十八
僕は、とりあえずガルガさんを縄でぐるぐる巻きにすると、いつも皆が集まる場所に転がしておいた。
その間に、僕はほかの皆を治療していく。
「さすがはエンド様だ……。本当に強くて凛々しくいらっしゃる」
「わたしも、もう五十も若かったらねぇ!」
「本当に、私達はエンド様の庇護下にいられて幸せでございます」
「ごめんね。もっと早く来れたらよかったんだけど」
「そんなことはありません! こうして守ってくれたじゃないですか!!」
レイカに持ってきてもらったポーションを皆に配りながら声をかけていく。
感謝してくれるけど当然だ。
皆は僕が守らなきゃいけないんだから。
「エンド! ルルル、頑張ったけどやられちゃったよ!」
「怪我はない? ルルルはまだ小さいんだからそんな頑張らなくても――」
「それじゃあだめだ! ルルル、エンドのお嫁さんになるんだから! 強い夫に相応しくなるには強い妻にならないと!! だから、あんな虎くらい簡単に勝てるようにならなきゃ!!」
「そうねぇ。エンド様はまるで私たちの英雄だわ」
「はは、カターニャさんは大げさですよ」
無邪気な顔をして結構怖いことを言う。
苦笑いしながらカターニャさんに視線を向けると、彼女はとろんとした目でほほ笑んだ。
「英雄色を好むって言うけど……エンド様はどうなのかしら?」
大人の色気もくらりと来たが、僕は慌てて視線を逸らした。
というのも、隣にいるレイカからいつもの冷気が漂ってきたからだ。
「あなたのような年増にエンド様は興味はありません」
「あら? そんなの本人に聞かないとわからないわよ? むしろ、それならルルルなんてちょうどいいって私は思うし」
「年下趣味もございません!」
「ふふ、むきになっちゃって。若いわねぇ」
レイカを見ると、カターニャさんにからかわれながら顔を真っ赤にしていた。
珍しい。
だけど、傍にいるのもよろしくない気がしたので、僕はそっとその場から離れた。
気づくと、治療を終えた各種族の長達がガルガの傍に集まっていた。僕も、自然とそこに向かう。
「ガルガよ。お前の言い分はわかる。だが、虐げられている同じ獣人を襲うのは看過できん」
「そうだにゃ。さすがに猫人族も擁護できないにゃ」
犬人族の長と猫人族の長があきれた表情で告げている。
「いくら虎人族で一番強いからってよくないんだな」
「そうだね。ちゃんと罰は与えないとね」
どちらかというと可愛らしい鼠人族と穏やかな熊人族がちょっぴり物騒なことを話している。
やはり、一族を収める長として締めるところは締めるのだろうか。
だんまりを決め込むガルガに近づき、そっと話かけた。
「ガルガさん。目が覚めたみたいだね。どう気分は? まあ、縛られていい気分ていう人も少ないんだろうから野暮な質問だとは思うけど」
「殺せ」
「ん? 僕は気分を聞いたんだ。死ぬか生きるか聞いたわけじゃない」
「さっさと殺せ。俺はお前に負けたんだ。生きる価値なんてない」
「んー、わかんない人だね。意地を張ってもいいことなんかないのに」
「うるせぇ、殺せ」
何を聞いても殺せの一点張りだ。
たしかに死んだほうが楽かもしれないと思ったことは僕にもある。
だけど、死なれたからって傷つけられた人が癒されるわけじゃないと僕は思うんだ。
だから、まずは話を聞いてもらわなきゃ。
「ねぇ、ガルガさん。僕は、ここにいる人達を守りたいと思ってる。けど、ガルガさんのお陰で足りないものも見えてきた」
「……何がいいたい?」
「まぁ、聞いてよ。それでね、僕はどうやら欲張りみたいなんだ。必要とされたらなんでも守りたいみたいだし、切り捨てるなんてできない。それはきっと……僕がずっと切り捨てられてきた側の人間だったからだよ」
目を見つめる。
だが、反論はこない。ひとまずは話を聞いてくれるみたいだ。
「僕は切り捨てられる痛みを知ってる。だから、だれも切り捨てない。あきらめたくない。それはガルガさん。あなたも同じだ」
「あぁ? 何いって――」
「僕は、この世界を、ここにいる人達を守りたい。そのためには力がいるだろうし、技術やお金だって必要だ。そのためには優秀な人にはぜひ協力してもらいたいって思ってる……。善人だろうが悪人だろうが、僕はこの世界とこの世界に住む人たちを守れれば、それでいい。ガルガさん……あなた達虎人族も、強いかもしれないけど決して生きやすいわけじゃないでしょう?」
「まどろっこしいな! 何が言いてぇんだよ!」
たしかに、今の言い方は回りくどいかな。
なら単刀直入に言おう。
「僕から言うのは初めてだから、ちょっと緊張するけど――」
――僕の庇護下に入れ。
そう告げた瞬間。
ガルガさんの全身の毛が総立ち、尻尾が太く逆立った。
「僕はわかっていなかったんだ。皆を守るってことも、レイカが僕を王だって言ってくれた理由も」
そう。
いうなれば何もしてこなかった。
だからこそ、今回のような事態に陥ってしまう。
守るなら。
守りたいなら、僕はもう少し貪欲にならないといけなかったんだ。
「力も、技術も、お金もいる。誰よりも強くなって、誰からも守れるようなそんな場所にしたい。僕は、この世界を、誰からも干渉されない自由で安全な場所にしたいんだ。そのために、僕はこの世界の王にならないといけない。だから、ガルガさん。君たちに、この国を守る一端を担ってほしい。君は僕の牙となり、僕の世界を守るんだ。代わりに、虎人族には安寧と安全が保障される。ここにいる人たちすべてが、幸せにいきる場所を作ってみせる。だから、庇護下に入るんだ……ガルガ」
気づくと、ほかの種族の長達は跪き頭を下げている。
僕はそれを見て、ガルガを縛っている縄と解いた。
それに驚いた様子のガルガだったけど、すぐに僕の目をまっすぐ見据える。
「本当に……お前は俺達獣人を守ってくれるのか?」
「何も持っていなかったから……僕は欲張りみたいだ。だから、全部守りたいって今も思ってる」
「それで、お前に何の得が?」
「必要としてくることがうれしいんだ。今までそんなこと、一度もなかったから。だから、守るよ。全てから、全てを」
「嘘だった俺はお前を殺してやる。それでもいいか?」
「もちろん。そうなった、僕を殺せばいい。そうなるつもりはさらさらないけど」
いくつかの問答の後。
考え込むガルガだったけど、彼はおもむろに体勢を整えると、皆と同じように跪き頭を下げた。
「俺ら、虎人族も守ってくれるか? 弱っちいやつらもたくさんいるんだ。俺だけじゃ守れねぇ。頼む。俺達を救ってくれ」
「わかった。よろしくね、ガルガ」
ようやく始まるんだ。
僕はここから始める。
僕は王となり、この世界をどこよりも安全な場所にしてみせる。
そのためなら僕は手段を択ばないだろう。
体の奥底から湧き上がってくるような欲望を。
すべてが欲しいと叫ぶこの欲望を形にするために。
僕は一歩を踏み出したのだ。




