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主語述語ヨリオモイ  作者: かつらぎ
中学生編
6/40

真理~一~

 土井はよく話しかけてくるようになった。根がまじめで面倒見のいい性格なのだろう。なんというか、委員長とかが似合うタイプだな、と感じていた。

 すると、また転校生がやってくる。こんな3学期という微妙な時期なのに、大変だろうな、さみしいんだろうな、と思った。あかねが行った先で味わったのと同じ景色なのだ。

「佐野由佳です。よろしくお願いします」

 暗い顔で一生懸命言った感じだった。でも、頬は赤くなっていた、とても緊張しているのだ。その子が斜め前の最前列に座った。もう、中学だから、すぐに授業になる。佐野は何もわからないだろう。

「佐野さん、教科書はあるんだね。今日はここからだから」

 そう、声をかけてみた。佐野がこちらを見て、ほっとしたような顔をした。

「あ、ありがとう」

「知らないことがあったら、聞いて」

 少しだけ安心したように見えた佐野が、うなずいていた。


 授業が終わると、すぐに佐野に声をかける。

「佐野さん、どこから?」

「栃木県って、わかる?」

「行ったことないけど、関東か。遠いね」

 だったら、何もわからないだろう。僕たちの話す関西弁も奇異に思うかもしれない。だから、なるべく、テレビで聞くような言葉を使う。

「普通の学校だから、そんなに変わることないよ。大丈夫。知らないことは聞いて」

「ありがとう」

 佐野が今度は少し笑った。


 昼になって、ようやく佐野の周囲に人が集まる。みんな、どうしようかと思っていたみたいだが、僕や周囲がいろいろと話しかけるから、そこに入りたくなったようだ。彼女がみんなに囲まれたのを見ると、僕は少し離れて、窓の外を見る。

(あかね、僕は今日、上手にできたかな?)

 まだ、真っ青な空にそんなことを思う。

「吉野君って、やさしいんね」

 土井が机の横に来て、声をかけてきた。

「そんなことない」

 僕のつっけんどんな言葉に、土井が笑う。

「そんなことある」

 少し困った僕は、正直なことを言ってみようと思った。

「たぶん、この前も言った転校生の経験からやと思う。ひとりでいるとき、話しかけてもらうと、普通はうれしいんよ」

 土井が微笑んだ。

「だから、転校生にも話しかける?」

「そう。でも、あいつらって転勤族だから、いつか去る」

 興味津々の顔で、こっちを見てくる彼女。また、困る。

「ちょっと不良みたいな人なのかな、と思ってたけど、ぜんぜん違うんやね」

 何が違うのか理解できないが、別に不良だったとも思ってない。

「さあ、不良でもないけど、そんなにまじめでもないよ」

「でも、勉強できるやん。運動神経もいいし」

 土井は、なんかいろいろ知っているようだった。たしかに、僕はよく勉強する彼女よりも、成績がいい。

「何もしてないよ。性格も悪いし。最近、どんどん暗い」

「そんなことないよ」

 どうやら、関心を持たれてしまったんだな、と感じる。これ以上話すと、深い話をしてしまいそうだった。だから言う。

「佐野さんは不安なはず。土井さんも気がついたら、声かけてあげて」

 彼女は僕の言葉にうなずいて、佐野を囲む輪に入っていった。土井なら、佐野を助けてあげられると思う。でも、最近の僕の関心は、少し違う方向を向いていた。


 小西真理と話をするようになったのは、いつだっただろう。とても快活な美人だったから、話しかけられると、ついつい引き伸ばしたくなる。別の相手だと暗くつっけんどんだったのに、そうなのだ。だから、少し特別な感じになる。

「ねえ、吉野。これ教えて!」

 わからない数学の問題を聞いてくる。こっちはすでに解けていたので、気づいたところを教えてみる。

「答えはこっちなんやけど、最初にここを見つける必要があるんよ。だから、こう補助線とか引いて考える……」

「うん、わかる、わかる。ありがとう」

 そんな調子だった。弾けるように笑って真理は言うので、ちょっと目を合わせるのが恥ずかしくなる。以前、あかねと目を合わせていたときは、そんなことなんとも感じなかった。でも、中学生になると、何から何まで、恥ずかしい気がした。

 身体はどんどん成長していくのに、精神の伸びが追いつかないのだ。何をやっても、不完全な気がしてバランスが悪い。それが中学生という時間だった。


「吉野、見てたよ」

 その真理が友人の平井千恵と一緒に声をかけてくる。

「何を?」

 よくわからないから、聞いた。

「転校生に真っ先に声かけるんやね。女子より早いやん。ああいう子が好きなん?」

 雑な問いに真理のことが少し嫌いになる。

「転校生やぞ。誰も知り合いおらんねんぞ。男も女もあるか」

 鋭く言い返した僕の言葉に、真理が驚く。

「かわいそうやから、声かけた?」

 突然、真理を含むクラスの元気な連中全員に腹が立ってくる。いつもはギャアギャアと陽気に騒いでいるのに、未知の存在とは距離をつくる。じゃあ、お前らの明るさは何のためにあるのだ。何を照らすためにやってるのだ。

「言うとくけど、あの子はかわいそうでもなんでもない。あっちの学校では、お前にとっての平井みたいな友達もおったやろう。でも、そんな大事な人と離れて、今、ここにいる。不安なのは当然。でも、それだけじゃ。お前らなんかに下に見られる理由はどこにもない。仲良くしろなんか言わん。でも、あの子が溶け込むジャマだけはすんなよ。許さんぞ」

 言い放って、そのまま離れた。振り返ることもないから、言われた真理がどんな顔をしてたのかも知らない。

(雄君、やさしい。やっぱり、私の好きな雄君だよ)

 なぜか、あかねの声が聞こえたような気がした。朝、佐野が立っていた黒板の前を見る。はじめて会ったあかねの姿が重なる。こっちを見て笑っていた。

(やさしくないよ。あかねのときはあんなに時間がかかってしまったし)

(ウソばっかり。最初に私を見て笑ってくれたよ)

(そうだったな。そうしたんだよな。だから、今日もこうしたんだよ)

 僕は黒板の方を見て小さく笑った。今日は、あかねのことが、とても近く感じた。



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