とはいえ、難しいんだよ。どの国も軍事力は拮抗しているからな」


「うーん。なるほどな」


 どの国が敵になっても、おかしくないということか。


 ペルナの貴族が、サフィラス王子に何か働きかけた可能性もなきにしもあらず?


 私は護衛騎士だったとはいえ、手紙類に目を通すことはもちろん許されていなかった。


 届いた手紙は、本人に直接運ばれていたはず。


「各国の情勢に興味を示すとは、王子妃の自覚がでてきたのか?」


「からかわないでくれ」


 むすっとして口を尖らせると、兄はからから笑っていた。


 でも、未来を変えるためには色んなことを知らないといけない。


 王子は、何に巻き込まれたのか。これがわかるまで、安心できない。


 どうやったら、突き止められるんだろう……。



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