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Act.24 増殖世界はごり押しで(1)

第二遊撃部隊 執務室


 凌牙(りょうが)愛桜(あいら)会音(えのん)の三人が出動した15分後。

「よし、そろそろ僕らも行くか!」

 書類仕事が一段落したクレイが、ようやく重い腰を上げた。凝り固まった体をバキゴキと伸ばし、机上の書類等を崩れないように整える。

「やーっとですかー? もー、待ちくたびれましたよー」

「さっきまで菓子食ってダラダラしてたやつが何言ってんだ」

 ちょいちょいとクレイが指差す先には、(あめ)やらグミやらクッキーやらのカラフルな袋が散乱している。

 対するメアリーはいたって自然な動作で立ち上がると、机の上にあった菓子(包み紙含む)をまとめて引き出しに流し込み、何事もなかったかのように話を続けた。

「もー、人聞き悪いですー。栄養補給ですよ、栄養補給!」

「あー……まあそれはどうでもいいけど、分別しろよ?」

 (あき)れ3割、諦め7割、といった表情のクレイ。その視線はガッチリとメアリーの机に固定されている。

「そんなに見つめてもムダですよー。乙女の机の中は絶対見せませんからね!」

「見ねえよ! つか、見たくねえわ!」

「ですかー」

 メアリーは何故か少し残念そうに呟くと、思い出したように弁明を始める。

「あ、でも、後でちゃんと片付けますよ? さすがにカビとか生えたらイヤですしー」

「はいはい」

 クレイはメアリーの言葉を適当な相槌(あいづち)で流すと、会話に()ざれずにいた千奈(せんな)の様子を伺う。

 先程からいくらか視線を感じているので、話は聞こえているのだろうが、念のため改めて伝えておくことにした。

「センナ、そろそろ出るけど、用意はいいか?」

「はい、大丈夫です。行けます」

「なら、装備整えて10分後にゲートに集合な。メアリーも行けるか?」

「はーい! 久しぶりの出撃でワクワクしますね! ほら、センナちゃんも早く早くー」

「え? あ、はい。それでは隊長、お先に失礼します」

 やたらご機嫌なメアリーに押される形でバタバタと部屋を出ていく千奈。

 クレイはそれを見送ってから、自分も出撃準備を整えるべく、部屋を後にした。


 ◇◇◇


転界 ゲート付近


 崩壊した建物、周囲に蔓延る血色の植物、遠くにちらつく異形の影。

 いつも通りに異常な異界の空の下に、場違いなほどのんびりした声が響き渡る。

「あーーー、やっぱ外は空気うまいわー!」

 グッと大きく伸びをして、異界の空気を胸いっぱいに吸い込む。

 完全に行楽気分のクレイの目には、毒々しい赤色のネクロポリスも、一枚の絵画のように壮麗に映る。

「外なんですかねー、ここ。ていうか、転界の空気ってキレイなんですー?」

「自然豊かで良いところだろ? てか、(ほこり)臭い部屋に閉じ籠ってるよりは百倍マシ」

 傍らのメアリーの入れたツッコミも、クレイの感情には何の変化ももたらさなかった。

 今の彼はただ、デスクワークから解放された喜びを噛み締めることだけに注力している状態だ。

 ――お疲れだったんですかねー。

 ぼんやりと雲を眺める隊長の横で、メアリーはそんなことを思いながら自らも空を見上げた。

 薄く雲のかかった空は明るく、ゆったりとした雲の流れは、見る者の心とシンクロしていくようにも感じられる。

 こうして頭を空っぽにして、ぼんやりと景色を眺めるような時間こそが、忙しなく生きる現代人に本当に必要なものなのかもしれない―――が、そんなことより今は絶賛仕事中であり―――


 ―――ついでに言うなら、ここは敵地のど真ん中だった。


『―――――――!!』


 名状し難い奇怪な叫びと共に、廃墟の影から、やはり奇怪な形状の怪物が飛び出してきた。

「きゃあぁぁぁ!? ちょっとクレイさん!? 来ちゃいましたよ! 敵!!」

 大慌てでクレイの服の裾を持って思い切り揺さぶるメアリー。

「へ? ああ、うん」

 正気に戻ったクレイが気の抜けた返事を返し―――


 ゴシャァッ!!


