彼女との出会い
初めての投稿になります。
執筆経験はまったくないど素人ですが、何か書きたいという気持ちが日に日に大きくなるのを感じていて、今回の投稿に踏みきりました。完成していないので、ゆっくり編集していこうと思っています。言葉の選び方や構成について批評、アドバイスなどいただければ幸いです。
あ、またあの子だ。
クラスは違うけれど、同じ学年のあの女の子。声をかけたことはないけど、廊下で彼女を見かけるといつも目で追ってしまう。前髪は眉毛ほどの高さに切り揃えられ、後ろ髪はポニーテールできれいにまとめられている。時々彼女が僕の視線に気づき、目が合ってしまうのだが、その少しだけつりあがった猫目が僕をひきつけていた。話したこともない彼女を見つめていたという気恥ずかしさも忘れるほどに、その一瞬だけその瞳に夢中になってしまう。彼女が嫌な表情をみせたことがないというのも、僕が後ろめたさを感じない理由の一つなのだろう。
「おい、優紀、早く体育館行こうぜ!」
クラスメイトの拓海が僕を呼ぶ声が聞こえる。
「ごめんごめん。」
僕は我に帰ってそう言いながら拓海のほうへと走る。
「今日の体育ってシャトルランだったよね?」
「あー、そっか、今日シャトルランかあ。きっついなあ。お前去年は何回までいった?」
「僕は106回だったかな。絶対100は超えたかったんだよね。今日は120目指すよ。」
「マジで?お前そんなにスタミナあったっけ?」
そんな他愛のない話をするうちに、僕の頭から彼女のことは消えていた。このときはまだ自分が恋をしているのかと自問するような段階でもなく、ただただあの子のことをかわいいと思っていただけだった。
僕はまだ恋というものを経験したことがない。恋愛に興味がないわけではない。もう16歳だし、恋愛以上のことだってよく考える。テレビで好きな芸能人を見ればテンションもあがる。でも実際にこれは恋なんだと確信をもって言えるような気持ちになったことはない。拓海は中学のときにつきあったことがある。彼女ができたと嬉しそうに言う拓海の顔を見て、「ああ、恋をしたら人はこんなにも嬉しくなるんだな」と思ったのを覚えている。
高校生にもなってまだ初恋すら経験してないのはおかしいとも言われるが、不思議と焦る気持ちはない。好きになろうと思ってなれるものでもないのだから、その時を待つしかないじゃないかというのが僕の意見だ。
「その時」がいつ来るのか、だれにも予想はできないし、それが僕の所へやってくるのはまだまだ先なのだろうと思っていた。今年の冬までは。
僕の高校は少しだけ特別だ。普通、高校と言えば理系と文系にわかれるものだが、うちには英系と言われる英語に集中したコースがある。カリキュラムは文系と似ているが、古典と国語の授業がそれぞれ一つずつ少なく、その代わりに英語コミュニケーションとライティングの授業が追加されている。自分がどこに進むかは1年生の二学期に決めることになっている。僕は迷わず英系を選択した。それがこの高校に来た理由なのだ。他のコースを選択するはずもない。それに英系にはささやかな特権がある。英語嫌いにとっては特権ではないかもしれないが、英語キャンプと言われる、英語学習に集中した勉強合宿があるのだ。英系を選択した1年生が3学期の始めに参加することになっており、県内のALTの先生たちが集まり、普段の授業とは違った、より遊びに近い形で英語の勉強をする。英語でのトレジャーハントやしりとりなどがあるらしい。
2学期の終業式は誰にとっても心躍る行事だと思うが、僕は冬休みが来てうれしいという気持ちと3学期に早くなってほしいという気持ちが入り交ざり、何とも言えない不思議な感覚に襲われていた。冬休みの楽しさよりも英語キャンプへの期待の方が大きかったのだろう。
3学期に入り、英語キャンプが目前に迫る中、キャンプ中の班分けを決める集会が行われた。今日の6限の後に会議室に集合しなさいと連絡があった。せっかくのキャンプなのだから、仲がいい人と一緒になれたら嬉しいなと拓海と話しながら会議室に向かっていると、同じ方向へと歩いていくあの子の姿が見えた。
あっ、あの子もキャンプに参加するのかな。
そんな考えがふと頭をよぎると同時に、胸が高鳴るのを感じた。自然と、あの子と同じ班になって仲良くなれるかと考えている自分がいる。
会議室に入ると、すでに20人ほどが集まっていた。英系は40人のクラスなので、すでに半分がここにいることになる。ざっと見渡してみたが、話したことのある生徒は数えるほどしかいない。そもそも男子が僕と拓海を含めて5人しかいない。毎年女子の方が多くなるとは聞いていたが、これほどだとは予想していなかった。
40人全員集まったときには男子は3人増え、合計8人になっていた。女子32人に対し男子8人。色恋沙汰に関心がある男ならきっと大喜びするだろう。拓海はすでに何人か好みの子を見つけたようだ。
「それでは班分けを始めます。」
先生がそう言うと、みんなが待ってましたと言わんばかりに騒ぎ出した。