マギーの野望
「嘘だろ…」
あのボリョクが呆気なく倒れて起き上がる気配も無い。突然ボリョクの分身も掻き消えた。いつの間にか地面を覆っていた小虫も消えている。
思わず俺はババアに雲を下降させるとボリョクに駆け寄った。ボリョクとリョナはピクリとも動かない。
「死んだ…のか?」
「そんな酷いことしませーん⤴︎この国に死刑は無いんだもん♡」
事も無げに言うマギーこと魔王ギータカ・マーガレットには傷一つ無い。
[メリメリ]
ふと顔を上げるとインセクトンの身体がひび割れ、中から新たなインセクトンが殻を破るが如く現れた。体のあちこちから鋭い棘が生えひと回り大きくより厳つくなっている。体色はメタリックブルーになりまるで戦闘マシーンだ。
そして禍々しい模様の入った羽を震わせ鳴いた。
「ジッ!ジジーッ‼︎」
今度は見た目に相応しい威圧感のある機械の様な爆音で鳴いた。
「またまた私のインセクちゃんが強くなりましたー⭐︎パチパチ⤴︎」
この化け物戦えば戦うほど強くなるのかもしれん。見た目も性質も実に気持ち悪い奴だ。
「マギーしゃま〜‼︎」
今更はるか彼方から息を切らしてコッピが現れた。馬からずり落ちそうな身体を従者に支えて貰っている。単に慌てて落ちそうと言うよりは鈍臭いのだろう。
「心配しました〜ご無事で何よりでしゅ!」
馬からずり落ちると同時にコッピは平伏しマギーに胡麻をする。そしてすかさず左右の従者を叱責した。
「お前たちはなじぇボリョクをマギー様に近づけたのでしゅ!」
「申し訳ありません」
「いえ、全てはこのムキダッテの指導不足。申し訳ありません」
いつの間にかマギーの後ろで近衛兵一同とムキダッテが平伏していた。
コッピは頭を上げムキダッテを見下ろしつつ冷たい声でマギーに嘆願する。
「義理とは言えボリョクはムキダッテの息子でしゅ!全ての責任はムキダッテにありましゅ!自分の息子も正しく導けない者に近衛隊長は務まりましぇん!人事に関するご一考、今一度行うべきかと思いましゅ‼︎」
俺もやってきた道元達も空気を読んでマギーに対して片膝をついて頭を垂れ平伏していた。
ふと隣で地面に目を伏しているコッピを見るとマギーに対する時の沈痛な面持ちとは打って変わって満面の気色悪い笑みを浮かべてほくそ笑んでいた。
このチビこの状況すら自身の出世の為に利用しようとしてやがる。状況的には俺を勇者に推薦するコッピは俺の味方ではあるが、上にはへつらい下には威張り自分の為に他人を蹴落とす事も良しとする様は実に醜悪だ。もう一度殴ってやりたい。
マギーは黙ってインセクトンのカマキリの様な顔を撫でている。
この女は一体何を考えているのか馬鹿そうな話し方といつも浮かべている張り付いた様な笑顔が邪魔してさっぱりわからない。しかし状況から見て大魔王となり彼女の目指す世界とはこの国の負の感情を蟲に食べられて喜怒哀楽の内、喜楽しかなくなった民の様な人々に満ちた世界だろう。
そうなれば確かにコッピの言う通り全ての悪、犯罪はこの世から消え去るだろう。反対する理由も何処にも無い様に思える。しかしそれに対する拭い去れない生理的嫌悪感があった。刹那脳裏によぎったのはゴーレム…いやあの感情を奪われた人々を思い出し俺は身震いした。だがゴーレムの件が無くても俺はマギーの世界に嫌悪を感じただろう。要するに俺はこの国の方針が嫌いな訳だ。
「ムキダッテには未だ勇者モテタローを教育する義務がありまーす⤴︎ボリョクは1週間労働の後又ムキダッテの教育を受けて貰いまーす⤴︎」
「しょっ!しょんな⁉︎幾らなんでも軽すぎましゅ!」
[ブーン]
マギーはコッピの愛玩には答えず轟音をたて羽ばたきだしたインセクトンに跨るとそのまま城の方へ飛び去った。
「残念でしたなコッピ殿…」
いつの間にかムキダッテは立ち上がりコッピを見下ろしていた。
「この奸臣めが!ボリョクを使っての謀反、このコッピが魔人参謀の名にかけて必ずこの程度の刑罰ではしゅませましぇんぞ!」
コッピは捨て台詞を吐くと側近と共に早馬で城へ戻って行った。
ムキダッテも近衛兵にボリョク、リョナを運ばせ帰り支度をしながら俺をチラリと見て言った。
「明日が最後の試練だ。俺は権力争いなど興味も無い。マギー様の大望成就にすべてを捧げる覚悟だ。見事乗り越え真の勇者となってみせよ!」




