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不思議の国のアリス  作者: 大橋むつお
27/28

27『番外編1・天保山山岳救助隊・2』

千代子との再会は、まるで映画のワンシーンのようだった。

不思議の国のアリス・27

『番外編1・天保山山岳救助隊・2』            



「いやー、千代子、どえらいおとなになってしもてからに!」


「アリスこそ、アン・ハサウェイみたいになってしもて!」


 千代子との再会は、まるで映画のワンシーンのようだった。じっさい関空を取材に来ていたテレビのクルーが、機転を利かして取材にきたものだから、周りの人たちは本当にスターが来たのかと思った。

 アリスも、大人の感覚が分かるようになっていたので、リポーターの顔を潰さないように、英語で喋り通した。

 しかし、これが、あとで大きな波紋を呼ぶとは思い至らなかった。


 半年ぶりで、クラーク先生ごと千代子の家にお世話になった。

 クラーク先生は、オバアチャンの部屋の仏壇に興味を持った。

「これは、なんだい。お寺のミニチュアかい?」

 まるでドールハウスを見る感覚で言った。

「違いますよ、これはお仏壇です」

「OBUTSUDAN……?」

「ええと……The family Buddhist altar」

「ああ、そうかい。あの小さいのがブッダかな?」

「あれは、阿弥陀如来です」

「おお、大日如来の化身だね」

「いや、ここは浄土真宗で、大乗仏教ですから、世界そのものの象徴です」


 アリスは、ホームステイしていたころ、近所の住職から聞いた、浄土真宗の教義の説明をした。


「アリスちゃん、ちゃんと伝えられたん。先生、なんか難しい顔してはるで」

 オバアチャンが、心配顔で聞いてきた。


「解脱しなくても救済されるということなんだろうけど……どうも、それが世界の約束というのがわからないんだよ」

「あ、約束ちゃいます。真理です」

「真理!?」

 先生の目が険しくなった。

「ゼロは誰にも見えませんが、誰でも認識できる真理です。それと極楽往生は同じことなんです」

「しかし、極楽とはパラダイスのことだろう。だとしたら、存在、すなわち実存するものだ、実存には限界がある」

 なんだか、話が難しくなってきた。

「人間は、いや、万物は必ず死んだり、壊れたりします。この宇宙さえ膨張の果てにブラックホールとして消滅すると言われています。つまりゼロです。それを民衆に分かり易く表現したものが、極楽なんです」

「うーん……」

 クラーク先生は、ますます難しい顔になった。


 しかし、渡辺家ご自慢のヒノキ風呂に入り、商売モノの美味しい魚を食べ、剣菱のヒヤで上機嫌になった。


「お、クラーク先生とアリスちゃんのことテレビでやってるで!」

 お父さんが、マグロの刺身に箸を伸ばしながら言った。

「すごいやん、世界最高の山と、最低の山を征服する男と、助手のアメリカ女性やて」

「うわー、うちただの学生やのに、どないしょ!?」

「ハハハ、わたしのアタックに日本中が注目だ!」

 先生は上機嫌になり、2万5千分の1の登山地図を広げた。

「先生、天保山やったら、スマホのナビでいけまっせ」

 アリスが訳すと、先生は、こう答えた。


「山であるなら、それ相応の礼儀を持って接するのが、真の登山家です。アリス、君の装備はいいかね?」

 そういうと、クラーク先生は、山の装備点検を始めた。みんな驚いた、チョモランマに登ったときと同じ装備である。


 アリスは千代子に頼んで、近所のオネエサンから、登山用の装備を借りてもらった……。



チョモランマの装備で天保山へ! それが山に対する礼儀なんだ! 分かったかねアリス君!

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