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デイアフターに少女は生きる  作者: 秋月散花
3/10

機械人形

『サイカ様、起きて、起きてください』


 間もなく夜が明けるという時に、サイカは、サンクによって叩き起された。窓に貼られたダンボールの隙間から、淡い日光が室内に差す。


「ん......もうちょっと、ねむたい......」

『ちょっと、サイカ様。敵です、機械人形です』

「え......てき?」


 目をごしごしと擦りながらゆっくりと体を起こすサイカ。その手には、しっかりと村田銃が握られていた。


「てき......どこ?」

『外です。数は三体、M67型が一体と、F2型が二体です』

「えぇ......でぶがいるのか......」


 のそのそと入口まで歩き、薄く戸を開く。隙間から吹き込む風が、頬を撫でる。


「わぁ、今日はお天気だ」


 M67型もF2型も、軍用に開発された戦闘特化型の機械人形だ。敵機械人形の位置は、ずんぐりとしたフォルムの重機械人形M67型は、扉から正面に十メートルほど。細身のF2型の機械人形は、M67型からやや左にずれ、およそ十時の方向。残りの一体は、ここからでは姿が確認できない。

 遮蔽物になりそうなものは、ここから近いところに、水素電池のステーションと、天井を支える太い柱。少し離れ、M67型から数メートルという位置に、抜け落ちた天井の瓦礫の山がある。

 まだ地下にガソリンが残っていると考えて、給油機は遮蔽物にしたくない。


「あー、目が覚めてきた」

『良かったです。どうされますか、撃破しますか?』

「うん。目覚めの運動に、ちょっと。カバーしてね」

『承りました。兵装展開』


 ドラム缶のようなボディから、短機関銃が備え付けられた細い腕が伸びる。サイカも、村田銃をしっかりと握り直した。

 最も厄介なのは、全長三メートル、全幅全高四メートルにもなる巨体を、大砲や爆薬をものともしない重装甲に身をかため、あらゆる射撃武器を搭載できる重装備のM67型だが、このモデルは移動しながらの攻撃は出来ないという弱点がある。つまり、M67型が移動している間は、攻撃を受けることは無い。

 火力こそM67型には敵わないが、大柄な成人男性ほどの身長を持ち、人間に似たスタイルの汎用型歩兵機械人形、F2型は、その軽快な機動性が脅威である。


「じゃ、行くよー」


 ガラス戸を蹴破り、勢いよく飛び出すサイカ。すぐに、残りの一体が建物の死角にいた事を把握する。三時の方向で、距離は五十メートルほどだ。

 メインカメラが赤く点滅する機械人形達は、少女の姿を視界に捉えると、耳障りなブザー音を鳴らし、銃火器やチェーンブレードを展開する。

 サイカは、足を止めずに水素電池のステーションまで走る。M67型が放つ重機関銃による弾幕が、サービスルームの窓ガラスを砕く。ガラスとともに、窓に貼られていたダンボールも、木の葉のように細切れにされ、舞い上がった。


『わぁーっ、退避退避ー!』


 水素ステーションの物陰に駆け込んだサイカ。背後でサンクの間抜けた声が聞こえるが、気にはしない。死角にいたF2型がチェーンブレードを唸らせながら一直線に走ってくる。まずはこのF2型から仕留めると、F2型を指差して、サンクに合図をする。

 サンクは短機関銃を、十時の方向、M67型の横で小銃の準備をしているF2型に発砲し、牽制する。機械人形とはいえ、機動性を重視し、装甲の薄い軽量のF2型は、サンクの短機関銃の九ミリ弾といえど、まともに喰らえば無事では済まない。放置車両されたバンの影まで後退する。

 遮蔽物の影に隠れたサイカの様子をうかがうM67型が、武装を収納して移動をはじめたので、サイカはそのタイミングで、チェーンブレードを装備したF2型の懐へ潜り込む。


「せーのっ!」


 F2型は、目標との距離が一瞬のうちに詰められたため、F2型の人工知能は、次の動作を思考しはじめた。しかしそれが終わり、実行に移されるよりも早く、村田銃のマチェットは、地を這う蛇のように滑らかな動きで、F2型の右腕を、下から上へと切り上げた。

 鈍い音を立てて切断された右腕は、装備のチェーンブレード諸共天井にまで吹き飛んだ。回転する刃が、天井に触れ火花を散らす。


「よいしょっ!」


 サイカは、かち上げた勢いを殺さずに、全身でF2型の胴体を薙ぎ払った。右腕よろしく切り離された上半身は、建物の壁に勢いよく衝突し、砕け散り、スクラップと化した。

 その時、サイカの背後で、サンクのものでは無い銃声が聞こえた。

 小銃を含め、ある程度命中精度が安定した武器を扱う機械人形は、皆総じて人間の頭を狙うので、動きを止めさえしなければ、そうそう致命傷を喰らうことはない。

 サイカは、体を大きく捻って、背後から迫る弾丸を回避した。ついでにM67型の様子を見ると、完全にこちらを捉え、攻撃に入ろうと武装ラックを解放し始めていた。

 すぐに村田銃を構え、バンの影からこちらを狙うF2型に一発、素早く排莢して、二発撃った。放たれた弾丸は、どちらもF2型のメインカメラに命中し、F2型は動作を停止した。

 丁度そのタイミングで、M67型が、武装の準備完了を知らせるブザーを鳴らす。今度は、抜け落ちた天井の瓦礫まで走る。

 機関砲特有の、重く、低速の連射音が轟いた。大口径の弾丸は、当たればミンチは免れない。


『スモーク散布』


 後方から少し前進したサンクが、暴動鎮圧用に搭載された発煙弾を発射する。ちょうど、瓦礫の辺りを隠すように煙幕が焚かれた。


「サンク、ありがと」


 サイカは一瞬のうちに、前回M67型を倒した時のことを思い出す。

 その時は山場での戦闘で、パイプ爆弾を使って起こした落石で、土煙を起こした。それに紛れて背後に回り込んで、装甲の隙間にマチェット突き立て、内部を引っ掻き回したのだ。人間で言うところの心臓や脳に匹敵する重要な機関をこねくり回されたM67型は、呆気なく動作を停止した。

 この煙幕なら、同じことができる。そう思って、サイカは立ち上がった。その時だった。


『サイカ様、伏せて!』


 ほとんど反射だった。意識が追いつくころには、私は再び瓦礫の中にうずくまっていた。一瞬前に自分の頭があった位置に、無数の弾丸が集中していた。もしサンクが叫んでいなければ、と思うと、想像しただけで背中に悪寒が走る。

 太い柱の影に隠れたサンクは、爆音の中よく通る声でM67型の様子をサイカに伝えた。


『以前とメインカメラの形状が変わっています。恐らく赤外線カメラか何かを装備しているのでしょう』

「せきが......よく分からないけど、あっちにはこっちが見えてるってことね」

『機関砲が再装填に入りました』

「よし、腹を決めよう」


 サイカは、瓦礫から鉄板を引っ張り出し、頭を守るように斜めに構えて突っ込む。M67型が目と鼻の先で機関銃を発砲するが、鉄板に斜めに当たるため、貫通せずサイカには当たらない。

 M67型の股の間を滑り抜け、背後に出る。しかし、背部の装甲板に、以前は無かったサブカメラと、軽機関銃がサイカに狙いを定めていた。それを、村田銃の銃床で反射的に殴る。軽機関銃の留め具が壊れ、ぶらんとうなだれた。

 胴体にしがみついたサイカは、装甲板の隙間に、マチェットをねじ込んだ。

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