Act.41 弛緩世界で三度寝を(1)
第二部隊 執務室
歪理との戦闘から一夜明け、MSSは徐々に普段の落ち着きを取り戻しつつあった。
歪理撃破の報告は昨日のうちに各部署に回り、社内を包んでいた緊張感は徐々に安堵に塗り替えられていった。一部手放しには喜べない部署もあるが、全体的にはいつも通りの弛緩した空気が充填されつつある。
そんな中、今回の功労者の一人、刀儀響斗が所属する第二部隊の執務室は、祝勝ムードとは程遠い雰囲気に包まれていた。
「この度は、ご迷惑をおかけして誠に申し訳ありませんでした。私情による数々の独断専行、深く反省しております。今後はこのようなことがないように努めますので、何卒―――」
「いや、ちょっ、ストップストップ! 何なんですかいきなり!」
いきなりやってきて説明もなしに頭を下げ始めた灯和に、困惑した声をあげるクレイ。
謝る理由はいくらでも思い付くが、謝られる理由など皆目見当もつかない。
何か今独断専行がどうとか言ってた気もするが、全く覚えがない。
新手のドッキリだと言われた方がまだ納得だ。
「や、やめて下さいよ。何でそんなガチトーンで謝ってんですか」
「実は昨日第一部隊の獅子堂隊長に報告した際―――
◇◇◇
昨日 ゲート前
「お、やっと帰ってきたか」
歪理との戦闘を終え、現世に帰還した響斗と灯和を見て、ゲート前に立っていた男が出迎える。
「あ、シシドーのおっちゃんだ。ただいまー」
「おう、お疲れさん」
ゲート前に立っていた男―――第一部隊隊長の獅子堂は、駆け寄ってくる響斗に片手を上げて応じると、念のためにわかりきった問いを投げ掛けた。
「倒せたか?」
「もちろん」
「そりゃ良かった。二人とも無事でなによりだ」
「おっちゃんは何でこんなとこに?」
獅子堂はモニター室ではなく、ゲートの前に立っていた。これから転界に入るという感じでもない。
わざわざ出迎えに来たのだろうかと、響斗は首を捻る。
「ま、保険ってやつだ。万が一お前らが殺られて、人型がゲートまで来たら、誰かが足止めしなきゃならないからな」
割と深刻なことをさらっと口にしつつ、獅子堂は肩を竦めてみせる。
そして次の瞬間、ギロリと目を光らせて続けた。
「あとついでに、黙って転界に行きやがったどっかの馬鹿の叱るためにな」
「え、黙って?」
「正確には、勝手に行ったことがばれねえように、うちの隊員口止めしてた奴な」
「えー、そんなことしたっけ?」
身に覚えがない響斗はますます首を捻る。
「刀儀、お前じゃねえよ」
「そうなのか? じゃあ………」
二人からジトッとした視線を送られ、全力で目を逸らす灯和。
「……十六原、ちょっとこっちに来い」
「……怒ってます?」
「怒ってない、怒ってないから早く来い」
「…………はい」
恐る恐ると言った調子で近づく灯和。
なんとなく先が読めているのか、予防注射の列に並ぶ子供のような表情だ。
そして―――
ゴンッ!!
