第八話 : あたし、犯人をさがしてみる
どうやら真犯人の目的は、あたしの端末だったらしい。
でも、理由がまったくわからない。あたしの情報なんてせいぜい趣味や食べ物の好き嫌い、今月の予定、壁紙の自撮り写真ぐらいだ。そんなものに価値はないし、どうしてあたしの机にだけ端末を入れたのか、それも謎だ。
だけど、あたしの疑いを晴らすためには真犯人を見つける必要がある。だから祈里ちゃんに手伝ってもらい、電子端末のメッセージアプリに匿名でメッセージを書きこんだ。その内容は――。
「『明日、ロッカーの指紋を警察が調べにくるらしい』――ですかぁ。これでほんとに犯人さんがくるのでしょうか~?」
真歩ちゃんがあくびをしながらきいてきた。あたしたちは今、学校近くの路地裏に隠れている。時間は深夜〇時を回ったところだ。
「たぶんね。指紋を調べられたら正体がバレちゃうから、犯人はロッカーの指紋をふき取りにくると思う」
「でも、祈里ちゃんから連絡がぜんぜんこないです~。さすがに眠くなってきました~」
「ごめんね。でもあと一時間だけ――」
急にスマホが振動した。見ると、別の場所で見張りをしてもらっている祈里ちゃんからのメッセージだ。
「『誰かきた。裏庭』――だって。犯人きたみたい」
「それじゃあさっそく、とっつかまえるですぅ~」
すぐに路地を飛び出し、裏庭の壁に駆けつける。
すると暗闇の中で人影が動いている。小さな人影は長い棒で壁越しに木をつつき、枝に結んだロープを叩き落とした。どうやら事前に用意していたらしい。
あたしたちはそっと近づき、懐中電灯のスイッチを入れた。そのとたん、人影はびくりとして振り返る。その強張った顔は、やはりクラスメイトの一人だった。あたしはその知ってる顔に声をかけた。
「こんばんは。白宮さん」
***
「ごめんなさい……」
近くの公園のベンチに座ったとたん、白宮さんが謝ってきた。あたしは祈里ちゃんに電話をかけて、話が聞こえるように脇に置いてから白宮さんに質問した。
「どうしてこんなことをしたの?」
「実は私、寿々木さんの写真がほしかったの……」
ああ、やっぱりそうか。
白宮さんが犯人だとわかったときからそんな予感がしていた。電子端末に保存していたあたしの自撮り写真は、兄さんと一緒に撮った写真だったからだ。つまり、あまり考えたくはなかったけど、おそらく白宮さんは――。
「もしかして、兄さんが好きなの?」
白宮さんの頭がこくりとうなずいた。ああ、なんだろ。いちおう予想はしていたけど、なぜかちょっぴりイラッとくる。つまりゴールデンウィーク中に感じた視線は、兄さんを見つめる白宮さんだったということか。
「それじゃあ、なんであたしの机に端末を入れたの?」
「あれは違うの!」
うわ。白宮さんの大きな声って初めて聞いた。
「違うって、どういうこと?」
「私、あんな大騒ぎになるなんて思ってなかったの。だからもう一度忍びこんで、みんなのロッカーに『ごめんなさい。もうしません』って手紙を入れたの」
手紙? そんなものはなかったと思う。隣の真歩ちゃんも首を横に振っている。
「じゃあ、白宮さんはあたしの机に端末を入れていないの?」
「うん。そんなことしていないし、シャッフルだって、慌てていたから入れ間違えただけなの……」
ということは、白宮さん以外の別の犯人が手紙を盗んで、あたしの机に端末を入れたってこと? そんなことってあるのかな? でも、白宮さんがうそをついているようには見えないし……。
「ごめんなさい寿々木さん……。私、警察に自首してくる……」
白宮さんの目から涙がぼろぼろと流れ出した。
うん、間違いない。白宮さんはうそをついていない。あたしも警察に捕まったとき、ものすごくこわかった。泣いて逃げ出したいと思った。だけど捕まったらもう逃げられない。だから正直に話した。きっと白宮さんも正直に話している。だから絶対にうそなんかついていない。
「大丈夫。自首なんかしなくていいよ」
「でも……」
「ほんとは白宮さん、あたしの写真だけがほしかったんじゃないんでしょ?」
白宮さんがはっとしてあたしを見た。
「実は祈里ちゃんに詳しく調べてもらったら、みんなの趣味と、食べ物の好き嫌いのデータがコピーされていたの。白宮さん、ほんとはみんなとおしゃべりしたいから、みんなのことを知りたかったんでしょ?」
白宮さんがぼろぼろと泣きながらうなずいた。
やっぱりそうだった。白宮さんは恥ずかしがり屋さんだから、こういう方法しか選べなかったんだ。そしてこんなに臆病で優しい子が、あたしを犯人に仕立て上げるはずがない。
「ねえ、白宮さん。もう一度、みんなに謝ってみない?」
「……え?」
「今度は手紙じゃなくて、別の方法で謝るの。名前なんか出さなくても、みんな許してくれるよ。先生も、お巡りさんだって、絶対に許してくれるに決まっているよ」
「でも、そんなのどうやって……?」
「それはもちろん、もう一度学校に忍びこむの」