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プロローグ

 彼はいつも一人だった。

 誰からも馬鹿にされ、誰からも必要とされない。

 それが、エンドという少年だった。

 きっと親にもいらないと思われ捨てられたのだろう。

 物心がついた時には孤児院で暮らしており、日々、生きるために働いている。

 今日も、エンドは薪拾いを一生懸命やっていたが、不意に後ろから衝撃が走る。


「お前は本当にダメなやつだよな! そんなゴミスキル持ってたって、何の役にもたたねぇよ!」


 そう彼を罵るのは、同じ孤児院で暮らしているテオドルという少年だ。

 いつもエンドを見下すと、無慈悲に、無意味に手をあげては足蹴にした。

 今日も、エンドを蹴りつけながら、彼の拾ってきた薪をかき集めている。

 他の孤児院の人間達はそれを見ても何も言わない。

 すでに日常と化しているその光景は、当たり前のものとしてそこにあった。


 だが、エンドはどこか納得もしていたのだ。

 自分の持っているスキル。それがゴミだということは、自分でもわかっていたから。

 自分が拾ってきた薪だって、こうして取り上げられるのは当然のことなのだ。


「捨てられた俺らにさえいらないって言われてるお前って本当に価値なんてねぇよ! ははっ!」


 本当にそうなのだろう。

 エンドは、体中を殴られ、蹴られて全身に痛みを感じながら、自分の運命を呪っていた。

 痛みを避けるように体を丸めていると、気が済んだのかエンドが集めた薪をもって皆は孤児院に帰っていった。


 スキルとは、すべての人間に与えられた希望。

 生きる糧。

 運命を決める歯車。

 人生を指し示す、生まれながら持つ指標なのだ。


 そのスキルが何の役にも立たないゴミスキルだなんて。

 救いがないとはこのことなのだろう。

 来年には十五歳という成人になってしまう。そうしたら、もう孤児院にはいられない。

 この先の人生、どうなるだろうか。

 そんな想いを抱きながら、重い体を引きずりながら孤児院へと帰っていく。


「……なん、だろう」


 いつも通っている山道だが、孤児院に近づくにつれ違和感を感じていた。

 パチパチという音と、焦げ臭さ。

 それと、じんわりと伝わってくる熱。

 彼は、胸騒ぎがして走って帰っていった。すると、そんなエンドの前に、さらなる絶望が鎮座していた。


 煌々と燃え盛る炎。

 皮膚が焼けるように熱いのは気のせいなんかじゃない。

 エンドの前で燃えているのは孤児院だ。

 近くの森の中でボロボロにされて、そして帰ってきたら孤児院が燃えていた。

 

 自分の住んでいる場所。

 生まれてからの全てだ。生きる基盤である孤児院だ。

 それが燃えている現実を目の前にして、エンドは立っていることすらできなくなった。


「どうして……そんな」


 自然と涙が流れた。

 その涙は悲しみだけではない。なにがしかの安堵も含んでいた涙だったように思えた。

 

 エンドは、ぽつんとそびえたつ孤児院が燃えおちていくのをただじっと見ていた。

 自らの無力を感じながら。

 孤独であることを嘆きながら。

 自分にこんな運命を与えた神に怒りを覚えながら。

 そして立ち上がる。

 立ち上る炎の先の、空を見上げて彼は叫んだ。


「どうして!! どうして僕だけがこんな仕打ちを受けなきゃならないんだ!」


 彼は「ブックメイカー」と叫び、手元に一冊の本を生み出した。

 それは、美しい布で装飾されたものだ。


「どうしてこんなスキルなんだよ! 本を生み出すスキルとか! そんなもの聞いたことないんだよ!」


 彼はそれを地面に叩きつけると、一歩躍り出て再び叫ぶ。


「何かが書いてあるわけじゃない! 売りさばこうにも離れたら消える! こんなもの、いったい何の役に立つんだよ! 教えろよ! 教えてくれよ!」


 エンドが叫んでも、空は静かなままであり、孤児院は音をたてながら崩れていく。

 変わらない現実を目の前にして、彼は膝から崩れ落ちた。


「ふざ……けんなよ。こんなスキルじゃない……もっと役に立つ力が欲しかった……」


 再び湧き出る涙は地面に染みを作るも、すぐに熱気で蒸発していく。


「たくさんの仲間なんていらない……たった一人、信頼できる友達が欲しかった……」


 彼は、やり場のない想いをぶつけるように、地面を両手で殴りつける。


「こんな最低の人生じゃない……人並みの……普通の人生が送りたかった、そんなことも願っちゃいけないのかよぉ! くそぉ!! くそおおおおぉぉぉぉぉ!!」


 彼は叫ぶ。

 世界にすべてをぶつけるように、彼の中のすべてを吐き出すかのよう、叫んだ。

 彼の慟哭は空を貫く。

 

 孤児院が燃え落ちていくとともに、その叫びも鳴りを潜めていく。

 泣き疲れて眠ってしまった彼の横では、投げ捨てた本が――


 ぼんやりと光り輝いていた。

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