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主語述語ヨリオモイ  作者: かつらぎ
中学生編
7/40

真理~二~

 変な時期に転校してきた佐野由佳だけど、実はかなり性格のキツイ変な女子だった。

「ヨシノーっ、なんでこうなるん?」

 あれ以来、仲がいいというよりも変な縁ができてしまった僕は、由佳によく話しかけられる。

「知らん。知らんがな。お前が正しいと思うようにせいよ」

「なんか、頼りにならんね」

 由佳がなぜか怒って去っていく。僕は勘弁してくれと思う。

 すると、今度は別方向からも声がかかる。

「吉野ぉー、ちょっと来て」

 真理と平井千恵、それに彼女らと仲がいい斎藤香奈だった。真理とは由佳がやってきた日に怒って以来、あまり口を利いてない。

「どうした?」

 3人は、じーっとこっちを見ている。

「だから、なん?」

 すると、真理が最初に口を開く。でも、僕ではなく、平井と斎藤に対してだ。

「ね、やっぱりかっこいいんよ。絶対!」

「たしかに、なんとなく、わかった」

 平井が応じる。笑った真理がようやく僕に向いて話す。

「ごめんね。吉野、じゃなくて吉野君。ちょっとね、確認事項があって……」

 意味がまったくわからないから、怒ったような顔になる。すると、斎藤がこっちを向いて言う。

「ごめん! ホントに悪い意味じゃないから、でも、また声かけるね」

 斎藤はかわいげのあるタイプだったが、僕と合う性格には見えなかった。だから、何か別の理由があるんだろうと思う。でも、それがわからない。

「別にええけど」

 僕はそう言うしかない。そして、急にあかねを思い出す。

(そう言えば、俺らって美男美女って言われたんだよな!)

 見えてきたあかねの姿が下を向いて笑っていた。

(まあ、そうだけど、仲良くなった理由は別だと思うよ)

 僕はその方向に向かって、小さく笑っていた。


 数日後、僕は斎藤に呼ばれる。

「ね、放課後に少し時間ちょうだい」

 不思議な気持ちになる。自分が斎藤みたいな子に好かれる理由って、あるんだろうか、そんなことをうぬぼれる。でも、違う気がする。

 見ていた由佳が声をかけてくる。

「吉野って、モテるん?」

「お前はカンケ―ない!」

 最初とはまったく違って、嫌味ばかりを言い合うようになった相手に、そんな言葉を返す。由佳は笑って別の女子と話をはじめた。


 そして、放課後。僕は廊下で斎藤の前に立っていた。でも、教室の窓越しに誰かいるのもわかる。真理と平井だ。

「ね、吉野君。多田さんって、知ってる?」

 よかった、と思った。目の前の斎藤は、かわいいんだけど、苦手なのだ。合うところが見つからない気がしていたからだ。

「ごめん、知らん気がする。その子がどうしたん?」

 僕は正直に言った。

「私の友達なんよ。その子がこれ渡してって、言うから。だから、渡しとくね」

 そう言って、斎藤が封された手紙を差し出す。受け取るしかない。まあ、女子が果たし状を寄こすわけないので、ラブレターなのだろう、と思う。

「俺、知らん子に、そうですか、とか言えんけど」

 すると、窓の向こうにいた真理が声を出す。

「いいの、いいの。斎藤は渡せって頼まれたからそうしただけ。断っていいからね!」

 あまりの乱暴さにこっちがまた腹立ってくる。

「小西、お前は雑すぎる。これ書いた子に失礼やろ」

 その言葉にようやく真理が出てくる。斎藤が役目は果たしたよ、という顔で後ろに下がる。

「吉野君て、好きな人いるん?」

 急に聞かれて、軽くパニックになる。あかねの顔を、急に思い出す。

「いるような、いないのだけど……」

 何を言ってるのか、自分でもわからない。でも、真実だった。真理が小さく息をした。

「やっぱり。せっかくだから、ちょっとだけ話できる?」

 どうしようかと思ったが、真理の顔は真剣だった。だから、いや、彼女が美人なためかもしれない。僕はうなずいてしまう。少し笑った真理は、やはり、魅力的だった。


 放課後の第2ラウンドは、誰もいなくなった教室だった。僕と真理が窓際の誰かの席に前後して座り、平井と斎藤は廊下際の席に座って待っていた。

「その手紙、読むの?」

 聞かれた僕は、うなずいた。

「どうして?」

 だから、僕は思うことを口にする。

「せっかく書いてくれた。読むのが礼儀」

「アンタに関係ないやん」

 やっぱり、真理が本当に嫌いになってくる。

「前に、転校してきた女の子がいた。その子は一所懸命、俺に手紙を書こうとしてくれた。でも、それをくれる前に、また転校してな。本当は、手紙を書くのって、すごく勇気のいることやぞ。受け取った方が読まんでどうする」

 かなり怖い顔で言ったはずなのだが、その答えを聞いた真理が、急にやさしい顔になる。もう、夕方だから、その光に映える笑顔は悪いものに見えない。

「好きだったの?」

 真理が聞く。僕はあかねの思い出にウソをつきたくない。だから、正直に首を縦に振った。

「だからなんね。この前、あんなに怒ったの。私、あのときの吉野君の顔が忘れられない。私もね、昔、転校したことあるんよ。あんな人に会いたかったな」

 いつも快活な真理だから、ちょっと意外な気がした。

「いつ?」

「小学校3年生の春」

 僕は笑った。同じだったからだ。同じ季節に、同じ不安と向き合っていたのだ。

「じゃあ、俺は小西を助けられんな。そのころに俺も転校したから。でも、助けてくれた子がいた。それがうれしかったから、翌年にやってきた子に声をかけた」

 そう言うしかない。

「その子って、めっちゃ幸せやん。私に声をかけてくれたのは、あそこにいる平井のちーちゃんよ。吉野君がよかったよ」

 笑う真理の顔が、とてもキレイに見える。この子に別の面があったことを感じる。

「ごめんね。また、こんな話していい?」

 僕は笑ってうなずく。そして返す。

「俺も小西に聞いてもらうよ」


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