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主語述語ヨリオモイ  作者: かつらぎ
小学生編
2/40

あかね~一~

 小学校の3年生から4年生になる。

 本当は陽子と同じクラスのまま進むはずだった。でも、このころは人間があふれ、面倒だから競争させて、浮いてきたヤツをすくいとるような時代だった。1世代あたりの人口は多く、1クラスの最低数も巨大。そこに満たない数になった瞬間に、クラスはかんたんに解体された。子どもらの都合など、知ったことではない。

「まさかの別クラス。でも、家近いし、あんまり変わらんよね」

 陽子が言うようなまさかでもなんでもない。7クラスが6になるのだから、一緒になる確率はサイコロ2個振ってゾロ目を出すのと同じ。6分の1を引き当てなければならない。そして、僕たちはそんなに運がよくない。

「口が悪いヤツと、離れられたやん」

 別々のクラスに振り分けられた自分たちに、嫌みいっぱいの言葉を放つ。でも、陽子はさみしそうな顔をするだけだった。


 5月を過ぎたころ、転校生がやってきた。

中島なかしまあかねです。家族の転勤でこちらにきました。よろしくお願いします」

 長い髪を後ろで結んだロングスカートの女の子がそう言った。ビックリするほどキレイな子だな、と思った。あんまりまっすぐ見てしまったので、転校生と目が合ってしまう。睨んでも仕方ないから、少し笑う方にした。

 でも、僕は陽子と離れてしまって以降、少しすねたような生活をしている。

(どうしようかな?)

 と考える。でも、不安じゃない転校生なんか、いない。僕の場合は陽子が助けてくれたけど、そんな存在がいないと、孤独に負けてしまう。だから、ひと通りの学校行事をこなす中、中島にはできるだけ声をかけようと思った。陽子がやってくれたには及ばないけど、不安な人は助けてあげたい。そんな正義感みたいなものは、残っていた。


 秋も深くなる。いや、もう、冬だったのかもしれない。

「ねえ、あかねって、吉野好きなんじゃない?」

 僕の隣に座っていた女子が、後ろを向いて中島に言う。まるごと聞こえているので、さすがに振り返る。

「べ、別に、そんなことない、よ」

 中島が振り返った僕を見ていた。でも、そんなことなくないのだと、わかった。陽が早めに傾き、空は真っ赤だった。いつものデニムのロングスカートが青く見えない。後ろで結ばれた髪が金色に揺れて、鮮やかに光を返していた。

「俺と中島って、ようしゃべるもんな。俺も去年転校やったから」

 そんな風にフォローしてみようと思った。深い意味があったわけじゃない。でも、中島が笑ってくれた。下を向いてたけど、とても、うれしそうだった。

「なんや、仲いいやん。やっぱり、美男美女やもんね。そうなるよね」

 先に声をかけた女の子が、そんな言葉を使う。だから、恥ずかしいけど、もう一度小さく笑う。中島が不安になってはいけないと思った。

 すると、彼女が驚くほどの勇気を出す。

「吉野君、私たち、美男美女なんだって!」

 まっすぐ、僕を見ている。中島あかねが美女なのは知ってる。見りゃあ、わかる。でも、僕がそれに合うとは思っていない。ただ、ビックリする。

「あかねって、ホンマに吉野好きなんや?」

 隣の女は、まだ余計なことを言う。でも、中島の肝は据わっていた。否定しない。そのまま、下を向いて微笑む。

 僕はとてもキレイなこの女の子を不幸にしてはいけないと感じた。吸い込まれるように、その目を見てうなずいてしまう。

「おわぁ、カップル誕生やん!」

 さらに後ろで聞いていた口だけは達者な男子が、大声で言う。でも、クラスの反応は鈍い。

「あんねえっ! このふたりがカップルなんか、奇跡やん。茶化すな!」

 話を主導していたはずの隣の女子が、ブチ切れたように言う。

「めっちゃ恋愛やん。いいなあ。でも、似合ってる!」

 僕たちは隣の彼女の言葉に参っていた。もしかしたら、ヘタクソ過ぎたけど、この子は互いに仲がよさそうな僕らの間を取り持ちたかっただけなのかもしれない。でも、おかげで大事なことを確認し合えた。まだ、小学4年生でしかないけど、大人びて、好きという気持ちを表に出してみようと思った。それが許される空気がなんとなくあったからだ。


 以後、可能ならば、何をするのも、中島と僕は一緒だったと思う。掃除中、ゴミを捨てに行くときも一緒。周りの男子が脊椎反射でそれを揶揄する。でも、僕と中島は傷つかない。

 さっさと笑う。

「なんか、言われてるな」

 中島は言葉で応じない。笑っている。夏にちゃんと太陽と過ごした肌が、こっちを見ている。目はうれしそうに輝いている。口角の上がった唇が、キレイな色で応じてくれる。この女の子が僕のことを好きなのは、バカの僕でもわかる。

 長いデニムのスカートが、僕の横で揺れる。そこからのぞく長い脚が、印象的。

 だから、ずっと手を握るようにふたりでゴミ箱を持つ。このキレイな女の子を誰にもあげたくなかった。そんなことするくらいなら、そいつと決闘してやる、と思った。

「中島にイヤなこと言うヤツがいたら、言ってな。やっつける」

「もういなくなったよ。吉野君が怖いみたい」

「え、中島も怖い?」

 彼女が首を振る。

「そんなわけないよ。だって、私たち、仲いいもんね」

 また、中島と目を合わせる。でも、そこまで。好きな男女はキスをするらしいと知っていた。だけど、どんなときにそうするのだろう?

 わからなかった僕たちは、ただ唇を合わせるだけのこともできない。その先なんか、もっと知らなかった。



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