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帰りたい〜修業の日々〜筋トレ編

「起きて…起きて下さい」

う…ん?未だ暗いぞ。メナに起こされ目を覚ますと周囲は夜の帳の中だった。4時頃だろうか。

「スチル様がお呼びです。直ぐに中庭に来いと」


俺が平服に着替え中庭に降りると近衛兵隊長スチル・ムキダッテは準備万端といった風に待ち構えていた。

「遅い。60秒以内にここに来い。」


「すいません」


「先ずは城内を5周だ。この靴に履き変えろ。」

なんだか地味だな。朝からランニングか。眠いし喉は渇くしで滅茶苦茶だるい。テキトーに走るか。俺は靴を履き変え走り出した。


妙な靴だ。銀色だが材質も何んなのかよくわからない。硬いようで柔らかく、軽いようで重い。

2周目辺りでこの靴の異常さに気づいた。速度が落とせない。あまりのキツさにコースをショートカットしようとしても靴は意思がある様に行き先を決めてきて結局長い距離を走らされるのだった。脱ぎ捨ててやろうとしても決して出来ず意思に反して走らされる。


城が又馬鹿みたいにデカく1周が10キロは有るかと思われた。俺全くサボれず朝飯前に50キロ近く走らされ靴を脱ぐと同時に地面に崩れ落ちた。こいつ早速殺す気だ。


「少し休憩だ。朝飯を食え。コレをつけてな」

ぐったりした俺に勝手に装着されたそれは銀色の首輪、腕輪の様な何かだった。朝飯は昨日と比べてゲロまずい。何だかパサパサした鶏肉とブロッコリー、雑穀だった。しかも量がとてつもなく多い。

もう食べるのをやめようと思っても口や喉は食べ物を咀嚼し飲み込むのをやめてくれない。食べ物を運ぶ手も止まらない。もう無理、吐くと思ったが胃袋の拒否反応とは反対に喉は決して一度飲み込んだ食物をリバースする事を許しはしなかった。やっと食事が片付いたら最後に消化剤だとか言う妖しげな薬を飲まされ人生で1番苦痛な食事は終わった。


食事が終わってもムキダッテは首輪、腕輪をとってくれる気はサラサラ無い様だった。これから半年間コレを着けてこの拷問が続くと思うと俺は奈落の底に突き落とされた様な気分になり、泣きじゃくりたくなったがそんな体力すら無く、意識を保つのでやっとだった。


昼飯迄の間の訓練は城の塔と塔の間に結んだ綱にぶら下がり、懸垂を10回させられた。


10回した後10分以上放置され、俺は体力の限界だったが腕輪に強制される迄も無く死にたくない一心で綱にしがみついていた。

「戻れ」

ムキダッテの終了の合図で俺はやっとの思いで塔に戻るとその後も昼までそんな調子で様々な筋トレを拷問器具の様な道具にさせられた。


やっと昼飯かと思えば朝食の様な拷問。

昼飯が終わった時には俺の身体は本当に死ぬ一歩手前だった。最早朦朧として苦痛からも解放されかかった俺を見て流石にヤバいと思ったらしい。

「全く貧弱な奴だ。今日はここ迄!メナ、部屋迄運んで世話をしてやれ。明日又動ける様にな」


気づいたら俺は全裸だった。

湯の中につけられ朦朧とする中全身をメナに洗われた。彼女はどうやら1人で俺を運び服を脱がせ、汗と泥に塗れた俺の身体を洗ってくれている様だ。


俺は恥ずかしく申し訳なく思ったがもう指一本すら動かせ無い。首輪、腕輪は未だついている。奇妙な事に羽の様に軽くなり紐の様に小さくなっていた。見るたびに気分が悪くなり実に煩わしく思ったがどうやらとれそうにない。


「い、いいよ、自分で…やる…」


「動いてはいけません」

メナが杖を振るとお湯は消滅し、俺の身体も一瞬で乾いた。そのまま小さな少女とは思えない力で俺を抱えるとベッドに連れて行き湿布の様な物を貼ったり、針を刺し、魔法をかけ、薬を飲ませてお灸をしてマッサージをしたりと俺を回復させる為至れり尽せり手当をしてくれた。


厳しい仕打ちの後の献身的な介護に俺は涙が溢れてきてメナにバレない様に枕で涙を拭った。


凄まじい事に本当に死ぬ寸前だった肉体は日が落ちる頃にはより強く完全に回復していた。

しかし俺は明日も又この地獄が待っていると思うと陰鬱は気持ちで眠れない。眠ったら明日がきてしまう。


俺は電波ゼロのスマホをいじってダウンロードしていた音楽のpvを見ていたが、充電が50%を切った所で電源を落とした。

このスマホの充電がもし無くなってしまえば本当に元の世界に帰れない様な気がする。今となってはスマホだけが俺と元の世界の繋がりを思い出させる唯一の持ち物だ。


道元達に会って話したいが明日の事を思うと何をする気も最早おきない。


窓から見える月は元の世界の月と瓜二つで美しい。

帰りたい。…俺は又枕を涙で濡らした。

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