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真の勇者

何故こんな事になってしまったのか…。

俺は城の薄暗い地下室で立ち尽くしていた。蝋燭の火が俺の心の様に揺れている。

「モテタロー、こいつを斬り捨てよ。それが最後の試練だ。」

そう言われた俺は自分の眼を疑った。猿ぐつわを噛まされ目隠しされて後ろに手を縛られ跪かさせている少女こそ、この狂った異世界人のなかで唯一俺を助けて身の回りの世話をしてくれていたメイドであるメナだったからである。


「な、何故メナさんを斬らなければならないんですか?」


「…第一にこのメイドは他国のスパイである疑いがある事、第二にスチル流剣術を極める為には一切の情を捨てねばならぬ為だ。」


「…⁉︎」


「武術や剣術とはつまりは他人を殺す術だ。一瞬でも敵に対して情がよぎれば剣速が鈍り隙を生まれる。その甘さ、弱さを全て捨て去った者が振るう剣こそ神速の剣!貴様も此処で己の弱さを斬り捨てマギー様の為剣を振るう真の勇者となれ‼︎」


百戦錬磨の兵士であろうムキダッテの言う事は有無を言わさぬ説得力があり、その合理性もこの異世界に来て俺もそれなりに戦いの場数を踏んできただけに実感として理解出来た。


突然ムキダッテの剣が俺の喉を掠めた。

「正に今のお前だ、モテタロー。情を捨てれず葛藤する貴様は隙だらけだ。ここで情を斬れねば今迄の訓練は全て無駄になるのだ」

あの地獄の様な訓練が無駄になる…。なによりもそれは耐え難い様な気がした。実際今の実力なら咄嗟にさっきの剣にも反応出来た筈だった。俺は生唾を飲み剣の柄に手を伸ばした。

「そうだ早くしろ。情を捨て去った果てに真の強さがある」

ムキダッテが満足気に頷く…。


[ザシュ‼︎]

血がほとばしった。


「ッ!何をする!」


俺は直前までメナを斬る素振りをしてムキダッテに剣を渾身の力で叩きつけた。咄嗟にムキダッテは腕でガードし、刃はムキダッテの太い腕を斬りおとせずに軽く食い込んでいた。固い。こいつもうシールドを練ってやがる。


「大した事ねーな。情を捨て去った強さとやらもよ!」

俺が挑発するとムキダッテは剣を押し退け無言で柄に手を伸ばす。抜かせるか!剣を抜かせれば俺が危うい。俺は息もつかず連続で剣撃を放ったがムキダッテはある時はシールドで弾いたり、身を引いたり、スキル金属化で全て捌ききってしまい遂に自らの剣を抜いた。


俺はびびって後ろに飛び距離をとった。汗が頬を伝う。

「どうした?もう後は無いぞ」

ムキダッテの言う通りだった。そこまで後退した覚えは無いのにいつの間にか最早後ろは石壁が阻んでいた。急にこの部屋が狭く感じ息苦しくなってきた。目の前のムキダッテが急激に大きくなった様な重圧を感じ俺は気後れした。


失敗だった。さっきの不意打ちは。あそこでムキダッテを殺せればコッピは手を叩いて喜び、ムキダッテを殺せるなら勇者の資格十分でしゅ!とか何とか言って俺を庇い、この国から送り出してくれたに違いない。

マギーはこの国に死刑は無いと言っていたからムキダッテの独断だろう、メナの処刑も回避出来た筈だ。

それが今や壁と同化しそうな程俺は追い詰められ、処刑されそうになっている。


「お前程度の腕では俺は斬れん。もう一度言う。メナを斬れ!そうしなければお前が俺に斬られる事になるぞ」


「やってみなきゃわかんないだろ。大切な人を守れない強さ何て俺には必要ねーんだよ…」

そうだ俺は夏姉を助ける。そして皆んなと元の世界に帰る事を目標に今まで耐えてきたんだ。


「では死ね」

ムキダッテが迫り来る。地面が揺らぐ程の踏み込みと共に。

剣を前に盾を奥に構えて真っ直ぐ俺の心臓を貫こうと高速で凄まじい突きを放ってきた。


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