 手近にあった瓦礫を掴んで、そのまま怪物を叩き潰した。

 まるでティッシュペーパーの箱で虫を潰すような軽い動作だが、振り回される質量はそんなものの比ではない。

 相手が小型だったのも幸いしたのだろう。核と体の8割ほどを同時に失ったラルヴァは、ビチャリと地面に広がったまま、再生する素振りもなく霧散した。

 クレイは辺りを見回すが、どうやら他の敵はいないようだ。

「よし、っと。んじゃ、諦めて仕事するか!」

 休憩おしまい、とばかりに清々しい顔で歩きだすクレイ。

 黙ってついていく千奈。

 呆気(あっけ)にとられているうちに置いていかれたメアリーは、頬を膨らませながらバタバタと二人の後を追う。

「ええー!? 待ってくださいよー! もーーー!」


 一行はてくてくと廃墟の間を進んでいく。

 ゲートの近くはアスファルトがひび割れ波打っていたため、大変歩き難かったものだが、この辺りは比較的なだらかなようだ。

 先の襲撃以来目立った敵襲もなく、先頭を行くクレイにいたっては、今にも遠足のノリで歌いだしそうな調子だった。

「……」

 その後ろを歩いている千奈は特に何も言わない。周囲を警戒していてそれどころじゃないのだ。

 そのさらに後ろを行くメアリーも何も言わない。こちらはこちらで、すでに遠足気分だからだ。

 時折景色を眺めつつ、全く緊張感のないまま歩き続ける前後の二人を見て、仕事中だとわかる者が一体何人いることだろうか。

「ところでー、今日のお手伝いって何するんですー?」

 目的地まであと少し、といったところで、メアリーが思い出したように口を開いた。

 仕事内容の確認という、今さら過ぎる質問に、クレイは首だけを後ろに向けて振り返る。

「あれ? 資料渡さなかったっけ?」

 すぐさま(うなづ)いて見せる千奈。

 今いきなり説明しろと言っても普通に対応出来そうな落ち着きぶりだ。

 おそらく渡した資料も隅から隅まで目を通しているのだろう。

 ――真面目だよなあ。

 斜め読みで済ませてしまったクレイが感心したような視線を送る。

 ――まあ、だからこそあの二人とはまだ行かせられないんだけど。

『あの二人』とはもちろん、今現在八谷(やたがい)会音と共に別任務に行っている二人―――赤対(しゃくつい)凌牙と三十日(みとおか)愛桜のことである。

 馬鹿正直にあの二人のやり方を覚えられたら確実に苦労する。主に周りが。

 乾いたスポンジのように吸収してくれるのはいいが、余計なものまで吸いそうなのが難点だ。

 ――一日中奴らと一緒にいたら、朱に交わってショッキングピンク―――みたいなことになりそうで怖いんだよな……。

 その点、会音ならばまだいくらか耐性があるだろう。やり方に違和感を感じたら一応つっこむだろうし。

 このチーム分けは間違っていないはずだ。

 自分に言い聞かせるように深く頷くクレイ。

 ちなみに会音は今、迷子になったり余計な戦闘に巻き込まれたりして精神をガリガリと削られている真っ最中なのだが、クレイはあえて彼の現在については考えないようにしていた。

