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第二話 : あたし、頭の中が謎だらけ



 事件が起きたのは昨日のことだった。



「最近、変な視線を感じるの」



 朝の登校中、あたしは同じクラスの赤銅しゃくどう真歩ちゃんと、倉隅祈里くらすみいのりちゃんに悩み事を話した。昨日までのゴールデンウィーク中、誰かに見られているような気がしたからだ。


「へんな視線?」


 背の低い真歩ちゃんがきょとんとした。ふわふわの赤い髪を短く切った彼女は、仙葉せんよう学園女子中等部に入学して初めてできたお友達だ。


「うん。だけど、振り向いても誰もいないの」


「どこで?」


 今度は背の高い祈里ちゃんが口を開いた。茶色いショートヘアの彼女は淡々とした表情を崩さないクールな女の子だ。


「家から外に出たときかなぁ? スーパーでお買い物したときも感じたけど、これってやっぱりストーカーかなぁ?」



「「すとーかー?」」



 二人が同時に首をひねった。この二人はたまにビックリするほどそういう『ふつう』のことを知らない。まあ、二人とも『妖精』みたいな存在だから仕方ないんだけど。


「えっとね、ストーカーっていうのは『つきまとう変質者』って意味なの。あたし、誰かに狙われているのかなぁ?」



「「自意識過剰?」」



 またもや二人が首をひねった。自意識過剰とは『気にしすぎ』、もしくは『あなたはそんなにかわいくないでしょ?』という遠回しな言い方だ。まあ、この二人はそんなイジワルなことをいう性格じゃないって知っているけど、どうしよう。なんだかちょっと胸が痛い。



「あれぇ? 学校の前にパンダカーがとまってる~」



 急に真歩ちゃんが声を上げた。見ると、校門の前に警察のパトカーが止まっている。たしかに黒と白だからパンダっぽいけど、さすがにパンダカーは初耳だ。よし。あとで兄さんに教えてあげよう。きっと『小説のネタになる』って大喜びするはずだ。



「パトカー?」

「なんだろ?」

「事件でもあったのかな?」



 他の生徒たちも口々に騒いでいる。まあ、中学校に警察がくるなんて滅多にないから当然だし、もちろんあたしもかなり気になる。いったいなにがあったんだろ?


 ――なんて、のんきに考えながら教室にドアを開けたら、お巡りさんの姿が見えてビックリした。思わず一歩下がり頭上のプレートを見る。『一年A組』――うん。あたしたちのクラスだ。


 教室に入り、窓側から二列目、後ろから二つ目の席に腰を下ろすと、あたしの後ろの祈里ちゃんと右隣りの真歩ちゃんも前の方に目を向けた。


 前の壁には大きな電子黒板があり、その脇には三十個の電子ロッカーが設置されている。そのロッカーで、二十五名の生徒の電子端末を保管している。


 電子端末とはすべての教科書とノート、校内の情報共有、生徒同士のメッセージ交換、個人の予定などを記録できる情報端末のことで、学校用のスマホみたいなものだ。そして今、お巡りさんと担任の三沢先生、それと校長先生がロッカーの前で話をしている。


「センセイたち、なにを話しているのかなぁ?」


 真歩ちゃんが首をかしげてきいてきた。


「さあ? でも電子ロッカーがぜんぶオープンしてるのって初めて見たかも。どうやって開けたんだろ?」


 そう。それが謎だ。ロッカーは生徒の指紋認証がないと開かない仕組みになっている。電子端末は貴重品だから授業の前に一列ずつ取りにいって、帰るときに戻すように決められている。それがすべてオープンしているなんて、ふつうはありえない。


「先生なら開けられる」


 あ、そっか。後ろから祈里ちゃんの声が聞こえた。たしかに『マスターキー』を持っている管理者なら開けられる。なんだ。謎なんてなにもないじゃん。



「えー、皆さん。席に戻ってください」



 朝礼のチャイムのあと、三沢先生が手を叩いた。おしゃべりしていた茶色いブレザーたちが慌てて席に戻っていく。



「もうお気づきだと思いますが、皆さんのロッカーが昨日の夜、何者かによって開けられてしまいました」



 え?



「しかも保管されていた端末がバラバラに入れ替えられています。そのため、これから警察の方にすべての教室のロッカーを調べていただきます。皆さんには校長先生からお話がありますので、体育館に集合してください」


 そういって先生が歩き出したので、あたしもみんなと一緒に廊下に出た。


 でも、どうしよう。


 電子ロッカーが開けられた?

 しかも端末がバラバラに入れ替えられた?(シャッフルされた?)

 なにそれ?



 そんなの、どう考えても謎だらけじゃない。




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