表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/38

最終話 君と幸せになる世界(1)


 ウォルターは駆けつけた衛兵に捕らえられ、牢に入れられた。


 ウォルターの父親ファーマ公爵は必死に嘆願(たんがん)したそうだが、ウォルターの罪は重すぎた。


 厳しい尋問により、ウォルターは全ての罪を告白した。


 モーゼズ王子の殺害、サフィラス王子の毒殺未遂、王妃の毒殺、そしてサフィラス王子の部屋に押し入った暗殺未遂――。


 なお、王妃の毒殺はメイドのひとりを買収して行ったらしい。このメイドも捕らえられた。


 ウォルターの家が王家に連なる大貴族であっても、これだけの罪を犯していたら減刑は不可能だった。


 ウォルター・ファーマは処刑されることとなった。


 


 処刑の日、私と王子は王子の部屋にいた。


「殿下。処刑場には、行かないのですか」


「私に行く義理はない。それに、憎い敵でも誰かが死ぬところを見る趣味はなくてね」


 王子は椅子に座って、本を読んでいた。


 集中できないのか、さっきからページが進んでいない。


 私は窓際に立って、処刑場である広場のほうを見ていた。もっとも、ここからは見えないのだが。


 ガラス越しに、歓声が聞こえてくる。


 ウォルターの処刑は、公開処刑だ。シルウァでは珍しいことでもないが、ウォルターほどの高貴な身分の者の処刑はまれだし、また、今回は王城の広場が一般開放されたので、たくさんの民衆が集まったのだろう。


「君こそ、どうなの?」


「え?」


「君は何回もやり直した。何度も、ウォルターにしてやられたってことだろう。処刑を見にいきたいと思っても、私は君を残酷だとは思わないよ」


 暗に、行ってもいいと言ってくれているのだろう。


「……いえ、結構です。たしかに、ウォルターは憎い。でも、忍んできたあいつと戦い、下し――牢に入れ、罪を認めさせた時点で、私の復讐は成ったようなものです。騎士失格かもしれませんが、血を見るのも好きではありません」


「血を見るのが好きじゃない? なら、君はどうして騎士になったのさ」


「サフィラス王子殿下に、お仕えするために」


 そのためになら、血にまみれてもいいとさえ思えたから、私は剣を取った。


 私の答えに照れたように、王子は微笑んだ。


「最高の返答だね、アリシア。落ち着いたら、結婚式を行おう。そのとき、君には剣を帯びていてほしいな」


「ウェディングドレスに剣、ですか。似合いませんよ」


「似合うよ、君なら」


 想像するとおかしくて、少しよどんでいた気持ちが晴れた。


「ところで、殿下。王妃様が、言っていましたよね。運命はバランスを取ろうとする……と。あれについて、考えていたのです」


 本来なら、死した命は私と王子。


 それが運命を変えることによって、変わった。ひとりは王妃で――


「王妃様がひとりめとして、もうひとりはモーゼズ王子だったのでしょうか? だとすると、ウォルターは?」


「……ああ、そのことか。本来、死んでいた私と君が助かったことで命を失うことになった『ふたり』は、母上とウォルターだと思う」


「モーゼズ王子は?」


「兄上は、元の未来でも死んでいたのだと思う」


「あ、そういえばそうですね」


 いつかも、そんな話をした気がする。


「ウォルターは自業自得だとして、母上には本当に申し訳ないことをしたと思っているよ。私の身代わりになったようなものだから」


 王子はうつむいたが、すぐに顔を上げた。


「でも、母上は私に立派な王になれと言ってくれた。母上の期待に応えるのが、なによりの供養になると思う。……アリシア、協力してくれるよね」


「当然。私は、あなたの専属護衛騎士ですから」


 ひざまずいて胸に手を当てると、王子が立ち上がって近づいてきた。


「それにくわえて、王太子妃――としてね」


「……あ」


「忘れてた、とか言わないでよ。というか、もう臨戦態勢は解けたのだし、前のように敬語なしでしゃべってくれないかい?」


 王子に手を伸ばされて、その手を取って私も立ち上がった。


「努力します。……いや、努力する」


「うん、そうして」


 手を握り合ったまま、私たちは歓声が大きくなったことに気づく。


 ウォルターの処刑が、行われたのだろう。


 震える手を、王子がしっかりとつかんでくれていた。


 


 ウォルター・ファーマ、処刑。


 息子を失っただけでも大きな罰になったと思ったのか、王はそれ以上ファーマ公爵家の罪を追求しなかった。


 だが、残されたファーマ家の男子二名の王位継承権は取り上げられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