 それはさておき、今問題なのは目の前でわざとらしく目を逸らしているメアリーの方である。

「……さては、読んでないな?」

 ジトッとした目でメアリーを見つめるクレイ。

 メアリーは全力で視線を合わさないようにしていたが、やがて堪え兼ねて口を開く。

「えと……ざーっとは目を通しましたよー?」

「ざーっとじゃ駄目だろ、ざーっとじゃ」

「いいじゃないですかー。どうせお手伝いだから、行ったら指示くれるんですしー」

 そっぽを向いたまま、メアリーは口を尖らせる。

「そりゃそうだけどな……」

 溜め息をついて肩をすくめるクレイ。

 確かに今回に関してはそれで問題はないだろう。

 急(ごしら)えの資料には大した内容は載っていなかったし、詳しいことは既に現場にいる他の隊の人間が知っている。

 彼らの任務はあくまでもサポートだ。決定権はメインの部隊が握っている。

 文字通り『お手伝い』なのである。

 入念に準備して向かっても、現場の判断で無駄になることは多い。

 それはそうなのだが―――

「こうやって効率化を図るのも仕事のうちですよー」

 そんな風に胸を張られるのはちょっと腹立つ。

 が、その前に気になることが一つ。

 ――資料を読むより現場の指示を聞いて効率化……。

 純真で素直すぎる新人が、先のメアリーの戯れ言を熱心にメモしていることだ。

 ――真面目……なんだけどなあ………。

 決して悪い習慣ではないのだけれども、()()をメモるのはやめて欲しい。

 今訂正しないと後に響くと判断したクレイは、ついでにメアリーに文句を言ってやろうと口を開きかけたのだが、

「あっ、見てください! 第五部隊の人じゃないですか、あれ?」

 お小言の気配を察知したメアリーに遮られた。

「えっ? あ、本当だ。聞いてた座標より近いな」

 指差された方を見てみれば、確かにそれらしき一団が見える。

「いいじゃないですかー。合流出来たんですし」

 メアリーは特に気にした様子もなく、のんびりとそちらに向かって歩を進める。

 しかし、遠目にわかる部隊の動きは、どうにも悠長に構えていられる雰囲気ではなさそうにみえる。

「なあ……なんかおかしくないか、あれ?」

 部隊の後方は、立ち上る土煙で霞んでいた。

 その奥に、無数の影が(うごめ)いているのが見える。

「あー……なんか、いますね。しかもたくさん!」

 シルエットから、人のものとは思えない。

 つまりは―――敵だ。

「隊長」

「ああ、急ぐぞ」


 ◇◇◇


 第五部隊副隊長、五百森龍座(いおもりりゅうざ)はちょっと飽きてきていた。

 短く刈り揃えた髪を明るい茶色に染めた、チンピラ風の男だ。背が高く、それなりに筋肉質でもあるが、それを含めてその辺のごろつきといった感じである。

 一点、異様な点を挙げるとすれば、彼が片手でくるくると弄んでいる物体―――身の丈以上の大剣だろうか。

 ――ったく、キリがねぇなぁ、畜生。

 面倒くさそうに舌打ちしながら、飛び掛かってくる異形を斬り倒す。

 ジュウッ と焦げ付くような音と共に、黒焦げになって両断された異形が地面を転がる。

「ひぃっ!?」

 後ろにいた技術者が悲鳴をあげるが、龍座はそれに構うことなく別の異形を切り伏せる。

 周りの部下達も同じように、手当たり次第に敵に斬りかかっている。

 だが、戦闘が終わる気配はない。

 倒しても倒しても、敵が湧いて出てくる。

 彼らの周囲を取り囲む敵は、皆同じような姿をしていた。

 厳密にいえば、全く同じという訳ではない。

 だが、それらは皆、『鳥の形の粘土を押し潰したような』姿をしていた。

 無論、個体によっては足が10本くらい出ていたり、表面にびっしりと(くちばし)が並んでいたり、明らかに爬虫類(はちゅうるい)的なパーツが生えていたりするあたり、たとえ潰されていない状態があったとしても、それは普通の鳥ではなかっただろうが。

