渡し守カトル
小舟には体格の良い色黒な少女が1人オールを持って乗っていた。それを見たメナは震える声で怒鳴る様に問いかける。
「貴方は誰ですか⁉︎オルカは何処へ行ったのです?」
「親父は体調を崩しててな、私が代わりに来たって訳よ。私はオルカの娘、そして1番弟子のカトルだ!渡し守を頼んだのはあんた達かい?」
「そうですが‥私はオルカを信頼して渡りを頼んでいたのです。貴方にデボンの荒波を渡る事が出来るのですか?」
カトルはメナの不躾な質問にも関わらずニカっと笑って答えた。
「私はガキの頃からカンブリアの荒波の中で育ってきた。デボン内湾を渡る程度の事は朝飯前よ」
「メナ、どの道俺たちだけではもう何処にも行けない。カトルさんどうか宜しくお願いします」
俺は非礼を詫び頭を下げた。するとカトルはまたもやニカッと笑うと手を差し出して言った。
「渡し代を先に貰おうか?10万マギーだ」
‥まだそんなに金あったかな?
「約束は2万マギーの筈でしょう!ボッタクリにも程があります!」
無邪気に巾着袋に伸ばした俺を制しつつメナは青筋をたてて怒鳴った。
「私はあんた達を海の向こうに連れて行かなくても一向に構わないんだぜ?むしろあんた達がくたばるのを待ってスウィートランドに引き渡した方が良い位だ。フレイムランドから出たい奴なら兎も角、この国から逃げたいなんてどうせお前らお尋ね者だろう?お前たちの屍にマギーは幾らくれるかな?」
一瞬で無表情になったカトルは淡々と畳み掛けてきた。
俺は黙って巾着袋をカトルに投げ渡し船に乗り込んだ。無事渡れたら力ずくで取り返してやる。
メナも激怒していたがどうしようもなく渋々小船に乗り込んだ。
小船の上での生活は過酷だった。今にも沈むんじゃないかと思う程揺れる船の上で俺の胃袋は空っぽになり、一切の食物を受け付けなくなった。
小船とはいえカトルの船は犬小屋に毛が生えたような程度の屋根があり、2重底になった船底には何日分かの食料と水が入れてあった。デボンの森で憔悴しきっていた俺にとって初めは中々快適にすら思えたが直ぐに俺は船縁にしがみついて胃が空になっても吐きまくる事になった。
俺は落ち葉の様に揺れる船の上から何度も落ちそうになり、メナに懇願されて這いつくばって船の屋根下に戻った。そのヒキガエルみたいな不様な姿を見てカトルはカラカラと笑う。
しかし大金を要求するだけのことはあってカトルの船捌きは見事な物で朝に夕に船を漕ぎ、小さな帆をはったりで馬鹿みたいに揺れる割には船は転覆しない。
5日たちようやく船酔いにも慣れた頃、前方に小さな島が青い海と空の下にぽっかり空く穴の様に見えてきた。
流石にカトルもやや疲労の色を浮かべた顔で汗を拭いながら言った。「あそこで3日小休止だ。親父の様子も見てえしな」




