夢の学園生活!九条るみか現る!
俺の受難は生まれた時から始まった。
頭の弱い両親に「モテ太郎」などと、ふざけた名前をつけられ早くも16年。
俺はモテモテとは対極の日々を送っていた。
女子からはキモいと笑われ、男子からはイジメを受ける毎日だった。
でもそれも今日で終わる!
この春から俺は特待生としてこの国屈指の進学校「聖マリアンヌ学院」に入学することが出来た!
思えば苦難の毎日だった…中学のレベルが低い奴ら、馬鹿な両親を見返す為に、俺は毎日毎日コツコツと勉強に励んできてようやくその努力が報われる日が来たんだ。
日当たりが悪く風呂もない4畳半の部屋だが念願の下宿先も手にいれた!
俺はウッキウキでドアを開け初登校への道を踏み出した。
マリアンヌ学院は今年度から共学になった高校で、ヨーロッパ風の美しい街千里市にある。
俺の住んでいる町は川と山を挟んで隣町だが、通学電車が川を過ぎてトンネルを潜ると別世界の様に美しい世界が広がっていた。
先ず電柱は地面に埋められているのか一本もない。アスファルトも無く風情のある石畳が敷いてあり、家々もレンガか石積みのお洒落な物ばかりだ。
街にも関わらず緑も豊かでカラフルな屋根と緑のコントラストは正に
「絶景だ…」
電車内はガラすきだった。
そもそも駅にいるとき反対側の町に向かうホームは朝から疲れ切ったサラリーマンやOLでごったがえしていたのに、この街に向かうホームは同じ学校に通学する女学生がチラホラ乗っているだけだった。
「スー…スー…スー」
可愛い寝息が聞こえた。最初から気になっていた。向かいにとっても可愛い子がいる。グラビアアイドル顔負けのスタイルで派手な金髪だが端正な顔立ちだ。
格好は…着崩しているがうちの制服だ。
「間もなくマリアンヌ学院前♡マリアンヌ学院前でございます♡」
驚いた事に電車アナウンスもウグイス嬢の様だ!
「…降りなきゃ!」
ふと女の子を見ると未だ寝ている。
「あんた起きろ!俺と同じ学校だろ!」
思わず俺は肩を掴んで揺すった。
女は目が覚めるやいなや、パシッと手を払い退けると「馴れ馴れしく触ってんじゃねーよ、キメェな」
ドスの効いた声で辛辣な一言を放った。
(なんだよ!コイツ)
俺が混乱して一言も発せない内に女はさっと立って電車を降りた。
長い金髪がはためくと何とも言えない良い香りがした。
<プシュー>
気がつくとアベコベに俺が取り残され女は電車を出ていた。
…とんだ寄り道をしてしまった。もう遅刻だ。学校は街を見下ろす丘の上にあって駅から結構距離があり、俺は息も絶え絶えだった。
しかも学校は英国かどっかの城の様で、自分のクラスを探すのも一苦労だ。
(1年蘭組、ここだ!)
<ガラガラ>
そっとドアを開けたつもりだったが…
「登校初日から遅刻とはなんですか!」
クラスの視線がさっと俺に集中する。
うっ…女子しかいねえ…
でも可愛い子ばかりだな、先生も美人だ。
こんな状況じゃなきゃ最高なんだが…全てあの糞女のせいだ!
「貴方の席は窓際の1番奥の席です。早く座りなさい!」
う〜ん
日当たりの良い窓際、しかも最後尾とか最高じゃねえか‼︎
ん?前の席の奴見覚えがあるな…朝の糞女だ⁉︎
クラス中が俺をガン見してんのにコイツだけ澄まし顔で前見てやがる。
まぁ良いや、朝の事は忘れよう。ひょっとしたらコイツも俺の事忘れてるかもしれん。
「さぁ中断してしまいましたが自己紹介の途中でしたね。次は九条るみかさん、どうぞ」
もう朝の糞女の番だ。ちょッッ⁉︎これもう俺で最後じゃねえか⁉︎
しかも未だココロの準備も文言も全然出来てねぇ!