 不定形の魔物が鳥に変身する途中で止まってしまったかのような、歪で、未完成で、不完全な異形の群れ。

 最初の1体と交戦してからかれこれ1時間弱。

 小型で弱いとはいえ、なにぶん数が多すぎる。

 もし今龍座本人に訊けば、この倍は余裕だと答えるだろうが、彼の部下達はそろそろ体力の限界が近い。

 いくらかは振り切ったとはいえ、今の状態で押し切るのは難しいだろう。

 近くで戦っていた部下の一人が、目の前のラルヴァの消滅を確認して一息つく。

 それを見計らっていたかのように、別の個体が死角から襲いかかる。

「おい、ボサッとすんじゃ―――」

 危険を察知した龍座が割って入ろうとしたところで―――


 彼方から飛来した重量級の物体が、怪物を砕いて地面にめり込んだ。

 ズンッ と地響きにも似た衝撃が走る。

「うおっと!? ……こいつは―――」

 新手かと身構えた龍座は、地面に深々と突き刺さる物体を確認して、一転、楽しげに口元を歪ませた。

 それは、酒樽にポールを付けたような、巨大なハンマーだった。

 彼の予想を裏付けるように、大岩が次々に敵の頭上に振ってくる。

 衝撃が連続し、土煙が舞う。

 龍座の一番近くに落ちた岩の上に、誰かが降り立った。

 地の色よりさらに明るく染め上げられた、イエローに近い鮮やかな金髪。スポーツマンのような快活な印象の青年だ。

「遅せぇじゃねぇか、重役出勤か? 随分偉くなったじゃねぇの、お坊ちゃん」

 龍座の軽口に、クレイも苦笑しながら応じる。

「一応こっちの方が階級上だっての。っつーか、お坊ちゃんはやめろって。あ、ちなみに怪我は?」

 クレイの問いに手をヒラヒラさせて答える龍座。

「あるわけねぇだろ、このくらいでよぉ」

「なら加勢は余計だったか?」

「おうよ。俺はまだまだ余裕だぜ? 救援要請は佐藤が勝手にしただけだしな」

 軽快にシャドーボクシングをしてみせる龍座。その顔には強がっている様子は見られない。どうやら本気でそう思っているようだ。

「いやいやいや、こっちはもう限界ですって! ……すんません、そしてお疲れさまです、ローウェル隊長」

 佐藤と呼ばれた部下がペコペコと頭を下げる。

 龍座とは反対に、その表情にはくっきりと疲労の色が浮かんでいる。

 その原因は恐らく、今の戦闘によるものだけではないだろう。

「こっちこそ悪いな。こんな切羽詰まってるとは思ってなかった」

「近頃の若者はヤワだからなぁ。ま、負荷がなきゃ人間成長しねぇだろ? いわば愛の鞭ってやつさ」

 他人事のような調子の龍座を視界の隅に追いやって、クレイは佐藤の肩をポンと叩いて言う。

「えっと、その……負けるなよ。逃げてもいいからな」

 あまりにもふわっとしたアドバイスに、部下は苦笑いを返すのみだった。


 と、そんなやりとりをしているうちに、敵が再び包囲を狭めてきた。

「うわっと、立ち話してる場合じゃねえな。それで? こいつら片付けりゃいいのか?」

「ああ、詳しいことはその後話す」

「了解」

 ハンマーを拾って構えるクレイ。

 その横に、ようやく追い付いたメアリーと千奈が並んだ。

「もー! 置いてくなんてひどいですー!」

 プンプンと()ねたように拳を握るメアリーを軽くあしらいながら手早く指示を出す。

「はいはい。文句は後でな。まずはこいつらを倒してからだ」

「了解しました」

「むー、ホントに後で聞いてくださいよー?」


 ◇◇◇


数分後


「ふう……こんなもんか」

 一体一体が大して強くないこともあり、体力満タンなクレイ達は、それほど労せず敵の群れを退けることに成功した。残っていた個体も撤退し、周囲に敵の姿はなくなった。

「はぁ………」

 安堵(あんど)し、地面に足を投げ出すようにして座り込む第五部隊の面々。

 千奈も警戒こそ解かないものの、今は能力を解除していた。

 前回までの教訓を生かし、油断なく周囲を見回す千奈。

 だが、そんな彼女の意識をすり抜けるように―――白く、細い腕が死角から伸びる。


「おっつかれさまでーす!」

「ひゃああっ!?」


 真後ろから突然抱きつかれた千奈が悲鳴を上げる。

「もー、固いですよー。緊張です? ピリピリしてもいいことないですよー?」

 狼狽(うろた)える千奈にしがみついたまま、コロコロと笑うメアリー。

「でっ、でもここは転界ですし、警戒を解くわけには―――」

「ふふん、そんな正論をほざく子は強制的にリラックスさせちゃいますよー?」

 メアリーの顔に浮かぶのは、完全無欠ないたずらっ子の笑み。

 ニヤリという音が聞こえてくるようだ。

「それそれー」