「痛った!」
「何考えてんだ!」
岩のような拳骨を脳天に落とされ、頭を押さえて踞る灯和。
「お、怒ってないって言ったくせに……」
「怒るわ!」
雷のような怒声が辺りに響き渡る。
怒られている灯和はもちろん、隣にいただけの響斗や、モニター室にいた第一部隊の面々までもが思わず肩を震わせた。
「一人で勝手に危ない真似しやがって! しかもそれを隠すために関係ねえ奴に嘘までつかせるたあどういう了見だ!?」
「いや、その……絶対怒る気したし………」
「当然だろうが!!」
「でも……」
完全に叱られる子供の調子で言い訳する三十三才児十六原灯和。軽く涙目である。
「百歩譲って私怨で動いたのは許してやるがなあ、だったらせめて先に言え先に! いい年こいて周りに心配かけさせんな!」
全く、とため息を吐く獅子堂。
言いたいことを粗方言い終えて多少冷静になったのか、幾分落ち着いた口調で続ける。
「……奴に恨みがある人間はお前だけじゃないんだ。今回部下が殺られた渦波はもちろん、他の奴らだって多かれ少なかれ思うところがあったろうよ」
そう言う獅子堂にもまた、何かしら思うところはあったのだろう。
だがそれについて特に恨み言を言うでもなく、大人として指令を下す。
「そんな奴らまで、お前がいなくなったって聞いて心配してたんだ。我が儘言って迷惑かけた分、ちゃんと謝ってこい」
「………」
「返事は?」
「はい……」
◇◇◇
「―――と、その後も医務室までついてこられて散々叱られた次第でして……」
「あー……なるほど………」
――まあ、あの人相手じゃ仕方ないか……。
獅子堂礫―――彼は、三廻部以外で唯一灯和が頭が上がらない相手である。
一般から募集された社員の中では最古参であり、現在特務部に在籍している者としては、響斗と灯和の次に古株に当たる。
一般公募されるより前のメンバーが響斗と同じく施設出身の子供達のみだったこともあり、大人の自分がしっかりせねば、と使命感に燃えてしまった獅子堂は、入社から10年以上経った今でも響斗や灯和を子供扱いしていた。
「あのおっさん……普段は適当なくせして、こんなときだけクドクドと……」
――この人本当に反省してんのかな……。
小声で愚痴る灯和に若干の不安を覚えるクレイ。
「いや、でもホント、謝らないで下さいよ」
脇に逸れかけた話題を元に戻しつつ、正直な感想を述べる。
「つーか……標準語ってだけで無意味に怖えーんですよ……」
「ああ……それ何か皆言うんよな」
いつもの口調に戻った灯和は、何故だろうというように首を捻っていた。
「その、昨日のことは一応ヒビトから聞いてます。僕としては、危険なラルヴァを倒してもらったんですから、むしろ感謝してるくらいですよ」
「ならいいんじゃけど……」
「それに、トウカさんが無事に復讐を果たせたみたいで良かった。僕はできなかったんで」
「……そうじゃったな」
「僕の場合は元カノですけどね」
困ったように頬を掻くクレイの目には、幾ばくかの寂寥が感じられた。
「湿っぽい話はこの辺にしときましょうか」
快活な笑顔を浮かべ直して、クレイが話題を切り替える。
確かにあまり続けたい話題でもないなと、灯和も幾分表情を和らげた。
――謝りに来て逆に気い遣わせとるな。
自身の不甲斐なさに心中でため息を吐く。
実のところ、クレイは灯和の過去について何も知らない。
先ほど『復讐』という単語を口にしてはいたが、響斗辺りから聞きかじった程度の事情しか知らないはずだ。
言うまでもなく、ライリー関連の事情も全く聞かされていないのである。
にも関わらず、何も訊かずに気苦労だけ背負ってくれるこの後輩は、もう少し報われてもいいと思う。
こんなポジションに任命したのも、他ならぬ灯和ではあるのだが。
「ところで、今日朝からヒビト見てないんですけど、何か頼みました?」
疲労感をうっすらと漂わせたクレイの言葉。
現在進行形で苦労していそうだ。
「いや? 昨日の今日じゃし、何も頼んどらんけど?」
「あれ? じゃあ普通に寝坊ですか?」
「多分な。まあ、どこも気が緩んどるみたいじゃし、気にせんでよかろう」
人型ラルヴァに対する緊張感から解放された反動か、灯和が回ってきたどこの隊でも、空席や居眠りをしている隊員が見かけられた。
勤務態度についてとやかく言える立場ではあるものの、特務部(特に討伐課)はその辺が緩いので、特に指摘はしなかったのだが。
体力温存という大義名分がまかり通っているため、戦闘職の彼らに関しては居眠りが許容されているのが実情である。
