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〜旅立ちの豪華客船〜現れし魔獣

「ふぇぇぇぇ…相談に乗ってくれよぉ」

朝ウチ、九条るみかがインターフォンに出るとそこには情け無い顔でベソをかいたモテ太郎がいた。


一緒に登校しながら話を聞くと、どうもなっちゃんに振られたらしい。

「えぐっ…えぐっ…俺はカッコよくてお金持ちなのにどゔじて…」


「カッコ良くはねーよ、鼻をかめ!」


<ずぴー>

電車の中で周りが引くほど鼻をかんだモテ太郎は続けた。

「なっちゃんは金で人の心をどうにかしようなんて人は最低だって言うんだよ…グスッ」


「そりゃ札束ぶん投げて俺の女になれっ!じゃあまともな人間なら引くわ〜」


「そうだ九条さん、夏姉にとりついでよ!今度豪華客船貸し切りでパーティを開いてそこで夏姉の誤解を解くよ!九条さんも来ていいよ、もちろん費用は全て俺の奢りさっ!」


話聞いてんのかコイツ。でもあまりにも必死だったからつい了承してしまった。


〜当日〜

モテ太郎は少ない友人、知人をありったけかき集めて盛大な洋上パーティーを開いた。

「皆さんのおかげで僕はここまでになれました!今宵は盛大に楽しんで下さい」

得意満面のモテ太郎が挨拶する。船内には豪華な料理がバイキング形式で取り揃えられていた。


パーティーが始まると同時に山盛りの食事をペロリと平らげる巨大な女が目についた。道元凪沙だ。あいつあんなに食うのか。そりゃあちこちデカくなるわな。


ふと目を移せば用務員のケチババアは45lのビニール袋にありったけの食糧を詰め込んでいた。乞食かコイツ。今やこのババアはモテ太郎に買収されて完全に下僕になっていた。


「るっちゃん!そこにいたのね」


「なっちゃん!来てくれたんだ。てっきりモテ太郎に愛想つかしてこないかと思ったよ」


なっちゃんはモテ太郎の名を聞き少し顔を曇らせた。

「あの子は変わってしまったわ。親戚の欲目かもしれないけれど前は優しくてまっすぐな良い子だったのに…。自分の器以上の物を持ってすっかり驕り高ぶってしまってる」


「たしかに次は海どころか宇宙でパーティやるってイキってたわw」


「はぁ…人の欲には際限が無いわ。私はモテ太郎が心配よ」


<ズズズズン!>

その時船が大きく揺れた。街一個が海に浮かんでる様な巨大な船だ。これまで海の上にも関わらず全く揺れなかったのに…。


壇上にいたモテ太郎に船員が耳打ちするとモテ太郎の顔色がさっと変わった。

「皆さんお気に無さらず、ゴミか何かに船が接触した様です」

言うが早いかモテ太郎は奥へ引っ込んだ。


さっとモテ太郎に近づいたウチは後をつけた。モテ太郎と船員は甲板に上がると双眼鏡で何かを見て言い争ってる。


「モテ太郎っ!何があった」


「どうも岩礁に乗り上げたらしい。全く下手くそな船長だ」


「いやそんな事はありえません!ここは洋上100キロですよ?近くに島も岩礁もない筈なんです」

船員は訳がわからないと言った風だ。


「でもあれを見てみろよ、現に岩礁はある。俺様のパーティーを台無しにして恥をかかせる気か⁉︎直ぐ船長に確認してこいっ!」

船員はすっ飛んでいった。


「何があった?ウチにも双眼鏡見せてよ」


「九条さんには関係ないよ、大丈夫だ」


「いや、只事じゃねーぞこれは。アタシに双眼鏡を貸せ」

道元凪沙が現れてモテ太郎から双眼鏡をひったくった。


「何だ?あれ?オマエわかるか?」

道元凪沙から双眼鏡を渡されて見ると船のやや前方側面の海中に巨大な何かあるのがわかった。


昼下がりで天気も良いが海面下にあるせいで黒くぼんやりシルエットが見えるだけだ。

しかしウチは重大な事に気づいた。船は未だ進んでいるのに岩礁?の位置が変わらない!

あれも動いている!

その時海面を割りそれが正体を現した。


<ギリギリシュゴシュゴプシュー>

ウチはこれ程おぞましい生き物を見た事が無い。巨大な毛虫の様な生き物が浮上してきた。それの身体の鎧の様な節目と節目がぶつかり合いあちこちから海水を吹いて機械の様な奇妙な音を立てていた。


「なんだ…ありゃあ…」

最早双眼鏡を見るまでも無くなってモテ太郎が呟く。


「海毛虫って言う生き物に似てるな…もっともアタシが知ってるのは10センチもないが」

道元凪沙も青ざめている。


<ギリギリシュゴシュゴプシュー>

もう一度怪物が騒音をたてたと同時に船が大きく揺れた。


「あいつドリルみたいな棘を船に飛ばしやがった。ドリルウミケムシだっ!」

モテ太郎が驚愕しつつ命名する。


「君達そこで何してるっ!直ぐに救命ボートに乗りたまえっ」

船員に怒鳴られた。いつの間にか船員達が慌ただしく行ききしていた。


船は既に傾き始めていた。船員が人々を救命ボートへ案内している。ドリルウミケムシがいる方の反対側ではもう幾つか救命ボートが降りている。

下のフロアのデッキからも続々救命ボートが降りている。


「夏姉っ!夏姉っ‼︎」

モテ太郎は必死でなっちゃんを探していた。


「ここよっ!」いつの間にか甲板になっちゃんも上がってきていた。


「よかった無事だったか…早く救命ボートへ!」


「いや、そう言う訳にはいかなさそうだぜ」

道元凪沙が唸る。

なるほど、船は両脇に救命ボートを吊るしている。怪物のいない左側面のボートはもう全て使ってしまっている。


幸い貸し切りで少人数だから後一隻でも船を出せれば全員乗れるかもしれないが、それには怪物の側をとおらなけばならない。


「ボートを降ろしますっ!さあ乗って」

なるべく怪物から離れた位置のボートを降ろすことにしたらしい。ウチ、なっちゃん、モテ太郎、道元凪沙、ケチババアとその他船員は梯子を下って船から降りてボートに乗る事になった。


「ババア早く降りろ!何だその荷物、捨てろっ!」

道元凪沙が吼える。

「ひえ〜ナンマイダブナンマイダブ」

女子供、老人から先に乗れという事でよりによってババアが梯子の最下層にいた。しかも未だバイキングで集めた食糧が入ったビニールを持ってけっして捨てずノロノロと梯子を下っている。


やっとババア、道元凪沙、ウチ、なっちゃん、船員、船長、モテ太郎の順番に船に乗り込むと救命ボートは発進した。


<ギリギリシュゴシュゴプシュー>


幸いドリルウミケムシは巨大な客船に夢中でウチらには気付いていない様に見える。


<シュンシュン!シュン!>

しかし突如風を切る音がしたと思ったら身体に生えた毛を針の様に飛ばしてきた。


毛はいや、間近で見る1本1本が20センチ位あるそれは正に針と言った方が良いかもしれない。

それは何本か船に突き刺さり、鉄の外装すら急速に溶かした。


「この船も沈むぞぉ!」

誰かがそう言うや否やウチは海中に投げ出された。


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