十四
ドメーノの声とともに飛んできたのは、色とりどりの魔法。
炎が降り注ぎ、風が斬りかかり、岩の固まりや水の刃が飛んでくる。
それを避けると、大勢の私兵達が槍で突いてきては下がり、また魔法が飛んでくる。
単調だが、こちらの反撃の機会を削ぐという意味では有効なのだろう。
現に、避けるだけで手いっぱいなのは確かだ。
それも、思考の大部分が戦いではないところに割かれているのが理由でもあるのかもしれない。
『エンド様』
動揺している僕の頭の中にレイカの声が響く。
咄嗟にレイカを見ると、口元に指をあて声を出すなど言外に示した。
っと、あぶない!
びっくりしすぎて炎弾に当たるところだったよ。
『今は念話で話しております。私は本の世界の主ですから。エンド様とのつながりが強いのです。驚かずに聞いてください。エンド様も、念じれば私に言葉が届くでしょう』
心で話すみたいな感じかな?
僕は、攻撃を受けないよう避けながらレイカに話しかける。
『びっくりしたよ。それで……本の中で何があったの?』
『それは私にも……ですが、わかるのです。世界のざわめきが、苦しみが、感覚を通して伝わってくるのです。言葉で説明できるものではありませんが……』
『けど、今僕たちが逃げたらドメーノ達は――』
『逃げ出すでしょう。ですが、それは仕方がないのです。オリアーナ様は気の毒ですが、本の世界を守るほうが大切なのではないかと』
今このまま本の中に入ることはたやすい。
そして、僕自身が本の世界に入れば、ドメーノ達のうっとうしい攻撃もさけることができるだろう。
だが、オリアーナの借金はどうにもならない。
仮にドメーノがいなくなれば、お金があっても返す相手に困ってしまう。
それに、預かっている人質の行方がわからなくなる。
つまり、僕は彼女を助けられないということになってしまうだろう。
そちらを優先させたとする。
すると、僕の本の世界に何かが起こるのだろう。
何が起こっているかわからないが、レイカがこれだけ焦っているのだ。生半可なことではない。
あちらを立てればこちらが立たず。
どちらかを犠牲にしなければならない状況に追い込まれてしまった。
どうすれば……。
『私が行きましょう。そうすれば、とりあえず中でなにが起こっているかわかるはずです。そうすれば、どちらを優先させるべきか判断する材料はお伝えできるかと』
レイカの言っていることはわかる。
だけど、僕は嫌なのだ。
こっちのほうが大事、あっちのほうが大事じゃない。
そんな選択はこれからもずっとしていくのだろう。でも……。
――大事じゃないほうがどうなるんだ?
僕はずっとそっち側だった。
だから、選ばれなかった悲しみを知っている。
虚しさを知っている。
孤独を知っている。
だからこそ、僕は選びたくない。
いや、選ばない。
どちらも助ける。
どちらも僕が守ってみせる。
そう思った瞬間。
何かが腑に落ちた。
ひっかかってた何かが取り払われ、僕の思考がすっきりしていく。
『必要ない』
僕の言葉に困惑気味のレイカ。
だが、質問に答えている暇はない。今この時も、本の中の世界が脅かされているかもしれないのだ。
僕はこれまでにないほどの大声を。
そんな声を、高々とあげた。
「僕はあなた達を逃がさない。だから、おいで」
「何を言って――」
――招待しよう。
刹那。
その空間は真っ暗に染まる。
何も見えない。何も聞こえない。
そんな暗闇が襲ってきたかと思うと、そこはもう深緑の世界。
僕は、彼らを屋敷ごと本の世界の森の中に招待したのだ。
「こ、ここはどうこだぁ!? 一体何がおこった!?」
ドメーノと私兵はうろたえながらあたりを見回している。
隙だらけだ。
『むしろ、こっちはレイカに任せるよ。僕は、あっちにいく』
目を見開いていたレイカは、僕と目が合うとすぐさま細め口角をあげる。
そして、深々とお辞儀をして僕を見送るのだった。
『いってらっしゃいませ。そして、お気を付けを』
『レイカもね』
本の世界に入ってきてようやく感じることができた。
何かが起っているのは、この世界の中心。皆が住居を構えているあたりだ。