とはいえ遅刻は緊急時に困るので、響斗は後で電話で叩き起こすつもりだが。
「確かに……ここ最近ピリピリしてましたもんね……。ふあ……僕も朝から眠いです」
あくび混じりに答えるクレイの頬には書類の跡がついている。
「ヒビト以外にも何人か遅れて来てますし、いっそ僕も遅刻したことにして寝るかな……」
「そこは普通に仮眠とれ」
◇◇◇
隊長の席の回りではのんびりと世間話が続いている一方、室内の一角には近寄りがたい負のオーラが漂っていた。
「あのー……赤対さん? その……こないだの中型の資料………」
語尾を震わせながら、恐る恐る声を掛けるメアリー。
「………」
『寄らば斬る』的な殺気を放っている(気がする)凌牙に気圧されつつ、再度声を発する。
「うぅ……こ、こないだの……」
「…………」
無言で資料の入った封筒を寄越す凌牙。
メアリーはおっかなびっくりそれを受け取ると、蚊の鳴くような声で礼を言って立ち去った。
「はぁ……はぁ……もー! 何なんですかー!」
「叫ぶなよ……。てか、何で僕のとこ来るわけ?」
逃げ出してくるなり文句を言い始めたメアリーに、げんなりした声で応じるクレイ。
「だって、クレイさん上司だし! 隊長だしー! 何とかしてくださいよー!」
「何とかって言われてもなぁ……」
ブンブンと腕を振り回し、凌牙を指差して抗議するメアリー。
クレイは一応宥めようとしたが、『面倒くさい』という本音が伝わってしまったのか、全く落ち着く気配がない。
「怖いですー! 気まずいですー! 寿命が縮むんですー! さっきもすっごく睨んでましたもん! 『あ"?』とか言ってましたもん!(幻聴)」
「あー、はいはい。落ち着こうなー。本人に丸聞こえだから黙ろうなー」
何か言いたげな目でこちらを見てくる凌牙から全力で目を逸らしながら、クレイは何とかメアリーを落ち着かせようと試みる。
チラリと灯和の方を窺うが、大変だなー、という顔で苦笑いを返されるだけだった。
――他人事だと思って……!
恨みがましい目で睨むが、灯和の苦笑いは崩れない。
「なになになに? どうしたの、メアリー? 何か楽しいことでもあった?」
そうこうしているうちに、騒ぎを聞きつけたサンタ服の青年が会話に混ざってきた。
「あ、きーちゃん! 楽しくなんてないですよー! 心臓ばっくばくなんですからー!」
抗議の相手を杭田に切り替えて、ことの次第を説明するメアリー。
主観が多分に盛り込まれたあらすじは風評被害も甚だしいものだったが、あらぬ噂が広まるということはなかった。
何せ相手が杭田である。
「なるほどなるほど。それで心臓が。よし、閃いた! ここは一つ、新手の絶叫マシンに乗ったと考えてみるのはどうだろう。不整脈は吊り橋効果に変換して、恐怖と興奮で生を実感する感じでいかが?」
「ムリですー! すでに生きた心地してないんですー!」
相も変わらず戯れ言にしか聞こえないような提案をしてくる杭田に、メアリーはガクリと膝を落として泣き言を返す。
「うーん、ダメか。どうやら根本的な解決が必要みたいだね。あ、ところでクレイ君、リョウガ君は何でピリピリしてるの?」
厄介事から逃走しようと扉に忍び寄っていたクレイは、無視して立ち去ろうかと一瞬悩んだ後、諦めたように会話に戻った。
「別に大した理由じゃなさそうだけど。今日あいつも寝坊したらしいから、それでじゃね?」
「それだけ?」
「あー……まあ僕もそんなに詳しく訊いてねえんだけど―――」
◇◇◇
朝 社員寮
――あー……もうこんな時間か……。
まだ半分眠っているような頭で、赤対凌牙はベッドの横に置いた目覚まし時計を横目で見遣る。
時刻は午前8時20分。
普段仕事に行く日ならとっくに職場に着いている時間帯である。
――朝飯食うのダリぃな……昼まで寝るか……。
休日にはいつも隣の住人が友人を呼んで騒ぐ声が聞こえてくるのだが、今日は家を空けているらしく、薄い壁の向こうからは何の音も聞こえてこない。
これ幸いと寝溜めをすることに決めた凌牙は、布団を被り直して二度寝しようとしたのだが―――
「凌牙さーん。起きていらっしゃいますかー?」
眠気に任せて意識を手放す寸前、聞き慣れた声と共に玄関のドアがノックされた。
――アイラか……? 朝から何だよ……うるせぇな………。
今日も今日とて声量大きめな相棒の声に顔をしかめながら、布団を頭から被り直す凌牙。
何の用だか知らないが、寝起きで相手をするのは疲れるため、今日は居留守を使うことに決めた。
そのまましばらく放っておくと、断続的に聞こえていたノックの音が不意に止んだ。
――諦めたか……?
