第一話 私が死に、君も死んだ夜
背中を剣で斬られた私は這いつくばり、攻撃を浴びせた者を見上げた。
「ウォルター! なぜ、こんなことをする!」
彼は茶色い髪を額に張り付かせ、笑った。
今宵は雨が降っていた。ずぶ濡れになっていることを気にもせず、彼は私の頬を剣で撫でる。
まさか婚約者から攻撃を受けると思わず、私はすっかり油断していた。
「アリシア。この時点で、君との婚約を破棄する。なぜか? 君はサフィラス王子と共に謀り、国王陛下およびモーゼズ王子に反逆しようとしたからだ!」
「……そんな、馬鹿な。私も王子も、そんなことはしていない……。王子は、王子はどこなんだ……」
体から、力が抜けていく。でも、命と引き換えにしてでもサフィラス王子を守らなければならなかった。彼は私が尊敬する、たったひとりの主だった。
「証拠は挙がっている。敵国ペルナと通じた手紙がたくさんな!」
「嘘だ。信じてくれ、ウォルター。私も王子も、無罪だ! ……私は、いい。だから、王子だけでも助けてくれ! 罪は私が全部かぶる! そのぐらいの情けを、かけてくれ!」
「だめだ。それに、王子はもう助けられない」
「まさか……」
「そのまさかだ。王子は先ほど処刑されたんだ! サフィラス王子の専属護衛騎士アリシア・ヴィア! お前には、処刑台に立つ名誉も与えない! ここで、静かに息絶えろ!」
私は叫んだが、ウォルターの剣は止まらず私の首に振り下ろされた。
こうして、私は王城の庭で命を落とした。
……はずなのだが。