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第十話 君が君でいられる世界(1)

 幸い何も変わったことは起きず、代わりにカーティスが現れることもなく、夜が明けた。


 朝の光で、目を覚ます。


 立ち上がると、体があちこち痛んだ。無理な姿勢で眠っていたからだろう。


「殿下、おはようございます。私は一旦退室いたしますので、着替えを済ませておいてください」


 大きすぎない声で呼びかけると、サフィラス王子はすぐに目を開けた。眠りながら、緊張していたのだろうか。


「おはよう、アリシア。ああ……わかったよ」


「では、一旦失礼を」


 私は部屋から出て、水場に向かった。


 昨夜、私は寝間着に着替えていない。湯を使ったあと、寝間着ではなく旅装に着替えてそのまま夜を越した。いつでも対応できるように。


 宿共同の水場で顔を洗って、部屋に戻る。


 ノックをすると、王子の「準備はできた」という声が返ってきた。


 


 宿の食堂で簡単な朝食を済ませたあと、私たちは旅立った。


 目指すはペルナの王都。目的地は、まだまだ遠い。


 野盗に襲われることもなく、私たちは街道をひた走った。


 たまに名残惜しく振り向いたが、カーティスが追いつくことはなかった。


 


 ペルナ内の旅を続けること五日。


 私たちはようやく、王都に入った。すぐに王城を目指す。


 城の前で、王子は馬車から降りた。


 急ぐ旅だったせいか、王子は少しやつれていた。


 しかし威厳は損なわれておらず、門番の兵士に堂々とペルナ王からの書状を見せた。


「……アンダートン様、ですね。シルウァ王妃の紹介で、ペルナ王への謁見を許された……と。少々お待ちください」


 兵士は城内に消えていった。


 しばらくして、兵士が手ぶらで戻ってくる。


「陛下に渡してもらうよう、侍従に頼みました。陛下に渡り、許可が出るまで少しかかるでしょう。明日、またここに来てもらっても?」


 兵士の言い分に、王子は力なく「了解した」と答えていた。


 言いつのって謁見を早めてもらうのかと思ったが、ここで揉めるのは得策ではないと判断したのだろう。




 王都には、宿がたくさんあった。


 旅費は余っていたので、王子は奮発して一番高級な宿を取っていた。


 都はひとが多いので、こういうところこそ金を惜しまないほうがいいと王子が説明していた。


 そういうものなのだろうか。たしかに高級宿のほうが、警備もしっかりしているし、私も安心だが。


 今夜も、私は王子と同室だった。


 騎士が私ひとりしかいないのだから、仕方がない。


「アリシア。とんでもなく広いベッドだよ。今夜こそ、今までのように座って眠らなくていいだろう」


 たしかに、ふたりどころか五人ぐらい眠れそうな、広大なベッドだった。


「……そうですね」


 ここなら警備も十分だろうし、横になるぐらい許されるか。


 ここ数日、ずっと座って眠っていたので、体が痛くて仕方がなかった。


 少しぐらい、いいか……。


 素直に、今日は私も横になることにした。


 


 真っ暗な部屋のなか、私はベッドに横たわる。一応、また寝間着ではなく旅装だ。


 ああ、極上のベッド……ふかふかしてて、体が沈みそうだ。


 目を閉じれば、すぐに眠ってしまいそうだった。


「――アリシア」


 王子の声で、ハッと覚醒する。既に半ば眠っていたらしい。


「はい」


「……カーティスは、来ないね」


 その名を聞くと、胸が痛んだ。


「そうですね。ペルナの王に会ったら、情報を仕入れてもらいましょう」


「ああ。無事だといいが……。アリシア。どうして、カーティスが天使だと知っていたの?」


 その説明をするのを、忘れていた。


 旅中、緊張していたせいか。


「王子には、私が何度も時間遡行したと申し上げましたよね? ……神々は、それに気づいたのです。なかでも、運命の女神フォルティナが気にかけたそうで。カーティスは、私がまた時間遡行しないように手伝うためにカーティス・アウルムという一度死した男に宿ったのだそうです」


「神々が……。どう、気にかけたの?」


「何度も時間を戻すと、世界にひずみが生じると。実際、私は申し上げたとおり、本来は王子と同い年でした。でも、今回はひずみの影響で二年遅れて生まれてきてしまった」


「ああ……それは、言っていたね。なるほど、このまま続けるとまずい、と神々が判断したわけか。それで、天使を送り込んだ」


「そうです。カーティスは、私が動きやすいように私の代わりに護衛騎士を務めてくれたんです。神々の意向があったといえど、本当に助かって……」


 嗚咽が漏れて、私は目元に手をやった。


 ああ、共に時間を過ごすうちにカーティスに懐いてしまっていたようだ。


「アリシア。カーティスのためにも、今度こそ私たちは逃げ切ろう」


 王子は穏やかに言って、私の髪を撫でてくれた。


「はい。運命から、逃げ切りましょう」


 震える声で答えると、王子は優しく微笑んだ。


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