27『番外編1・天保山山岳救助隊・2』
千代子との再会は、まるで映画のワンシーンのようだった。
不思議の国のアリス・27
『番外編1・天保山山岳救助隊・2』
「いやー、千代子、どえらいおとなになってしもてからに!」
「アリスこそ、アン・ハサウェイみたいになってしもて!」
千代子との再会は、まるで映画のワンシーンのようだった。じっさい関空を取材に来ていたテレビのクルーが、機転を利かして取材にきたものだから、周りの人たちは本当にスターが来たのかと思った。
アリスも、大人の感覚が分かるようになっていたので、リポーターの顔を潰さないように、英語で喋り通した。
しかし、これが、あとで大きな波紋を呼ぶとは思い至らなかった。
半年ぶりで、クラーク先生ごと千代子の家にお世話になった。
クラーク先生は、オバアチャンの部屋の仏壇に興味を持った。
「これは、なんだい。お寺のミニチュアかい?」
まるでドールハウスを見る感覚で言った。
「違いますよ、これはお仏壇です」
「OBUTSUDAN……?」
「ええと……The family Buddhist altar」
「ああ、そうかい。あの小さいのがブッダかな?」
「あれは、阿弥陀如来です」
「おお、大日如来の化身だね」
「いや、ここは浄土真宗で、大乗仏教ですから、世界そのものの象徴です」
アリスは、ホームステイしていたころ、近所の住職から聞いた、浄土真宗の教義の説明をした。
「アリスちゃん、ちゃんと伝えられたん。先生、なんか難しい顔してはるで」
オバアチャンが、心配顔で聞いてきた。
「解脱しなくても救済されるということなんだろうけど……どうも、それが世界の約束というのがわからないんだよ」
「あ、約束ちゃいます。真理です」
「真理!?」
先生の目が険しくなった。
「ゼロは誰にも見えませんが、誰でも認識できる真理です。それと極楽往生は同じことなんです」
「しかし、極楽とはパラダイスのことだろう。だとしたら、存在、すなわち実存するものだ、実存には限界がある」
なんだか、話が難しくなってきた。
「人間は、いや、万物は必ず死んだり、壊れたりします。この宇宙さえ膨張の果てにブラックホールとして消滅すると言われています。つまりゼロです。それを民衆に分かり易く表現したものが、極楽なんです」
「うーん……」
クラーク先生は、ますます難しい顔になった。
しかし、渡辺家ご自慢のヒノキ風呂に入り、商売モノの美味しい魚を食べ、剣菱のヒヤで上機嫌になった。
「お、クラーク先生とアリスちゃんのことテレビでやってるで!」
お父さんが、マグロの刺身に箸を伸ばしながら言った。
「すごいやん、世界最高の山と、最低の山を征服する男と、助手のアメリカ女性やて」
「うわー、うちただの学生やのに、どないしょ!?」
「ハハハ、わたしのアタックに日本中が注目だ!」
先生は上機嫌になり、2万5千分の1の登山地図を広げた。
「先生、天保山やったら、スマホのナビでいけまっせ」
アリスが訳すと、先生は、こう答えた。
「山であるなら、それ相応の礼儀を持って接するのが、真の登山家です。アリス、君の装備はいいかね?」
そういうと、クラーク先生は、山の装備点検を始めた。みんな驚いた、チョモランマに登ったときと同じ装備である。
アリスは千代子に頼んで、近所のオネエサンから、登山用の装備を借りてもらった……。
チョモランマの装備で天保山へ! それが山に対する礼儀なんだ! 分かったかねアリス君!




