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主語述語ヨリオモイ  作者: かつらぎ
中学生編
9/40

雄~一~

 小学4年生だった冬。私は急な転居をした。大切な人がいたのに、何も伝えられないまま、新幹線に乗ってしまった。ひとつ前の駅から乗れば、彼と一緒に過ごした学校が見えたのに、それもできなかった。

 だから、新幹線の中では、ずっと窓の外を見ていた。京都を過ぎて、山の多い景色の場所では、雪が降っていた。涙ばかり流れてきた。


 でも、私は負けたくなかった。だから、彼に手紙を書くことにした。まだ、ぜんぜん上手に書けないのだけど、それでも、書かなければいけないと思った。

(雄君へ 最初に手紙を渡すときに、こう書こうと決めていたんです。いつも、吉野君って呼んでたけど、いつか、名前で呼びたいなと思ってました。そして、最初の手紙がいい機会だと考えました。だから、できれば雄君にも、あかねって、呼んでもらいたいな……)

 そんな書き出しの手紙は、便せん5枚にもなってしまった。これじゃあ、雄君が読むのに疲れてしまうかな、とも感じた。でも、それだけ話したいことがあった。どれも、削れない内容だった。

「よし、明日は、これをポストに入れよう」

 私はそう決めて、その日は眠った。まだ、手紙は封筒に入れておらず、あて名書きもしていなかった。


「どうして?どうしてないのよ!」

 私はお母さんにものすごく怒った。あんなになったことって、たぶん、生まれてはじめてだったと思う。

 しまったはずの連絡網のペーパーがどこにもなかったのだ。それを入れた封筒を引っ越し屋さんが間違って捨ててしまったのかもしれない。お母さんはそう言っていた。

 私は、何もかもが終わったと感じた。その日は泣いてばかりで、お母さんとも話さなかった。涙を流しているだけで、どんどん時間が過ぎてしまった。


 東京の郊外の学校では、初日、誰とも話ができなかった。すぐに声をかけてくれた雄君が、とても勇気ある人だったのだと気づく。

でも、翌日になって雄君とはタイプが全然違うけど、やさしい男の子が声をかけてくれた。すぐに女の子の友達もできて、クラスにも溶け込めた。

中島なかしまって、関西から来たのに、関西弁出ないね」

 そんなことを聞かれた。

「私、その前は神奈川だったから。関西には5月から冬までいただけ」

「転校多いね。それじゃ、友達もできないよね」

 その女の子は、気を遣ってくれているのだろうけど、なんだか、すごく腹が立った。

「できたよ。好きな人もちゃんといたよ」

 そう言ってしまった。女子にとって、格好のエサをまいてしまった形だ。しまった、と思ったけど、隠すのもバカバカしく思えた。私の中の変な勇気が、さらに言葉を続けてしまう。

「お互いに好きだったよ」

 最後まで言った。数人の女子が驚いていた。


 あれから、4年も過ぎた。父の転勤は、あれが最後だったみたいで、その後は転居もなかった。私は近くの中学にそのまま上がり、今に至っている。どうせなら、その前の転居で止まってくれれば、毎日、こんな気分になることもなかったのに、そう思っていた。子どもだから、職業の仕組みみたいなものを、知るはずないのだ。

 そして、今日も寄り道をして、近くにある大きな河のほとりに来る。制服のスカートを押さえて、草の上に座る。夕日が映える河面を眺める。

 いつのころからか、私はこうして過ごすことが好きになった。そして、いつのころからか、雄君と話をするようになった。

(ほら、空が茜色になってるよ。雄君、私を思い出したりしない?)

 頭の中の雄君は、いつもやさしい。

(いつも思い出しているよ。で、茜色の空に叫ぶんだよ。あかね~って)

 なんというか、雄君には不思議なおもしろさがある。だから、いつも笑ってしまう。

(変な人だよ、それ)

(変でもいいんだよ。あかねが心の奥に沈んでしまわないためには)

 彼の言葉に、感覚が近いんだなあ、と思う。だから、私も同意する。

(そうなんだよね。好きって思いは忘れたり、消えたりしないんだよね。でも、奥の方に沈んでしまう……)

(そうそう。でも、浮かんでくるのも一瞬だよな。あのゼンマイの車みたいに吹っ飛んでくる)

 雄君との楽しい時間を思い出し、吹き出す。

(あれ、すごかったよね)

 そんな風に、彼とたくさん話をする。気がつくと、夕日が山の向こうに沈んでいた。今日は楽しかったので話が長くなった。だから、もう、帰ろう。



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