終章:2 ある男からの手紙、そして
二ヶ月後、段々と秋の静けさが訪れ始めた九月中頃のシルバーウィーク。
貴己と果琳の元に、希と望が訪れた。
聞けば、来年度高校生に進学する彼女たちに貴己たちの通う魔導学院から招待状が届いており、貴己たちへの訪問ついでに学校見学をしにきたのだという。
逆じゃないのかと突っ込みを入れる貴己に、本当の目的は預かっている手紙を渡すことだから、と二人は告げた。
そうして渡された手紙は、静からの物。
二枚ある手紙には、感情の吐露と決意が記されていた。
“僕はこの世界が嫌いだった。
僕を見てくれない両親が嫌いだった。
僕を期待に満ちた目で見てくるあの子達が嫌いだった。
僕がこんな運命を辿る事にした世界が嫌いだった。
周りの奴らも、道ゆく奴らも、知らない奴らも、みんな嫌いだった。
自分じゃどうしようもない所で世界が回っていって。
僕を置いて世界は勝手に変わっていった。
誰も僕のことを見てくれなかった。
無力だから。
無益だから。
無能だから。
それでも、僕は諦めたくなかった。
だから、僕はあいつの手を取った。
それくらいしか、僕には残されていなかった。“
“けれど、僕が一番嫌いなのは自分自身だった。
ずっと、その事実を認めたくなかっただけだった。
覚めない夢に浸かっていたかった。
本当にいいのかと、あいつは何度も僕に問いかけてきた。
僕はずっとその声を無視してきた。
だから君に諦めろと言われたのは、正しかった。
それが一番いいんだと、自分でも分かっている。
それでも、僕は諦めたくない。
だから、僕は君の手を取った。
それが、僕の答えだ。
約束を果たせる時まで、どうか待っていてほしい。“
手紙を読み終えた貴己はただ静かにペンを執り、“待ってます”と一文を書き加える。
「悪いけど、静さんにもう一度返してくれないか」
貴己の願いに、しかし二人は首を横に振った。
「それは、わたし達には出来ません」
「……なんで」
そう尋ねようとした時、再び来客を報せるチャイムが鳴った。
「貴己ー、出てー!」
遠く、お茶を出す準備をしている果琳の声が聞こえてくる。
「悪い、ちょっと待ってくれ」
言って、玄関へと向かう貴己は悪戯な笑みを浮かべる希と望の表情に気づかなかった。
「はいはい、どちら様……」
だから、ドアを開けた貴己は立ち尽くす。
そうして完全に固まっている貴己に、銀縁眼鏡の彼は笑って言った。
「約束、果たしにきました」
これにて、一区切りとなります。
ここまで辿り着くのに約2ヶ月でしたがとても楽しく過ごすことが出来ました
またいつか続きを書くかもしれませんので形としては未完として残しておきます。
再び進めることになった時はまたよろしくお願いします