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不思議の国のアリス  作者: 大橋むつお
3/28

3『二人のカーネル』

大阪の地理と交通機関に慣れるためアリスは環状線で大阪城にチャレンジした。

電車に乗ると満員でドアが閉まらない。しかたない、次の電車に乗ろう。

そう思って降りると、いっしょに軍人さんが降りてきた!

不思議の国のアリス・3

『二人のカーネル』



「一人で大丈夫?」


 千代子は、最後まで心配してくれた。

「だいじょうぶだいじょうぶ。ほんのそこまでしか行かへんさかい」

「そう……ほんなら気いつけてな。なんかあったら電話してや」

「大丈夫やて、アリスちゃんかて一人で出かけへんと勉強にならんさかいなあ」

 千代子ママが賛成してくれて、やっとアリスは、日本に来て最初の単独行動ができることになった。


「あら、アリスちゃん、お出かけ?」

「はい、ちょっとそこまで」

「そら、よろしいな。気いつけてな」

「おおきに」

 大阪弁の挨拶も板に付いてきた。今のは、先日お葬式で数珠をくれたオバチャンだ。こういうハンナリした付き合いもいいものだとアリスは思った。


 アリスは大阪城に行くつもりだ。

アメリカにはお城が無い。たとえ鉄筋コンクリートであっても、お城はお城。距離的にもお手軽だ。

 千代子の家からだと地下鉄が早いのだが、地理に慣れたいために、わざわざ環状線を使うことにした。


 ちょっとした事件に遭った。


 駅のホームで電車を待っていると、やってきた電車が、意外に混んでいた。

短大生ぐらいの団体さんが同じホームにいたことも災いした。アリスが乗り込んだ車両がいっぱいになってしまって、ドアが閉まらないのだ。

 気づくとドア近くに視線が集中した。アリスもドアの近くにいたので、その視線の方向が分かった。

「あ、軍人さんや」

 アリスは、そう分かると、自分から電車を降りた。気づくと軍人さんもいっしょに降りていた。

「なんで、降りはったんですか。うちが降りたら、それで十分やのに」

「ほう、なかなか大阪弁がお上手だ」

 軍人さんは、にこやかに、でも的はずれの答をした。

「そやかて、おっちゃん軍人さんでしょ?」

「ああ……お国の言葉ならそうなるかなあ」

「陸軍の将校さんでしょ?」

 階級章と、軍服の感じであたりをつけた。

「Ground Self-Defense Forceだよ。ちょっと君のお国とは事情が異なる」

 流ちょうな英語が返ってきた。英語の片岡先生よりもうまい発音に、アリスも、思わず英語で答えた。

「だって、軍人さんは、尊敬される仕事です。ああいう場合は、他の人が降りるべきなんです。だから、わたしは、そうしたんです」

「日本じゃ、なかなかそういう見方はしてもらえなくてね。一般の、それも外国のお嬢さんが降りたのに、制服を着たわたしが乗っているわけにはいかないんだ」

「日本は好きだけど、時々分からないことがあって戸惑います。ああ、わたしアリス・バレンタインです。イリノイ州のシカゴからの交換留学生です。どうぞよろしく」

「僕は、小林一夫です。陸上自衛隊で、給料のわりにはきつい……でも、楽しく仕事やってます」

「よろしかったら、階級教えていただけます? 軍人さんは階級を付けてお呼びしなければ失礼ですから」

「ああ、大佐です。日本ではイッサといいますけど」

「プ……失礼しました。小林一茶と同じになってしまいますね」

「ハハ、大した語学力だ、この洒落がお分かりになるんだ」

「家のお隣がTANAKAさんという日系のオバアチャンがいるんで、子どもの頃から馴染んでるんです」

「ははあ、そのオバアチャンが大阪のご出身なんだ」

「ええ、その通りです。あの、イッサは、なんだか失礼な感じなんで、カーネルでいいですか?」

「そりゃ、光栄だ」

 そのとき、くぐもったアナウンスがあった。アリスは聞き取れなかった。

「どうかしたんですか?」

「三つ向こうの駅で事故があって、しばらく電車は来ないようです」

 そういうとカーネル小林は携帯を取りだし、電話しはじめた。

「……という状況。定刻のヒトマルサンマルには間に合うが、司令には、そのように伝えられたし。オクレ。以上」


 それから、カーネル小林は駅を出てレンタカーを借りた。話を聞くと、兵庫県の部隊の創設記念に来賓として出席するらしく、その話を聞いて、アリスは同行することにした。

 カーネル小林は道の事情に詳しく、カーナビもろくに見ないで、予定時間に目的地に着いた。

 着くと、当たり前のベースだった(アメリカ人として) ちゃんと規律と礼儀があった。


 驚いたことに伯父さんと出くわした!


 伯父さんは東京の大使館の駐在武官をやっている。まさか関西で会うとは思わなかった。

「やあ、アリスじゃないか!?」

「伯父さん、どうして!?」

「出張さ。オレも退役が近いんで、大使が気を利かせてくれて、まあ、関西旅行だな」

 伯父さんも陸軍の大佐。たちまちカーネル小林とも仲良くなった。互いに名前と階級を確認して大笑い。

 カーネル小林は、もう紹介済みだけど、アリスの伯父さんも名前がふるっていた。

 だって、伯父さんのファミリーネームはサンダース。

「退役したら、どうすんの?」

 ミリーが、そう聞くと、伯父さんはウインクしながら答えた。

「シカゴで焼き肉屋をやるよ『カーネルサンダースの焼き肉』っていいだろ!」


 それから式典が始まった。


 アリスは子どもの頃から慣れていたので、特別な感想は無い。ただ、初めてライブで聞いた『君が代』は感動というより、イメージの違いに驚いた。TANAKAさんのオバアチャンが歌うと子守歌みたいだけど、ライブは荘厳だった。

 伯父さんに意地の悪い質問をした。

「さざれ石のイワオとなりてって、意味分かる?」

「TANAKAさんのオバアチャンの言うとおり『チッコイ石が、大きな岩になるまで』という意味だ」

「だって、あり得ないでしょ。石は削られて小さくはなるけど、大きくはならないよ」

「……あり得ないくらい長くって意味だろ。あんまりよその国歌を分析するのは問題だな」

「だって……」

「この周りの日本の人たちは英語が分かるんだ。気をつけなさい」

 伯父さんが、少し真剣な顔で言うのがおかしかった。

「さざれ石がイワオになったのなら、うちのベースにありますよ。よかったら見に来て下さい」

 と、カーネル小林が言った。

「え、ほんとですか!?」


 石が成長して大きくなる? なんだかハリ-ポッターの世界だ!


 やっぱ、日本は不思議の国だ……。


軍人さんはGround Self-Defense Forceの一佐だった。

苗字は小林、だから小林イッサ!? 笑っちゃいけません!

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