半ば寝言のような状態でそんなことを考えながら、うとうとと微睡みの中に落ちていく。
が、
ガチャリ
何故か鍵を開けるような音が聞こえた。
――……?
頭が事態を認識するより先に、扉の開く音と足音がそれに続き―――
「大丈夫ですか!? 意識は!? 意識はありますの!?」
ようやく意識が現実に向いたときには、侵入者はベッドの横まで到達していた。
「…………………うおぁぁぁ!?」
「きゃあっ!?」
思わず悲鳴を上げて飛び起きる。
こちらの顔を覗き込んでいた愛桜の顎に頭突きをかます形となり、愛桜も2、3歩よろめきながら後退した。
「ふぅ……動けるならひとまずは大丈夫そうですわね」
顎を擦りながら安堵の息を洩らす愛桜。
布団を抱え込んだままベッドの端まで緊急退避した銀髪の青年は、猫のような唸り声を上げて威嚇している。
「凌牙さん、落ち着きなさって。わたくしです、三十日愛桜です」
動転して人語を忘れかけている相方を宥めつつ、刺激しないように距離をとる愛桜。
「お呼びしてもお返事がなかったので様子を見に参りました」
愛桜の言葉を脳が理解するまで数秒。
正気と人語を取り戻した凌牙は、ようやく事態を理解して改めて絶句した。
――あーーー………。
深く長い息を吐いて頭を抱える。
――くそ、油断した……。
ここ最近はなかったのですっかり忘れていた。
「だからって、何で……」
眠気はとうに吹き飛んでしまったが、まだ混乱が続いているのか、頭がうまく働かない。
辛うじて絞り出した疑問に、愛桜はいつも通りの自信に満ちた声で答える。
「中で倒れていらっしゃっては大変ですもの。相棒の体調に気を配るのはレディとして当然ですわ」
「お前な……前にも言った気するけど、レディだってんなら一人暮らしのおれの部屋に一人で入ってくるとか……少しは危ないとか思わねぇのか?」
「?」
きょとんとした顔で首を傾げる愛桜。
何も伝わってなさそうだ。
――ったく………。どっかで本当に危ねぇ目に遭っても……いや、ないか。
カーテン、シーツ、テーブルクロス。
室内は『布』に事欠かない。
服は操れない愛桜だが、どうも見た目が布なら多少加工されていてもよいらしく、精度を気にしなければハンカチなどでも操れるようだ。
普通に生活している部屋で愛桜を襲おうものなら、大概の人間なら絞められて終わりだろう。
とはいえ、危機感を覚えさせるために一回脅してみるか、という考えが頭を過ったが、通じる気がしなかったのでやめておいた。
そこまでしてやる義理もない。はずだ。
そんな凌牙の気苦労も知らず、先の発言の意味を考え続ける愛桜。
「……はっ、もしや侵入者防止のトラップがありますの!? その防犯意識はさすがですが、室内に仕掛けるのは危険では!?」
何やら見当違いの方向で警戒し始め、臨戦体勢っぽい構えをとっているが、凌牙にはもはや訂正する気力もない。
「いい。忘れろ。頼むからここ数分の記憶ごと消せ」
「わかりましたわ!」
やはり何もわかっていなさそうだ。
「そうそう、こうしてはいられませんわ。さあ、凌牙さん、早く支度なさって。このままでは遅刻してしまいますわ」
「はぁ? 何言って…………え?」
『遅刻』という言葉に反応して、無意識に視線が目覚まし時計に向かう。
カレンダー機能のついたデジタル時計には、カクカクした荒い字体で『木』と表示されていた。
つまりは―――粉うことなき平日である。
◇◇◇
愛桜を一旦部屋から追い出し、超速で身支度を済ませ、無駄だと知りつつ全力疾走(愛桜は自転車で先導)。
そうしてなんとか10分程度の遅刻で職場まで辿り着いた凌牙は現在、何をするでもなく時間を消費していた。
一体何故こんなことになったのか。
いや、考えるまでもなく寝坊した自分が悪い。
だが、強いていうならば、愛桜に鍵を渡した奴が諸悪の根源だと思う。
同じ部署に配属された当初から、同期だからという理由で絡んできていた愛桜だが、今のように相棒面しだしたのはもう少し後のことである。
それまでは、凌牙の送迎は同期の別の男の役目だった。
当初は凌牙にもプライドというものがあったので、送迎などいらないと断っていたのだが、寮の部屋が同じ階だからついでだと押しきられ、ずるずると送迎を続けられてしまった。
