絶滅した種族
その本棚には沢山の本が並び立ててあった。辞書や図鑑、自叙伝、はたまたなんとも胡散臭い模様の書かれた奇妙な本まで、とにかく乱雑に立てかけてある。
その端に、埃を被り白くなった小さな小さな絵本があった。
「ママー。この絵本読んで!」
「まあ埃だらけ。どこからそんな本見つけてきたの?」
「パパの書斎!」
その絵本の1ページ目には、ふるふると怯えている小さな龍が描かれていた。雷に怯えている。その後ろでニヤニヤとその小さな龍よりもやや大きめの中くらいな龍が笑っている。
「どうしてこの龍は怯えているの?」
「ほら、ここに雷が描かれているでしょ?きっとこの龍は雷が怖いのよ」
「じゃあなんで後ろの龍は笑っているの?」
「ふふふ、それはきっと次のページに...ほら」
次のページには、中くらいの龍が小さな龍を驚かせている絵があった。小さな龍は突然上から出てきた中くらいの龍の顔に驚き毛を逆立てている。そうしてまた次のページをめくると、今度は中くらいの龍は小さな龍に追いかけられていた。小さな龍は怒っている。
「怖がってるのに驚かすなんて酷いよ」
「そうね。でももう小さな龍は雷には怯えてないわよね?」
「あれ?本当だ」
また一枚めくると雷がゴロゴロと光っているのにも関わらず2匹の龍は追いかけっこをしている。中くらいの龍は笑いながら。小さな龍は怒りながら。岩だらけの大地の障害物をどったんばったんと破壊しながら走り回っていた。騒ぎを聞きつけた他の龍がこちらを向いている。
「楽しそうだね」
「今も昔も、子供のやることって変わらないものね」
「え?」
「うふふ、何でもないのよ。さあ次のページを見てみましょう」
子供が少し乱暴に引っつかんでめくると、そこには違うとても大きな龍に怒られる小さな龍と中くらいの龍がいた。そうしてお互いに目を合わせ、中くらいの龍がごめんと呟き、2匹で笑っている。
「なんで怒られてるの?」
「物を壊しちゃったからよ。あなたも、おもちゃを壊したらママが怒っちゃうでしょう?」
「そっか、なら仕様がないね」
「ふふふ、そうね」
最後のページには、沢山の文字と、描かれていた龍の身体の特徴や、どうやって暮らしていたかなどが書かれていた。
「んん?何これわかんない」
「ええっと。そうね、簡単に話すとね。この龍達は大昔、この世界に住んでたの。今の私たちと同じようにね」
「うん」
「そうして、他の生物たちとも一緒に暮らしてたんだけど、ある日人間と大げんかをしてしまったの。戦争が始まってしまったのよ」
母親は文字列を読みながら、身振り手振りで子供に教えていく。子供は目を輝かせながらそれを聞いていた。
「わぁ、大変だね」
「あなたもいつか歴史で習うと思うわ。まあ、それでね、長い間龍族と人間は戦ったの。それはそれは長い間」
「どうなったの?」
ぐいっと、子供が身を乗り出す。ギラギラと黄色い眼を瞬かせ、尻尾を振った。
「もちろん、龍族が勝ったのよ。
そうしてその龍族の生き残りが...私たちのご先祖様なのよ」
母親はギャア、と一声鳴いて、鱗と鋭い爪のついた手を子供の頭に置き、優しく撫でた。
彼らは、二足歩行をすることにより他の生物よりも秀でた頭脳を会得していた。
まるで...かつての人間のように。