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第三話 私が婚約を回避する作戦(2)

 


「王子と護衛騎士に乾杯!」という音頭で乾杯して、私はグラスの中身を一気に飲み干し、家族に気づかれないようにパーティ会場から抜けだそうと、じりじりと移動していった。


 庭に出ようと思ったが、ウォルターが見つけてしまうかもしれない。


 会場の隅っこに分厚いカーテンがあったので、そこに身を隠すことにした。


 はーっ、とため息をついたところで、頬が熱いことに気づく。酒の一気飲みはまだ早かったか。十六の私なら、葡萄酒や麦酒をジョッキで一気飲みしても、平気だったのだが……。


 カーテンにしがみつくようにして、目を閉じる。


 早く時間が過ぎますように。


 うっかり眠りかけたとき、「アリシア?」と呼びかけられた。


 変声期前の、そのなめらかな声を聞き間違えるわけがない。


「お、王子」


 彼が目の前に立っていて、私は慌てててひざまずこうとしたが、「そのままで」と言われたので、立ったまま彼を見つめた。


「そこで、何をしてるの?」


「殿下こそ」


「僕は疲れたから、隠れようと思ってきたところ。君は?」


 にこっ、と王子が笑う。相変わらず笑顔がまぶしい。


「私は、ウォルターに会いたくなくて……」


「ウォルターに? なぜ? 君たちは、好敵手だろう?」


「それが……。噂を聞いたんです。ウォルターが、私に求婚するかもって」


 実際にあの未来では今宵求婚されたのだから、全くの嘘でもないだろう。


「へえ……。嫌なの? ウォルターは見目もいいし、あの通り強いし、おまけに公爵令息だ。王子の護衛騎士同士だし、悪くない条件だと思うけど」


「嫌です」


 あんなやつ、と吐き捨てかけて、どうにか思いとどまる。


 這いつくばる私を見下ろすウォルターを、今でも鮮やかに思い出せる。


「ふーん。でも、今逃げても、またの機会に求婚されるかもよ。あっちは公爵だ。侯爵令嬢の君は、断りにくいだろう」


「そうですよね……。あああ、どうしたらいいのか」


 うなだれると、王子が私の手を取った。


「なら、私が君に求婚するよ」


「はい!?」


 王子、頭がどうかしちゃったんですか!? とは言えず、私は固まる。


「で、殿下……。そんな、無茶なことを」


「別に無茶じゃない。私が君に求婚すれば、ウォルターは君に求婚できない。簡単な話じゃないか」


「陛下が許しません」


「許すよ。兄上ならともかく、私は第二王子だし。多少のわがままは許されるはず」


 王子は、茶目っ気たっぷりに微笑んでいた。


「でも、私は……剣以外に特技はなくて。殿下にふさわしい妻にはなれません」


 自分でも嫌になるぐらい、私はどこまでも愚直だった。


 王子の提案に、素直に飛びつけばいい話なのに。


 でも、私はそれだけ王子と真剣に向き合いたかったのだ。流されるのではなく。


「難しく考えなくていい。もし君が嫌になったら、婚約を解消する方法もあると思う。今は、ウォルターの求婚をどう避けるか。そうだろう?」


「そ、そうですけど……。王子は本当に、いいんですか」


「くどい。さあ、行こう」


 王子は私の手を引っ張り、カーテンの影から連れ出す。


「父上!」


 パーティ会場を突っ切って、人々の中央にいる国王に向かって、サフィラス王子は呼びかける。


「おお、どうしたサフィラス」


「急な話ですが、決めたのです」


「決めた、とは?」


 王が不審そうな声を出す。


「アリシアと結婚したいと思います。彼女との婚約を、お許しください!」


 サフィラス王子の堂々とした口上に、王はぽかんと口を開け、近くにいた父上は青ざめていた。


「な、何だとお!?」


 王の叫びは、会場中に響き渡った。


 


 かくして、歴史は変わった。変わってしまった。


 祝賀会が終わり、私は王城の一室に引きあげた。


 質問攻めにしてくる家族に「今日は疲れているので」と言って、さっさと寝室に引っ込む。


「ま、まさか……この私が、王子の婚約者になるなんて」


 寝間着に着替えた私は、ベッドに寝転びながらつぶやく。


 本来なら、サフィラス王子は北の隣国、ニクス王国の王女に婿入りする予定だった。


 ニクスは世界では珍しく、王ではなく女王が統治する国だ。男性に王位継承権がなく、女性にしかない。


 サフィラス王子が婿入りする王女は、将来女王になる女性だった。王子は王配になれたはず。


 ……それなのに。私と結婚するなら……。


「どうなるんだろ?」


 さっぱり、わからなかった。だが、私が王子の輝かしい未来を奪ってしまったように思えてならなかった。


 ……でも。未来を変えなければ、王子は死んでしまうのだ。婿入りどころの話ではない。


 とりあえず、王子のおかげでウォルターの求婚は回避した。私が彼の婚約者になることはない。


 今思えば、ウォルターには気を許して王子の情報も喋ってしまっていた気がする。


 でも、誰が疑う? 同じ王子専属護衛騎士で、婚約者である男のことを?


 もちろん、ウォルターを遠ざければそれでよし、というわけでもない。


 ウォルターの後ろには、誰かがいたはずだ。第一王子だとは思うが……。


 考えようとするのに、意識がもうろうとしてきた。今日は連続で試合に挑んだのだ。その上、慣れないドレスで祝賀会。ついでに王子の爆弾求婚発言で、驚いて腰が抜けるかと思った。


 疲れていた当たり前だ。


「もっと、考えないと……」


 つぶやきながらも、睡魔にあらがえずに、とうとう目を閉じた。


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