十六
僕は真っすぐ目的地へと向かった。
近づくと、何やら怒号が響いている。だが、聞いたことがない声だ。
一体誰の……。
「あぁ! お前ら、ふざけてんじゃねぇぞ!! こんなところで安穏に生きていやがって! ほかの獣人達にどう顔向けするつもりだぁ!?」
「皆でここに住めばいいんじゃ。エンド様は儂らをさげすんだりなどせん」
「んなことは関係ねぇ! 人間なんかの世話になるほうがおかしいって言ってんだ! んなこと言ってっから狐人族はオークなんぞにやられるんだよぉ!!」
「な、なんじゃとぉ!!」
村長さんと誰かが言い争っている。
僕はそこに急いでいくと、そこには胸倉をつかまれて空中に持ち上げられている村長さんと大きな男がいた。
その男の頭には耳があり、体毛は黒と黄色で彩られている。
獰猛な牙を屈強な肉体。
そこから向けられる視線は、鋭さばかり。
「ぐぅ……」
「あぁ? 誰だおめぇ」
「あっ!? エンド様……ぐわっ!!!!」
男が村長さんを地面へと放り投げる。
見ると、深くはないが傷だらけだ。殴られた後もある。
周囲に目を向けると、見知った人達が皆倒れていた。その中には、ドロフェイ達の姿もあった。
僕は、取り急ぎ目の前に放り投げられた村長さんへと駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「エンド様っ……申し訳ありません。我らが森で探索をしているとき、そのなかの一人が捕まり脅されまして。ここまで彼を入れてしまったのじゃ」
「怪我は? 逃げてしまってもよかったのに――」
「何を言いますか! われらはエンド様の配下。エンド様の作ったこの世界を守れずして配下を名乗れませぬ……そういいながらもこの体たらく、情けないことじゃ」
「そんなこと――」
「おい」
男が僕に声をかけながら、蹴り上げてくる。
だが、僕はそれを落ち着いて躱し、村長さんを抱えたまま少しばかり距離をとった。
「あ? 消え――」
「村長さん。あの人は誰ですか?」
僕は村長さんを地面に下しながら話しかける。
こちらに視線は感じるが、そんなもの今はどうでもいい。今は、村長さんと僕が話しているんだ。
「あ、あやつは虎人族の長の息子。ガルガじゃ。この集落に儂らが住んでいるのが気に入らないらしくての。ここから出て行けと言いやってきたのじゃ」
「おい、てめぇ。シカトこいてんじゃねぇぞ?」
「エンド様っ! わしらで何とかするといっておったのに、本当に……本当に申し訳ないっ――」
村長さんは、そういいながら涙を流す。
痛みを感じているのだろう。
体ではなく心に。
僕が微笑みかけると、村長さんはほっとしたのか気を失ってしまった。
息をしているのを確認した僕は、そっと立ち上がる。
村長さんの話を振り返ると、前に聞いた僕に反感を持っている獣人族……それがこの男ということなのだろう。
その説得がこの結果か?
だとしたらあんまりだ。ありえない。
「聞いてんのかっていってんだよ、おめぇはよ!!」
今度はそう言って爪をたててきりつけてきた。
僕は再びそれを避ける。
だが、今度は彼を見据えた。
僕が守るべき世界で、僕が守るべき人たちを傷つけたその人を。
「ガルガさんといいましたね? 僕はこの世界を作り、彼らを配下に置いているエンドといいます」
「あぁ、そうか。てめぇが」
「それよりも、どういうつもりですか? こんなにたくさんの人を傷つけて」
「それはこいつらが悪ぃんだよ!! 獣人の! 俺達の誇りを捨てたこいつらは獣人としてふさわしくねぇ! だから発破をかけた! それだけさ」
血液が沸騰する。
ふざけるんじゃない。
誇り云々に思うところがあるのなら、一人で勝手にやっていてくれればいい。
どうして人を傷つけるのか。
巻き込むのか。
誇りというのなら、仲間の想いを大事にするっていうことはどうでもいいのか。
全然わからない。
「あなたの誇りは、誰かを傷つけることなんですか?」
「はぁ? 何が言いてぇんだ」
「わかりませんか。そうでしょうね。こんなことをするくらいには頭が悪いんですから」
僕の言葉に、目の前の男は顔を歪ませる。
ぎちぎちと歯を食いしばっているのが聞こえた。
「では、言わせてもらいますけど――」
――そんな誇りなら、ないほうがいい。
「てめぇが死ね」
その言葉が言い終わらないうちに、彼は僕の目の前から消えた。
気づくと顔に衝撃が走り、視界が横に流れていく。
痛っ!!
殴られた!?
吹き飛ばされながらも、すぐに体勢を整える。
が、そこに覆いかぶさるのはガルガだ。彼は、僕の倍以上もある体格で覆いかぶさってきた。
自然と、互いに両手を掴みあう。
が、僕はぐいぐいと押され、踏みとどまるので精一杯だった。
「お前に俺達の何がわかる」
「わかりません。僕は僕の守るべきものを守りたいだけだ」
僕が目で追えない速度、耐えきれない力。
両方を兼ね備えた虎人族の男は、鋭い牙を僕に見せつけながら純粋な殺意をぶつけてくるのだった。




