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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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画鬼

作者: 雪河馬
掲載日:2020/02/16

瘴気はいつ、どこで生まれたのかわからない。


おおよそ魑魅魍魎はそういうものだ。

妬み、恨み、怒りといった負の感情が澱みとなる。

ほとんどの澱みは浄化されて無となるが、中には消えぬ澱みもある。

深い深い怨念は人に残れば人を、依り代に宿れば依り代を鬼と化す。

宿主を見つけられぬ澱みはやがて集まって瘴気となるのだ。


瘴気はまだ形を持たないが故に形を欲する。


くだんの瘴気は長い年月、風に吹かれて人里離れた山中を漂っていた。

時は流れ、人の手が山中に入った。

人は山を開き、道を作る。

瘴気の通り道に道が出来た。

瘴気は道路に彷徨い出て、濃い霧となる。


たまたまトラックが通りかかり、霧に呑まれた。

瘴気は荷台に潜り込みんでいく。


街に戻りトラックは停車し、運転手は何もなかったかのように車を降りて立ち去る。

エンジンが冷えていくと興味を失った瘴気は離れていった。

ふらふらと瘴気は街を漂う。


瘴気はやがて図書館に流れつき、扉の隙間から中へと流れ込んでいく。


夜の図書館は死者の世界。

知恵はあるが意思を持たない書籍たちが規則正しく無言で並ぶ。

それはまるで墓石のように。


瘴気はようやく依り代を見つけたのだ。

まるで喜んでいるかのように本の隙間に這い入り、そして這い出す。

光が足りない。

瘴気は再び彷徨う。


補修のために開かれたまま置かれていた画集がそこにあった。

瘴気が画集を覆うと青年が浮き出て、やがて形となった。

死者はかりそめの生命を持った。


その男はあたりを見回し、「ふむ。」と小さくつぶやき、なにやらを探し始めた。

やおら数冊の本を手に取り床に撒く。


瘴気がそれらの本を覆うと、先ほどと同じように人物が本から現れる。

落武者、騎士、そして鬼。

図書館の中にたくさんの形が満ち溢れた。


「ウラメシイ・・・・。」


絵から浮き出した落武者が呟く。

呟きは合唱となり、外に漏れ出していく。


午前2時、終電を逃してコンビニの前に座り込む4人の男女。


「ん?なんか変な声聞こえてこない。」

酎ハイを飲みながら、ショウはアキラに尋ねた。


「いや、何も。なんか聞こえたんか。」


「なんか気持ちワリい声があっちのほうから聞こえた気がする。」


アキラは手を下に向けてブラブラとふる。

「そりゃ・・・でたんじゃないかあ。」


「やめろよお、こんな夜中にそんなこというの。」


アキラはビール缶を投げ捨てて立ち上がった。


「ほんじゃ見に行きますか。」

「おいおい、バケモン出てきたらどうする。」

「あら、信じてるんだあ。ショウくんたらおかわいいことで。」

「馬鹿、冗談だよ冗談。」


ショウは赤くなった顔を隠すように横を向いて、女の子たちに話しかける。

「レイナとユッキーはどうする。」


レイナは酔って視線の定まらない目で答えた。


「あたし、パス。面倒なこといや。」


ユッキーはふらふらと立ち上がる。


「わたし面白そうだから行きたいけど、レイナ置いてくの心配だし。ショウ、レイナ見といてくれる。」


ショウはほっとしたが、それを誤魔化すように強がった。

「そ、そっか。じゃあ残念だけど俺はレイナと待ってるわ。」


安堵の表情で二人を見送ったショウはあるものに気づいた。


あれ?霧がでている。



「ねえ、アキラ。なんかケムリが出てきてない。それにちょっと寒い。」


「そっか、レイキってやつかあ。俺は怖くないぞ。おーい、おばけちゃああん。」


「ちょ、ちょっと大声出すのやめなよ、恥ずかしいし。」


「あはははは、どうせユッキーだって俺と二人っきりになりたかったからついてきたんだろ。なあ、このままどっかいこうか。」


アキラは腕をユッキーの腰に回して抱き寄せキスをする。


「やめてよお、こんなところで。」


絡みついてくる、アキラを引き離そうとしていたユッキーが何かを見つけて指差す。


「ねえ、こっちに向かって歩いてくるの、人じゃない。やだ、なんか変な格好している。」


はぐらかされたと思ったアキラは不満げな表情を浮かべた。


「こんな夜中にぞろぞろとキモい奴ら。俺、ちょっと見てくるわ。」

「アキラぁ、ちょっとやめときなよお。レイナたちのところに戻ろうよお。」


ユッキーの制止がかえって火に油を注いだようで、アキラは集団に向かって手を振り上げながら向かって行った。


「おらあ、おめえらなんだよ・・・・。」


集団に近づいたアキラは突然振り向き、ユッキーに向かって叫んだ。


「やべえ、逃げろ・・・・。」


駆け出そうとするアキラの背中を鎧武者が袈裟斬りにした。

血の赤い噴水が上がり、アキラは驚愕の表情のままゆっくりと前のめりに倒れていく。


「ひ・・、ひ・・・・、ひいいい。」


ユッキーの口から意味不明の言葉が漏れる。

逃げないといけないのに、足に力が入らない。

腰が抜けて尻から倒れ込んだ。

そのまま腰であとずさりするユッキーに向かって何十人という群れが近づいてくる。

その中には頭に角の生えた男までいた。



「遅い、もうなんでだよお。」

ショウはさっきから同じ言葉を繰り返していた。

レイナはとうとう寝てしまったし、いつまでたっても二人とも帰ってこない。


それに、霧が近づいてくる。

あの霧は不吉だとショウの潜在意識が告げる。


霧の中に人影が見え、その姿が近づいてくるにつれ安堵のあまり涙をこぼした。


ユッキーとアキラだ。ふたりとも手を振っている。


よかった・・・・・・。


え?




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