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第八話 君とまた向き合う世界(3)



 王妃は迅速に動いてくれたようだ。


 王妃はひそかに実兄であるペルナ国王と手紙を交わした。直接ペルナ国王宛にするのではなく、国内の貴族に一旦送って転送してもらう形だ。


 ペルナ国王は、シルウァの貴族の仲介を通して聖痕の持ち主を歓迎するという旨の手紙をくれたらしく、それを聞いたとき、私も王子もカーティスもホッとして顔を見合わせたものだ。


 更に、王妃もペルナ国王も、直接的に書くのではなくペルナで使われる暗号を用いて、そのことを伝え合ったようだ。手紙類は王妃宛のものであっても改められることもあるので、賢明な行動だったといえる。


 私が自室で本を読んでいると、扉を叩く音が響いた。


「アリシア。王子から話があるらしい。行くぞ」


 来た。もちろんこれは口実だ。王妃の使いは、カーティスか私に来て王子に知らせを渡すことになっている。


 今日は、カーティスに使いが来たのだろう。


 ここは王城。敵のほうが多い。用心するに超したことはなかった。


 私は本を置いて、すぐに扉を開いた。


「カーティス」


「話は、王子の部屋で」


 カーティスは無表情で私を見下ろした。うなずき、施錠してからカーティスと並んで歩き出す。


 ようやく、シルウァを出る日がやってくるのか?


 


 王子の部屋の前で止まり、カーティスは扉を慎重に叩いていた。


「サフィラス王子殿下。お話がある、とうかがいましたが」


「……ああ。入って」


 幸い、今の王子に予定はなかったらしい。


「そこに座って」


 すんなり通され、私たちは部屋の奥にある椅子に座るように促される。


 王子も私たちの近くにあった椅子に腰かけ、小さな声で問いかけた。


「……どうなった?」


「はっ。先ほど、王妃殿下の使いが来ました。万事準備が整った、とのことです。サフィラス殿下は病気を患い、静養のためにシルウァ東部の保養地イルスに行く……という手順です。別荘には行かず、そのままペルナに入ります。殿下の護衛は、私とアリシア以外は途中で眠らせ、置いていきます。他に付き従う下男下女それに御者は、王妃殿下の息がかかった者たちばかりなので、ご安心を……とのことです。下男下女と御者は、そのままペルナに連れていってほしいそうです。万が一、拷問にでも遭ったら大変なので」


 カーティスの説明に、王子は深くうなずいた。


「わかった。いよいよ、か。私の病気はどうするんだ?」


「宮廷医師のひとりは、王妃殿下に絶対服従を誓っています。彼に診察させ、偽の診断を王に報告させます。殿下には、一週間ほど床についてもらわなければなりません」


「やれやれ。大変だが、仕方ないね。……さて。とうとう計画が動き出すわけだ。ふたりとも、覚悟はいい?」


 王子に問われ、私とカーティスはほぼ同時に「もとより覚悟はできております」と言い放った。


「心強い。追っ手がかからない、とは言えない。そのときは、ふたりに戦ってもらう必要がある」


 王子の青玉のような目で見られて、私は背筋を伸ばして答える。


「命を()してでも、戦います」


「……俺は、ふたりを守ります。殿下は、アリシアと幸せになってもらわねば」


 カーティスの意外な言葉に、私の頬が熱くなる。


「そうだね。だが、三人の誰も欠けることなくペルナに渡るのが理想だ。亡命が露見し捕まれば、私はどうなるかわからない。お前たちも、母上も無事ではいられまい。文字通り、これは賭けだ。……だけど、賭けに出よう。私たちなら、大丈夫だ」


 王子に力強く鼓舞され、私もカーティスも静かにうなずいた。


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