地下アイドル
俺は直ぐ後悔する事になった。焼そばパンなんて庶民の食い物は学園内には売って無かったからだ。
その辺にいた生徒いわく学園を出て坂を下って最初の信号を左に曲がった所にある[庶民食堂]と言う嫌みたらしい名前の店にしか売ってないと言う話だった。因みに値段は1個3千円。全く庶民の値段ではない。
だが何とかダッシュで買いに行きダッシュで戻ると道元凪沙はホクホク顔で受取りあっと言う間に平らげた。
結局、道元凪沙についてはスポーツ万能、頭脳明晰、家柄も最高、大食いのチート烈女と言う事しか分からなかった。
何故屋上から飛び降りて平気なのか、何故シャボン玉に乗れるのか?と本人に聞いてみても、「いつの間にか出来る様になった。逆に何故皆んながこの程度の事が出来ないか分からない」と素っ気なく言うばかりで何の手掛かりも無い。
帰り道溝下町の駅前を通りがかったら凄い人集りが何かを囲んでいた。
くっそ邪魔くせぇなコイツら。イライラしていたらその中の1人とおもいきりぶつかった。
「す、すいませ…⁉︎」
「いてて、気をつけたまえ、全くけしからん」
メガネを直しながら悪態をついて立ち上がったそいつは中学の頃の担任、ウザ村こと下村あつおだった。
メガネでスポーツ刈り、中肉中背の30代独身で、真面目だが独善的であまり生徒から好かれてはいなかった。
「モテ太郎じゃないか!何をしてるんだこんな所で」
「ええ…先生こそ何してるんですか、そんな格好で」
下村はピンクの法被を羽織り、ろるろる最高♡と書いてある鉢巻きを巻き、同じ様な事が書いてある団扇を持っている。
「せ、先生は青少年が繁華街で不健全な遊びに興じていないかパトロールしてるんだ」
絶対嘘だ…。
「ホッホッホッ初心じゃのう」
突如現れた老人はフレンチブルドックと亀の合いの子みたいな容姿で下村と同じ様な格好をしていた。
「とっ徳川様っ‼︎⁉︎」
「あっどうもこんにちは…」
「こらっモテ太郎!こちらにおわすお方をどなたと心得る。恐れ多くもあの徳川自動車の会長、徳川埋蔵様であらせられるぞ!頭が高い!控えいっ!控えいっ‼︎」
俺が軽く会釈してる間に下村は地面に這いつくばっていた。確かにこの老人、パッと見冴えないが立ち振る舞いに風格がある。
「これこれアンタこそ、その様に畏まらんで良い。此処では皆等しく少女を愛でる同志じゃ。わしとて一塊のアイドルオタクに過ぎん。」
「はぁ」
av女優なら兎も角、俺はアイドル等に興味は無かった。
「坊やは興味無いのかね?地上最強のアイドルは誰か。今日ここに集まった者達は皆見に来とるのじゃよ。地下アイドル闘技場最大の大会、アイドルパンチラチオンを制した最強のアイドルユニットろるるりを。」
「はぁそうですか。じゃあ僕は帰ります。」
アイドルとか糞どうでも良い。今日は疲れたし、早よ帰ってシコってねよ。
「モテ太郎ーー‼︎」
突然の下村の怒声に俺は少しビクッとした。
「徳川先生がこうまで熱く語って下っているのにお前はスルーして家に帰るのか⁉︎どうせアイドル見るよりav見てシコって寝よとか考えているんだろう!」
何だコイツ、下村ってこんな冗談言う奴だっけ?いや、どうやら至って真面目の様だ。目が座っている。
「ま、まぁそうっすね。僕も思春期ですし」
俺がそう言うと同時に徳川が吠えた。
「AV女優など最弱にして下劣‼︎」
余りの迫力に下村も俺もたじろいだ。周りも心なしか静かになった様に感じた。
「生徒の教育を誤ったな…下村くん…」
「もっ申し訳ございません〜ッ‼︎」
下村が地面に頭を擦り付ける。
「真のエロス、官能とは自分から股を開いてアピールする事に有らず。男の視線に無自覚な無垢なる挙動にこそ宿るのじゃ!」
「は、はぁ」
「百聞は一見にしかず。見ていくと良い。最強の官能をッ‼︎」
歓声が一段と大きくなって2人のアイドルがステージに現れた。
「皆んな今日も集まってくれてありがと〜」
「「ろるろる&るりるり! 2人はろるるりー‼︎」」
\わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ/
大歓声が2人を包むッ‼︎ 下村と徳川はもう絶叫していた!
「ろるろるーー‼︎」「るりるりーー‼︎」
これ普通に周りに迷惑なイベントだな…。
「下村くん…地上最強のアイドルはるりるりちゃんじゃよ!何度言ったら分かるんじゃ。彼女は唯のアイドルじゃない。あの一流女性雑誌ギシアンの表紙を何度も飾る程のモデルでもあるんじゃよ?」
「すいません先生‼︎でも僕は小さい子が好きなんです!」
下村ってやばい教師だったんだな。2人に引きつつアイドルを見ていたが、一生懸命踊るなかチラ見えするパンツを見て俺はアイドルも満更でも無いなと思うのであった。
パンツを見ながらいつの間にか他人を押し除け最前列まど辿り着いた俺はある事に気付いた。るりるりと名乗るこのアイドル、九条るみかだ⁉︎