「ひゃっ!?、あっ、あははっ! ちょっ、脇腹はやめて下さ―――」

「ふむふむー、なら首元ですっ」

「ふぁっ!? ははっ、やめて下さいってー!」

 思ったより反応が良かったことがお気に召したのか、なおも千奈をくすぐり続けるメアリー。

 艶のある黄色い声が脱け殻の街に響く。

 姉妹のようにじゃれる二人を周囲が和やかに見守るなか、その輪から少し外れたところで、不意に真面目な顔になったクレイが口を開いた。

「で、結局今どういう状況なんだ?」

「ああ、それな。いや実はな―――」


 龍座の説明(と横で聞いていた佐藤の補足)をまとめるとこうだ。

 彼ら第五部隊の面々の今回の任務は、技術部のエンジニアの護衛だった。

 MSSの特務部討伐課は、ラルヴァとの戦闘を含む業務を担当する部署である。『討伐』と名がついているが、その業務内容は、部隊ごとに異なっている。

 第二部隊の担当は遊撃(というか直接戦闘)、そして第五部隊の担当は護衛である。

 彼らの主な仕事は、技術者や研究者などの非戦闘員が転界で作業する際の護衛だ。作業場の安全を確保や、近づいてきた敵の排除を行っている。

 今回は、破損した計器の取り替え作業を護衛する予定だった。

 最近、ある一定区域に設置したカメラ等の計器が次々に破損している。

 破損理由については、第四部隊が目下調査中だが、まだ詳しいことはわかっていない。

 それはさておき、早く直さなければ他の任務にも支障が出るということで、こうして取り替え作業が平行して行われることになった。

 そうして、計器付近のゲートでは小さすぎて作業が出来ないため、転界まで赴いた訳だが、作業の途中で異変が起こった。

 近づいてきた小型のラルヴァを排除したところ、何処からともなく同様の個体がわらわらと集まってきてしまったのだ。

 あっという間に作業どころではなくなり、作業者を守りながら移動していたところでクレイ達と合流したということらしい。


「多分どっかに巣があるんだろうよ」

 面倒なこった、と肩をすくめる龍座。

 聞いていたクレイはげんなりした様子で、

「あー……。てことはこれ、あれか? 本体叩かないと無限に出てくるタイプのやつ?」

「多分な。ついでに、今回カメラが壊れた原因もそいつらじゃねぇの?」

 大きな溜め息とともに返事が返ってくる。

「その巣の場所は検討がついてるのか?」

「んー、多分あっちじゃねぇか?」

 龍座は自分達が来た方角を指して言う。

「一体目を倒したところと比べりゃあこの辺は奴らの増援が少なくなってたからなぁ。あっちの方は凄かったぜ? ゲームの雑魚キャラみてぇにボコボコ湧いてくるんだもんよぉ」

「そうなると……巣を探すにしても、守りながらってのはキツいな」

 非戦闘員である技術者達は勿論だが、第五部隊の他のメンバーも戦えるような体力は残っていない。彼らを守りながら敵の巣を叩くのは得策ではないだろう。

「いっそ一旦帰るか?」

「そうだな。そうしたいけど……」

「けど、何だ?」

「……ここに来る時、ゲート付近であいつらと同じようなラルヴァと遭遇したんだ」

 転界に入ってすぐ、クレイが叩き潰した小型のラルヴァ。あの時は特になんとも思っていなかったが、よく考えると同種だったように思う。

「マジかよ。結構離れてるだろ」

「ああ。てことはだ。奴らのテリトリーは絶賛拡大中ってことになる。それに……」

「まだなんかあんのかよ」

「気付いてただろ。奴ら、途中から増えなくなってた。今の話じゃ、無尽蔵に出てくるような感じなのにだ」

「……つまり?」

「あれの親玉は、それなりに知能があるかもしれないってことだ」

 ただ分身を周囲に撒き散らすだけなら問題はない。面倒な相手ではあるが、力業で押し切れるだろう。

 だがもし、本体が分身を操れるなら、少々厄介だ。あの数で連携をとられるかもしれないし、分身を(おとり)にして逃げられるかもしれない。

 場所が分かるうちに本体に奇襲をしかけておきたいところだ。

「時間を与えるべきじゃない、か」

 クレイが黙って頷く。

 敵が退いたということは逆に、あの分身を温存しておきたいということだろう。増殖が無制限でないなら、今はそれなりに消耗しているはずだ。

「なら、二手に分かれるか」

「そうするしかないよな」

 龍座の言葉にクレイも同意する。

「じゃ、あいつらにも伝えてくる」

 そう言って、まだ騒いでいる千奈とメアリーの方に歩きだす。

 過呼吸になる前に、いい加減助けてやらなくては。


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