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不思議の国のアリス  作者: 大橋むつお
25/28

25『不思議の国のレリジョン』

アリスお寺に行く!

不思議の国のアリス・25

『不思議の国のレリジョン』    



☆レリジョン(religion)=宗教


 だけど、日本とアメリカとでは感覚が違うので、アリスの感覚で英語のままとした。


 アリスは、TANAKAさんのオバアチャンから、こんな話を聞いていた。


 芥川龍之介が、なんとかという小説で書いている。ある日、日本の街角でキリストさんと、お釈迦さんが出会いました。キリストさんがため息をつきました。

「ハー……お釈迦はん、なんでやろ。わたし一生懸命にキリスト教広めてまんねんけどね」

「はいはい」

「学校作ったり、病人やら、貧しい人やら、困った人の面倒みてまんねんけど……」

「それが、キリストはんのとこの教えだしたな」

「さいでおます。せやけど、信者があんまり増えしまへんねん」

「そら、しゃあないわ。日本ちゅうのんは、そういう国なんですわ。せやけど、よその国みたいに虐められたりは、あんまりないよって、まあ、ボチボチやんなはれや」

 そう言って、お釈迦さんは涼しい顔をして、行ってしまった……。


 言葉で分かるように、TANAKAさんのオバアチャンが話してくれたもので、芥川龍之介の話そのままだとは思えないが、アリスは、日本に来て実感した。


 平均的な日本人は、子どもが生まれると近くの神社にお宮参りに行く。そこで赤ちゃんの健やかな成長を祈るだけで、信者になるわけではない。クリスチャンなら、牧師さんから洗礼を受け、洗礼名をいただく。アリスの場合バレンタイン・マリア・アグネスなんてのになっている。そして信者になるが、お宮参りはそれっきり。クリスマスもやれば、ハローウィンも平気でやって、お正月には神社に初詣。で、結婚式はキリスト教でやってのけ、死んだらお寺さんの世話になる。

 信心深い外国人から見れば、宗教の冒涜なんだけど、日本は、これが、宗教の有りようなので、アリスはreligionと母国語で考える。


「ほう……ご奇特やなあ。ちゃんと水子さんの事も書いたある」


 和尚さんは、過去帳を開いて感心した。

「納めさせてもろて、よろしいやろか?」

 千代子パパは、真面目に聞いてくれた。

「かましません。同じお西さんや。それにこの田中さんは、どうやら元、うちの檀家らしい」

「え……?」 

 アリスと、千代子パパが、いっしょに驚いた。

「うちのジイサンが、マメな坊主で、戦後行方知れずになった檀家さんのこと記録してましてなあ。この田中はんの住所は、その記録の中におました」

「そら奇遇なこっちゃなあ」

「これも仏縁だっしゃろ……お嬢ちゃん、なんか聞きたそうやなあ」

「え、あ、はい……」

 とっさのことに、アリスはうろたえた。

「お嬢ちゃんとこは、プロテスタント?」

「はい、平凡なバプテストです」

「で、聞きたいことは?」

「なんで日本人は、いろんな宗教掛け持ちしますのん?」

「ううん……日本人は、なんやら清いとか、偉いとか思たら、もう、それが信仰ですねやわ。山がすごい思たら、そこに神さんが居てはる。岩がすごい思たら神さん。ああ、こんなんもあるなあ」

 和尚さんは、チョイチョイとパソコンを操作。出てきた映像を見て、どこかで見たことがあると思った。

「あ、エラスムス! これ、ハイスクールの教科書に載ってます」

「これは四百年前に日本で難破したリーフデ号いうオランダの船の飾りやった。なんか尊い言うんで、貨狄観音さんいうことで祀られた。これだけやない。人間も神さん仏さんになる」

「ああ、菅原道真が天神さん!」

 アリスは、天満のギャル御輿を思い浮かべた。

「そうそう。他にも、明治天皇さんとか乃木さんとか……おもろいとこでは、日本で初めて飛行機こさえた二宮忠八言う人は、飛行機の神さんになったはる」

「トイレの神様いう歌もありましたね」

「せや、わし、あの植村花菜いう子好きやねん」

 千代子パパが、お茶をすすりながら目を「へ」の字にした。

「けど、お寺は、それで、かましませんのん?」

「かめへん。最後は、阿弥陀さんがみんな極楽に往生させてくれはる」

 この理屈は、TANAKAさんのオバアチャンからも聞いた。アリスは、ここだと思った。

「それは、どない証明っちゅうか、説明でけますのん?」

「お釈迦さんが、そない言うたはる」

「……て、それだけですか?」

「はいな。最後の審判も、地獄もあらへん。人間は死んだらお浄土行き」

「せやから、その説明を……」

 千代子パパが、横でニヤニヤしている。

「うーん……数学に例えよか。X=1 Y=1の点は信じられるか?」

「はい」

「ほな、書いてみい」

 和尚さんは、新聞の広告の裏に、X軸とY軸のグラフを描き、目盛りをいれた。アリスはX=1 Y=1から線を延ばし、点を打った。

「はい、これです」

「……ちゃうなあ」

「どこが、ちゃうんですか!?」

「点というのは面積があらへん。あんたのは一ミリ平方ほどの面積がある」

「それは……」

「面積を持たへんもんは、存在の仕様がない。せやけど、ある思て信じてるやろ。ゼロもそうや。ゼロはなんにもなしいう意味や。せやけど今の人間は、だれでもゼロを有るもんやと思とる」

 アリスの頭の中で、ビビっとくるものがあったが、すぐにどこかに行ってしまった。

「ちょっと、分かりかけたみたいやな」

「あ……う」

「人間はみんな死ぬ。アリスちゃんは人間や。せやから、アリスちゃんもいずれ死ぬ……せやな」

「……はい」

「そこにお浄土行きを加えたらreligionとしての仏教が分かる……アハハ、もうこのくらいにしとこか」


 それから和尚さんは檀家周りに行くので、アリスと千代子パパもお寺をあとにした。

 外は晴れ渡っていたけど、風が強かった。

「春一番やなあ」

「春はライオンのようにやってきて羊のように去っていく……とも言いますね」

 日米それぞれの感想。

 見上げた空には、音もせずに(なんせ風の音がライオンなので)白いジェット機。


 明日、アリスは、それに乗ってアメリカに帰る……。



そろそろアリスの留学もおしまい……

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