しかし自己紹介何て皆んな似た様なもんだろ。糞女のパクッてちょっと変えてすまそ。
「九条るみかです。特技はピアノと剣道、好きな食べ物はエクレアです。よろしくお願いします」
早い〜!ちょっとタンマ‼︎
「じゃあ次、茂木モ、モテ太郎くんww」
騒めくクラス。
そして先生、笑いが堪えきれてねえぞ。
いつもそうだ。
この名前のせいで俺はどれだけ苦労してしてきたか。
「もっ茂木モテ太郎です。しゅ、趣味は読書です。よろしくお願いします。」
<クス…クス>
ヒソヒソ声で誰かが話す。
「モテ太郎っていうか、キモ太郎だよね」
聞こえてんぞ!コラ
糞女!改め九条るみか!テメーも名前聞いた瞬間クスッと一瞬笑っただろ!上がってても見たぞクソッ
もう涙目だよ俺は。
中学の時は爆笑されて死にたいと思ったけど、今回は余裕でその時の苦痛を超える自己紹介だった。
爆笑された方が未だマシだ。
その後の1日はとっても長かった。
さらにこの学校では先生も含め男子は俺1人と言う絶望的な状況も判明した。
高校デビューして陽キャになり、友達100人作ると言う俺の目標は早くも暗礁に乗り上げた。
帰りの電車で俺はクタクタだった。
キャピキャピしてお洒落な制服を着たマリアンヌ学院の女子高生に紛れて、俺は通勤で疲れたサラリーマン以上にやつれ切っていた。
ストレスが溜まった時は携帯小説を書くに限る。
‘’世界に行ったらチート能力でモテモテになって、欲しい物が全て手に入ってマジ退屈でつらいわー"
これが今俺が書いている携帯小説の題名である。
"わひゃん!ピンチを救ってくれてありがとニャン、るみかはそう言った"
今日も素晴らしい物語を綴ってしまった。自分の才能が怖い。
ふと窓を見ると外はもう暗くなっていた。
ふっ…俺ってイケメンだぜ!
思わず窓に写った自分の顔を見てうっとりする。
(!?!!)
いつの間にか九条るみかが斜め後ろからこっちを見ている!
るみかは携帯片手にやや顔をしかめて、じっと此方を見ていたが此方が振り向くとふっと携帯に視線を戻した。
「まもなく〜溝下町〜溝下町〜」
こっち方面の電車アナウンスは素っ気ない。
「はぁ」
俺は溜息と同時にホームを降りた。
ん?るみかも降りてくる。
何だろ?援交でもしてんのか?
聖マリアンヌ学園は性なる学園でもあったのだろうか?
まぁどうでも良いや…
汚くて暗い路地を抜けてウサギ小屋みたいな家が並ぶ住宅地を越えた先にあるドブ川にかかった橋の向こうに俺の下宿先がある。
「ちょっと!あんたどこ行くわけ?」
(‼︎?)
コイツ未だ付いてきてたのか!?
「何って下宿先に帰るんだよ」
「はぁ?ウチもそうなんだけど?」
「へぇ、意外。九条さん近くに住んでんだ」
「ちょっとキモい詮索しないで!」
「ひどいな。俺のアパートそれだから、じゃあね」
「…ウチの下宿先もそこなんだけど」
「エッ‼︎…偶然だね!」
「…」
ううっ…この顔は明らかに俺をストーカー認定してる顔だっ!
沈黙がキツい。
「じゃっじゃあ(汗)!俺の部屋そこだからッ…またねっ!」
「…だろ」
「エッ?」
「そんな偶然あるわけねーだろ‼︎」
<ジャキ!>
言うが早いか彼女は特殊警棒を取り出し殴りかかってきた。