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剣王ソルド

<ギチギチギチギチ>

巨大な蜘蛛に姿をかえたポイズンコックローチは牙を鳴らし合体していく。その姿はどんどんデカくなり森の梢を突き抜け天に届かんばかりだ。こうして見ている間にもますますデカくなり止まる様子もない。メナも俺も呆気にとられて言葉も出なかった。


しかし果てしなく巨大化していく怪物を前に意を決したメナが叫んだ!

「仕方ありません!私が全魔力でここは時間を稼ぎます!モテタロー様は来た道を戻ってマギーに投降して下さい‼︎」


「馬鹿な!?メナはどうなる?やっとここまで来たんだぞ!」


「貴方だけでこのままデボンを抜けようとするよりは生き抜ける可能性はあります…」


俺は剣を抜きメナとポイズンコックローチの間に立った。全く勝算は無い。だが女を盾にして逃げて敵に命乞いするくらいなら死んだ方がましだ。


「まだまだ青いがその闘志は良いぞ小僧…」

俺達の横から誰かが口を挟んだ。


欠伸まじりに森の梢から出てきたのは40台後半位だろうか?一見細身だが鍛え上げられている身体を持った男だ。姿は寝巻きの様な粗末な服装で剣は腰に刺してはいるが抜いてもいない。


俺はふと気づいた…ポイズンコックローチの膨張が止まっている。いや膨張だけでは無い。一切の動きを止めて静止している…。


「心技体と言う様に先ず精神が弱くては強くはなれぬ。お前は見所がある。ここで死なすのは惜しい」

男は静かに片手でサーベルの様な剣を抜き怪物に向けた。


その瞬間っ!雲を突かんばかりの怪物は弾ける様に散り散りになり雪崩れの様に俺達の方へ崩れて来た。しかし襲いかかってくる訳でも無く川の中洲の様に俺達を避け後ろへ走って行く。


いつの間にか沈黙だけが俺達3人を包んでいた。

「ふぁ〜あ、強すぎるってのも退屈なもんよ」

男が剣を振ると黄色い怪物の体液が飛び散った。男が剣をしまった時俺は初めて気づいたのだ。足元に果てしなく広がるポイズンコックローチの死体の山に。流れる川の水が中洲を残して過ぎてゆく様にポイズンコックローチが俺達を避けていたのでは無い。この男に斬られていたのだ。一体いつの間に?俺からはただ片手で剣を向け突っ立っている様にしか見えなかった。


「た、助けてくれてありがとう。し、しかしあ、あんたは一体…」


「剣王ソルド、貴方ですね?」

俺の言葉に被せる様にメナが尋ねた。


「このお方を知ってるのか?」


「モテタロー様、こいつはクズです。貴方がお礼を言う程の人物ではありません」


「おいおい、命の恩人に対してあんまりじゃないかな」

ソルドと呼ばれたオッサンは弁明しながら頭を掻いて笑った。


「どうしたんだメナ、この人の言う通りだ無礼はよせ」


「彼は唯の戦闘狂。貴方を助けたのも漁師が小魚を見逃すように獲物を育て様と値踏みしただけです」

話した後納得のいかない感情を俺の表情から読み取ったらしいメナが続けた。

「モテタロー様もいずれソルドの治める国シューシュラに行けばわかります」


ソルドはフッと呆れた様に鼻で笑った。

「どうやらそこのお嬢さんは俺の事をよくご存知の様だ。だが果たして生きてこの森を出れるかな?我が国は遥か北西にある。そしてデボンは広大だ。この迷宮と呼ばれる森の脅威はまだまだこんな物じゃないぞ」

最後の方の台詞は脅しと言うより本当に心配している様な口調だった。


「モテタロー様はゴルドラ様に選ばれし真の勇者、御心配には及びません」


ゴルドラ…?俺を召喚したのはマギーの筈だが?だがソルドの顔がその名を聞いた少し固くなった様に見えた。

「なるほど、道理でポイズンコックローチどもがああも巨大になる訳だ…」


ソルドは背を向けて歩き出した。

「それはますますお前達の成長が楽しみになってきた。近くの蟲は片付けてやる。必ず生きて森を抜けろよ」


親切なオッサンだ。しかしその後ろ姿が笑いを押し殺している様に見えたのはメナのせいだろうか?

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