そうして半年くらい経ったある日、件の同期が転勤することになった。
なにやら家庭の事情で実家のある四国に帰ることになったらしく、当然寮を引き払うこととなった彼は、あろうことかその役目を愛桜に引き継いでしまった。
一度体調不良で室内に倒れていたという前科があるせいで、『また何かあった時に困るから』という言葉に強く言い返せず、スペアキーを持っていかれていたのが痛かった。
彼は役目と一緒にその鍵も渡してしまったのである。
――山下の野郎…次会ったときは覚えとけよ……。
「赤対だって可愛い女の子に迎えに来てもらえた方が嬉しいだろー」などと言って面白がっていた同期のにやけ面を思い出し、静かに怒りを溜め込む凌牙。
もっとも、嫌なら鍵取り返せばいいという発想がないあたり、もうある程度現状に慣れてしまっているようだが。
「まったく、いつまでそうしておられるつもりですの?」
声のした方を振り向くと、凌牙が今最も顔を見たくない相手―――三十日愛桜がすぐそばで仁王立ちしていた。
「………」
「失敗は誰にでもあることですし、気にすることではありませんわよ」
「………そこじゃねぇ」
「ではどこですの?」
「………元はといえばお前が勝手に部屋に入って来るからだろ」
八つ当たりのような口調で言い捨てると、一体どこから聞いていたのか、耳聡く反応した赤い人影が滑り込んできた。
「なになに? なにやらボクの知らないところで面白おかしいイベントが巻き起こってる気がするよ?」
「あら、赤い方。どうされましたの?」
問われた赤い人影―――杭田は、実に楽しそうな笑みを浮かべて答えた。
「ふふん、メアリーの心臓がヤバいらしいから、根本的な解決のための事情聴取だよ」
「心臓が!? それは一大事ですわね! わたくしにできることなら何でも協力いたしますわ。何からお話しましょうか?」
「さすがはアイラさん、話が早いね! それじゃあ早速さっきの話について詳しく! 何がどうしたって? 入ったの? アイラさんが? リョウガ君の家に?」
「がっつり盗み聞きしてんじゃねぇよ、クソサンタ」
「まあまあまあまあ、そう怖い顔しなさんな☆ 聞いて何かが減るもんじゃなし、面白い話はシェアしていただきませんと。全ては皆の心の平穏のために! そしてボクの面白おかしい日常のために!」
明らかに後半の理由がメインだなと思いつつ、凌牙はぐいぐい詰め寄ってくるサンタ服の青年に「消えろ」と一言吐き捨て、あとは黙秘を続けるつもりでいたのだが―――
「―――なるほど、それで機嫌が悪い訳だね」
「そうなんですの。遅刻を気に病んでらっしゃるわけではないそうですが……」
愛桜に口止めするのを忘れていた。
「やはりいきなり起こして驚かせてしまったからでしょうか。だとすればこの三十日愛桜、痛恨の極みですわ……!」
「大丈夫だよ。きっとあれさ。寝起きを君に見られて照れてるだけだよ、多分」
「そういうものですの?」
「なきにしもあらずってね」
「………」
凌牙は殺気のこもった目で杭田を睨んでみたが、全くもって効果がなさそうだった。
「しかし寝起きドッキリかあ……いいね! 夢があるね! その場にいなかったのが悔やまれるよ。これはもう合宿でも計画して皆の寝込みにバズーカを食らわせるしかないね!」
「お一人で全員の部屋を回られるつもりですの?」
「ふふふ、非効率だと思うかい? 大丈夫、ちゃんと秘策がありますとも!」
「といいますと?」
「全員同じ部屋で寝れば一回で済むだろう? 訓練室で雑魚寝というのもなかなか風情がある気がしてきたけどどうかな」
「なるほど、さすがですわ!」
―――何のどの辺がだよ。
止める者がいない会話が混沌な方向に向かっていく。
「よし、同意も得られたことだし、本当にクレイ君に打診してみようかな。合宿って言うのとパジャマパーティーって言うのとどっちが食い付きがいいかなっと」
先にメアリーを手なずけた方がいいかな、などと呟きながら、こめかみをグリグリやって作戦を立てる杭田。
「俺は行かねぇからな」という凌牙の声は見事に黙殺された。




